第36話 プージン皇帝の特別暗殺作戦 Ⅲ

 各国に派遣されたモンスターズの全ての部隊長から報告を受けた2時間後、第4班のレッドドラゴンから念話が入った。


「我がアルジ、1万kmに及ぶありとあらゆる『万里の長城』からかぎ爪を用いてよじ登ってきた状況確認部隊の敵兵は合計240名でした。そのうち220名は斬り捨てましたが、残り20名は将校と思われるバッジをつけておりましたので、捕虜に致しました。」


「レッドドラゴンよ、ご苦労であった。すまぬが、その20名の将校にタングステンの手錠とワイヤーロープでつなげたままで、パルナ・パーニャ共和国に転移してもらえないだろうか?それから、引き続き、万里の長城を見張っているモンスターズのメンバーには万里の長城の見張りを継続させてくれ。」


「かしこまりました。見張りを強化するように命じておきます。」


 その5分後、


「パッ。」


「レッドドラゴンよ、ご苦労であった。おヌシに苦労を掛けてしまうが、おヌシの次元収納ストレージの中に、最上級の牛肉と酒をたっぷりと入れておいたので、死の『骸骨の森』に持ち帰り、皆で打ち上げをしてほしい。今日のお礼だ。」


「それから、『万里の長城』の守備隊長の名前を教えてくれないか?」


「はい、第1班晴人タイガー部隊所属の晴人グリズリーベアーです。」


「ありがとう。では、そなたも死の『骸骨の森』へ帰還し、皆で打ち上げを楽しんでくれ。」


「ハハーッ。」


「パッ。」



「第1班晴人タイガー部隊所属の晴人グリズリーベアーか?」


「はい、そうであります。」


「大和晴人だ。見張りは疲れるだろう。全部で何名で見張りをしておるのだ?」


「はい、8000名です。」


「ご苦労をかけたな。今から見張りをしなくてもいいように。全ての『万里の長城』に『防衛用バリア魔法』を施すゆえ、任務を解いてよいぞ。そなたの次元収納ストレージにお礼として、日本の最高級和牛の肉と最高級の酒を数種類入れるあるからな。物体再現魔法を使って増やせば、30万の部下全員にいきわたるだろう。焼き肉用のタレも入れておいたからな。肉も、酒も、焼き肉のタレも、バーベキューコンロも必ず、各自が責任をもって物体再現魔法を使って、増やしてから食べるのだぞ。いいな。」


「ハハーッ。有難き幸せに存じます。」


「では、死の『骸骨の森』でバーベキューで打ち上げを楽しんでくれ。」


「ハハーッ。」



「ミニッツ、善後策としてはこれでよいのだろうか?」


「はい、これでよろしいかと存じます。『防衛用バリア魔法』を全体に張り巡らせておりますれば、敵は侵入してくることはまずあり得ません。」


「ミニッツ、俺がもっと早く『防衛用バリア魔法』を全体に張り巡らせておくべきだった。悔いても悔やみきれぬ。晴人さん、お気持ちは私も同じです。必ず百万倍返しで仕返しを致しましょう。今は、それのみを考えて策を講じましょう。それから、ロンバルド国王陛下とロンバルド女王陛下が死去された件は、ソフィーナ女王にお任せした方がよろしいかと存じます。同じ同性同士の方が、悲しみと苦しみと怒りを共有しやすいからです。」


「ミニッツ、ありがとう。ソフィーナに伝えに行ってくるよ。」


「はい、そうしてください。私は軍師の間で新しい戦略を練っておきます。何かありましたら、お呼び出し下さい。」


「うん、ありがとう。」


「ソフィーナかい?ヴァイオレットさんと一緒かい?」


「はい。ソフィーナに折り入って頼みがあるんだ。」


「晴人さんのお考えは、承知いたしておりますわ。ヴァイオレットちゃんには、ワタクシが事実をありのままにお伝えします。そして、ヴァイオレットちゃんの深い悲しみと苦しみと怒りを私が受け止めて差し上げます。どうぞ、私にお任せください。ヴァイオレットちゃんの涙がかれるまで泣いてもらいます。そして、彼女の深い悲しみと苦しみと怒りの上に立って、それでもなお、前を向いて立ち上がる勇気を伝えたいと存じます。」


「すまぬなあ、ソフィーナ。」


「晴人さん、何を申しているのです。いちばんお辛いのは晴人さん、あなたであることを私は知っていますよ。あなたの悲しみと苦しみと怒りと後悔の念の半分を私にわけてくださいね。」


「グスン。ありがとう、ソフィーナ。当分の間は、ヴァイオレットさんのそばにいてあげてくれ。」


「はい、了解いたしました。」



 すると、晴人は晴人タイガーと晴人フェンリルを伴って、ミニッツのいる軍師の間を訪れた。

「コン、コン。晴人だ。ミニッツ、入ってもいいか?」


「どうぞ、お入りください。おお、晴人タイガーと晴人フェンリルも一緒ですね。」


「ミニッツ、今後とのことについて話し合いに来た。」


「了解いたしました。3名とも、どうぞ、ソファーに腰かけて下さい。」


「お飲み物は?」


「キリマンジャロで。」


「我ら2名もキリマンジャロで。」


「パン、パン、これ、ルーナ、キリマンジャロを4名分頼む。晴人さん、このルーナは信頼のおける者ですので、ご安心を。」


 4名は、キリマンジャロを飲みながら今後のことについて話し合った。

「晴人さん、まず、戦後処理ですが、各国に生き残っている最高権力者に国葬を上げてもらいましょう。その依頼は、私が引き受けます。それに先立って、私が、7か国の城跡地に転移魔法陣を設置いたします。かなり大きな魔法陣を設置します。これで一般人も他民族の者たちも瞬時に行きたい場所へ移動できます。」


「うん、戦後処理の第一はやはり国葬だな。使者をトムラう必要がある。」


「次に、国防ですが、防衛用バリア魔法は必要です。これさえあれば、敵の侵入は防げたわけですから。次に、情報戦争です。情報入手については、常に帝国軍の百万歩先をゆきましょう。帝国軍との情報と位置と映像を全て掌握いたします。晴人さん、この戦略はあなたの父上である彰様が考案なさった戦略なんです。」


「なに!父上が!」


「そうです。晴人さんの部下には、『アカダニ』と呼ばれるものがおります。彼らは敵国の城に潜入して、様々な場所から特定の電波を発信します。それによって、プージン皇帝の居場所も特定できるのです。とても小さい虫ですので、プージン皇帝の靴の土踏まずの場所や軍服などすべてにヒソむことが可能です。それから、『カメレオンフライ』は、蚊の一種ですが彼らの優れているところは、現在進行形の映像を撮り、晴人さんの脳に送ってくれるところです。彼らは有能です。無駄な映像は送って来ません。また、晴人さんと私の必要とする映像のみを送ってくれる能力をもっています。」


「ミニッツ、俺にはとても有能な部下がいたんだな。」


「たかが虫ですが、彼らは、それぞれ六百憶匹ずつおります。私がすぐにリーダーを召喚しますので、名前を付けて直属の部下にしてください。では、召喚します。」


「パッ。」

「パッ。」


「私は、『天』の使徒であるパルナ・パーニャ共和国の大和晴人である。そなたらに私の直属の部下になってもらいたい。よいか?」


「ハハーッ。」

「ハハーッ。」


「では、『アカダニ』には『スパイアカダニ』と命名しよう。『カメレオンフライ』には『スパイカメレオンフライ』と命名しよう。」

 すると、2匹に虹色の光線が放たれ、晴人の頭から虹色のオーラが2匹の体の中に入って行った。


「ミニッツ、彼らに何と命じたらよいのだろうか?」


「それは、私に命じさせてください。」


「晴人様の命令を伝える。まず、『スパイアカダニ』、6か国の帝国軍の城に潜入せよ。次に、『スパイカメレオンフライ』、6か国の帝国軍の城に潜入せよ。『スパイアカダニ』は、5百億匹をロジア大帝国に潜入させ、後の百億匹は、均等に分けて各帝国に潜入させてくれ。同じく、『スパイカメレオンフライ』も5百億匹をロジア大帝国に潜入させ、後の百億匹は、均等に分けて各帝国に潜入させてくれ。」


「『スパイアカダニ』、『スパイカメレオンフライ』、褒美は何が良いか遠慮なく申してみよ。」


「ハハーッ。『スパイアカダニ』と『スパイカメレオンフライ』は動物の血を好みます。いつも死の『骸骨の森』の野生の動物の血を吸っております。」


「分かった。モンスターズの部下に命じて、次元収納ストレージで届けさせるゆえ、皆で飲んでくれ。」


「ハハーッ。有難き幸せです。ありがとうございます。」


「では、早速、行動に移せ。」


「イエッ・サー!」

「イエッ・サー!」


「スッ。」

「スッ。」


「ミニッツ、協力ありがとう。助かったよ。」


「いいえ、どういたしまして。」


 

 その後、パルナ・パーニャ共和国以外の6か国では国葬が行われ、多くの市民が弔問に訪れた。それから1か月後に、各国の有力者が集まり、今後の国家運営に関する話合いが行われた。その結果、旧東方諸国連合と旧南部諸国連合と死の『骸骨の森』を併せて、1か国に併合することに決まった。国名は、晴人がパルナ・パーニャ共和国を冠する名称に否定的だったため、話し合いは進まず、次回の会議へと持ち越しとなった。


「なあ、ミニッツ。俺にはどんな国名にすればいいのか全然思い浮かばないよ。」

 

「晴人さん、この惑星では『天』のことを『ホワイトドラゴン』という名称で知っている者はおりません。いっそのこと国名を『天の使徒』にしてはどうですか?」


「うん。それにしよう。この惑星で最も恐れられているのが『天』であり『天』の使徒だ。これで決まりだ!」





 ちょうどその頃、6か国帝国軍事同盟軍は、ロジア大帝国の首都モスクワナで会議が開かれていた。やはりプージン皇帝の独壇場であった。

「なぜ、スパイ暗殺部隊が一人も帰ってこないのじゃ!なぜじゃ!おい、アルメディア帝国、ベラルシ帝国、イスラルド帝国、ジャイナ帝国、キムジョン帝国、我々は確かに6か国の帝国軍の混成部隊を作って派遣したじゃろう!なぜじゃ、なぜ一人も帰って来んのじゃ!しかも、状況確認部隊まで送り込んだというのに誰一人として帰って来ぬではないか!いったいどうなっておるのじゃ!」


 一人で怒り狂うプージン皇帝に誰も言い返せぬ状態のままだった。






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