第37話 ミニッツ、百万倍返しの秘策

 それから1か月が過ぎたある夜に、晴人の手を握りしめたままソフィーナがベッドの上で、

「晴人さん、素晴らしい国名が決まりましたね。『天の使徒の国』。私はとても気に入りましたわ。晴人さんも天の使徒、私も天の使徒、死の『骸骨の森』の皆も天の使徒。だから、『天の使徒の国』ですわ。ウフフ。ねえ、晴人さんに折り入ってお願いがあります。」


「何のお願いなのかな?」


「死の『骸骨の森』の森の呼び名を『天の使徒の森』に変えてくださらないかしら。皆、必死でこの国のために尽くしているのだから死の『骸骨の森』ではかわいそうです。だからせめて、『天の使徒の森』に変えてあげてください。」


「おおー!ソフィーナ、素晴らしい案だよ。ソフィーナは、字が美しいから、それを油性のペンキを使って、立札に書いてくれないかな。俺がそれを物体再現魔法を使って増やして、全ての場所に建てるように命じるからさ。」


「いいですよ。何だって善いことは協力しちゃいます。キャハ。」


「よし、ソフィーナ、これから2回目をしよう。」


「生理が終わってからの2週間前後はたくさんしよう。俺もソフィーナの赤ちゃんが欲しい。」


「はい。じゃあ、私をたくさんお食べください。」


「では、いただきます。」




 翌朝、ソフィーナは早速、立札に文字を書き、モンスターズの協力をもらいながら国中の至る所に立札を立てた。国民もこれまでのモンスターズの功績を認めているため、喜んで賛成してくれた。国民の喜ぶ様子を見ていた晴人に、ミニッツから念話が入った。


「パッ。」


「おう、ミニッツ。参りましたよ。」


「晴人さん、キリマンジャロをどうぞ。」


「ありがとう、ミニッツ。」


「晴人さん、我々は今回、残忍で卑劣なプージン皇帝の特別暗殺作戦によって、血の涙を流しました。決して許される行為ではありません。決して許してはならないのです。そして、晴人さんと私は、残忍で卑劣なプージン皇帝に対して、百万倍返しを誓い合いました。今がそのときです。捕らえた捕虜の派遣されてきた国名を調べ上げると、ロジア大帝国を除く、5か国の帝国軍全ての狙撃兵たちばかりでした。そこで、ユニバースソードに付与されている『幻惑・幻覚・幻視・幻聴・思念伝達操り魔法』を使って、百万倍返しのスタートを始めましょう。」


「ミニッツ、具体的に分かりやすく教えて欲しい。『幻惑・幻覚・幻視・幻聴・思念伝達操り魔法』とは何だ?」


「はい、捕獲し捕虜60名は全てロジア大帝国の以外の帝国軍の混成による狙撃部隊です。ロジア大帝国のは卑怯にも自国の狙撃手を1人も派遣しておりません。捕虜の国籍を厳密に調べましたところ、キムジョン帝国の狙撃手が6名、ジャイナ帝国の狙撃手が23名、イスラルド帝国の狙撃手が9名、ベラルシ帝国の狙撃手が13名、アルメディア帝国の狙撃手が9名です。具体的にいうと『幻惑・幻覚・幻視・幻聴・思念伝達操り魔法』とは一人ひとりの狙撃手に、狙撃するターゲットは本物の敵だと魔法で思い込ませて、狙撃させるのです。例えば、キムジョン帝国の6名全員の狙撃手には、転移魔法を使って、ロジア大帝国の首都にあるロジア大帝国城のプージン皇帝を本物の敵であると念頭操作し、幻惑や幻覚、幻視、幻聴、思念伝達を使って狙撃させるのです。また、ジャイナ帝国であれば、18名もの狙撃手を転移させ、プージン皇帝の命を狙わせます。併せて、隣国のイスラルド帝国の国王を5名の兵士で狙撃させます。また、ベラルシ帝国であれば、イスラルド帝国の狙撃手3名とアルメディア帝国の狙撃手3名から命を狙われます。ベラルシ帝国の狙撃兵は転移して、プージン皇帝を9名の兵士が命を狙い、4名の兵士はイスラルド帝国の国王を4名で狙うのです。」


「おおー!ミニッツ、そのような魔法があったのか。そして、そのような使い方をして、帝国軍全てを疑心暗鬼にさせて、帝国軍同士の共倒れ戦争を始めるわけだな。」


「彼らの軍服は、派遣された自軍の軍服のままです。例え、狙撃されたとしても、どこの国の狙撃兵なのかが判明します。さすれば、当然、その国同士の戦争に発展します。」


「ミニッツ、『スパイアカダニ』と『スパイカメレオンフライ』からの情報では、プージン皇帝は地下1階に親衛隊を配置させ、地下2階には、鉄砲部隊を配置させ、自らは鉄の壁でできた地下3階で寝ているそうだ。暗殺は困難だろうな。」


「はい、しかし、ロジア大帝国にだけは45名もの他国の狙撃手が攻撃に出向くでしょうから、パニックになるのは必定。また、この45名の狙撃手だけは、この『天の使徒』が本国であるとインプットさせております。簡単にマトにならず攻撃が続けられるように、超高速攻撃魔法と敵の弾丸をスローモーションでとらえる高速物体スロー再生魔法、空間飛行魔法、透明化魔法、防衛用バリア魔法まで付与してあります。彼ら45人は、我が国の兵士になったと考えて下さい。『幻惑・幻覚・幻視・幻聴・思念伝達操り魔法』を解かぬ限り、『天の使徒』の兵隊であるとの認識を持ちづ付けます。彼らには次元収納ストレージも渡してありますが、中身は『カラシニコフAK22ライフル銃』が3丁と弾丸が10万発です。『カラシニコフAK22ライフル銃』には破壊力があります。これでおそらく、また、城が半壊するでしょう。これでロジア大帝国の軍事力を4分の1にすることができると考えます。それこそが狙いです。また、第二、第三の百万倍返し作戦がありますので、そのときにご説明いたします。」


「ミニッツ、頼もしい限りだ。まずは、第一弾の百万倍返し作戦の実行を開始してくれ。」


「了解しました。それでは、これより第一弾の百万倍返し作戦を実行します。」


「それでは、我が国の狙撃部隊、出撃開始!」


「スッ。」

「スッ。」

「スッ。」

「スッ。」

 60名もの狙撃手がそれぞれの目的地に転移した。



「ミニッツ、俺は一般の人間や多民族の者たちを戦場に出したいとは思わない。ユニバースソードを持つ『モンスターズ』30万人と共に、闘いたいと考えている。そこで、これからの半年間で『モンスターズ』全員に『天下無双の薩摩示現流』を徹底的にたたき込もうと思っている。その半年間、俺は付きっきりで彼らに『薩摩示現流』を教えたいんだ。白兵戦になっても負けることはない。ミニッツ、頼む。わがままを言っているのは、十分に承知している。火魔法や風魔法、雷魔法、レーザービーム魔法を上空から放てば、勝負は簡単だ。だが、『モンスターズ』にどうしても『天下無双の薩摩示現流』を教えることで、後世に伝えていきたいんだ。」


「分かりました。その代わり、半年間だけですよ。その半年間で、私も他の策を考えておきます。防衛も任せて下さい。」


「ミニッツ、すまない。よろしく頼む。」


「分かりました。」



 それから、晴人は、『天の使徒の森』へ出かけ、30万もの部下を集合させ、「薩摩示現流」を教え始めた。その中には、ソフィーナとヴァイオレットの姿もあった。

朝5時から練習を初め、日が落ちるまで練習は続いた。最初の頃は、「ブーン!」という素振りの音だったが、それが徐々に、「ブン!」に代わり、千人に一名の割合で「ブッ!」という素振りの音を出すものが現れた。


 晴人は、第1班から第7班という名称を、第1隊から第7隊という名称に変えた。

第1隊隊長の晴人タイガー、第2隊隊長の晴人フェンリル、第3隊隊長の晴人ブラックドラゴン、第4隊隊長の晴人レッドドラゴン、第5隊隊長の晴人メタリックドラゴン、第6隊隊長の晴人ゴールデンナイト、第7隊隊長の晴人ゴールデンゴーレムの習得は驚異的に早かった。7名の隊長をコツをツカむのが早く、わずか1か月間の練習で、「蜻蛉トンボの構え」から「ブッ!」という素振りをマスターした。


 晴人は、薩摩示現流の基本の構えである「蜻蛉トンボの構え」から「ブッ!」という素振りができるものを300名選び出し、その者たちを指導者に抜擢バッテキし、指導に当たらせたが、わずか6カ月でマスターできる可能性は極めて低かった。そこで、晴人は、最初から素振りをさせた過ちに気付いた。以前、ソフィーナに示現流の基本動作を教えたときのように、蜻蛉トンボの構えから超スローモーションで素振りをさせ、切っ先と腕の軌道を木刀でなぞらせる練習を思い出した。


 それを全指導者に伝え、超スローモーションからの体重移動や右手の突き出し、左手の引きの動きの悪い点を修正させるとともに、刀の軌道が遠心力から逆らった動きをする者たちに指導者がアラカジめ差し出した木刀に沿って振るように指導させたところ1か月半で成果が現れ出した。晴人は父のアキラから「物理学や人体力学と体重移動、遠心力、腕力、握力、つまり科学なんだよ、示現流は。」という言葉を思い出していた。

 

 晴人が驚いたのは、ソフィーナの上達の速さだった。下半身の筋肉が発達しているため、重心移動がすさまじく速い。そして、蜻蛉トンボの構えからから振り出される木刀の剣先の軌道が百回中全て同じだった。晴人は、ソフィーナにも指導者に任命し、ヴァイオレットやモンスターズの指導に当たらせた。すると、ソフィーナに指導された者たちはみるみるうちに上達し、最速最強の素振りをするようになった。ヴァイオレットも例外ではなかった。


 残りの2か月で、晴人は抜刀術を教えた。まず、晴人は2mほどある岩石を浮遊魔法で『天の使徒の森』の広場に置き、その実演を見せた。


「皆に、最後の奥義を教える。薩摩示現流居合術だ。抜刀術ともいう。みんなの方を向いて斬るからよく見ておくように。」


 晴人は腰をかがめると、魔法を解いたユニバースソードに手をかけた。その手をかけたと同時に、


「スッ。」


「パッ。」


 2mの大岩が一直線に斬られた。


「オオーッ!」

 30万の部下たちがどよめいた。


「おい、今の見えたか?」

「いや、我がアルジが刀のツカに手を触れた瞬間は見えたが、刀は見えなかったぞ。」

「我がアルジは、ユニバースソードに魔法は付与していなかったよな。」

「うん。確かに刀だけだったぞ。」

「おい、モンスターズの中でいちばん目がいい晴人オジロワシよ、お前には見えたのか?」

「俺は、千分の一秒まで刀の動きが見えるんだが、見えなかったぞ。」

「なんてこった!」

 この会話を聴いていたモンスターズからさらにどよめきが起きた。


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