第30話 凶悪サイコパス「プージン皇帝」

 7か国軍事同盟の会議は閉会したちょうどその頃、ロジア大帝国にも5か国の帝国軍の国王とその参謀が集結し、軍事会談を開いていた。


 ロジア大帝国のプージンは自らを皇帝と称し、プージン皇帝と名乗っていた。彼はゾレン連邦国のゴルバーチョフ国王とその一族、さらには側近とその一族を皆殺しにし、将軍たちを軍資金で取り込み、クーデターを起こした張本人であった。彼は、自分にとって都合の悪い人物は直ぐに暗殺するため、国民たちから「凶悪暗殺者サイコパス」と呼ばれるほど恐れられており、ニタニタ笑いながら平気で人の首を斬り落としたり、突然、隣の席に座っている国王にピストルを向けて頭を撃ったりするなど無慈悲かつ理不尽で残虐な暴君であった。


 彼が、ゾレン連邦国のゴルバーチョフ国王とその一族を抹殺マッサツするや否や、国名をゾレン連邦国からロジア大帝国に変更し、自らをプージン皇帝と名乗るばかりでなく、各国の帝国にもそのように呼ぶように命令するほど傍若無人な振る舞いを平気でする人物であった。


 プージン皇帝は、国民たちから陰で「凶悪暗殺者サイコパス」と呼ばれているという報告を諜報チョウホウ員から聞いた時、「俺は国民からそう呼ばれたかったのだ!俺は皇帝だぞ!嫌いな奴は全て暗殺だ!ワーハハハ、ワーハハハ!』」と嬉々として喜んだという。実際にプージン皇帝は、ロジア大帝国を仕切るようになってから、まず着手したのはスパイ暗殺部隊の強化であった。ロジア大帝国が「フリースランド大陸」の2分の1の国土をもつようになったのは、ロジア大帝国の近隣諸国計6か国の国王を暗殺し、陸軍大将などの将校の家族を人質に取り、それらの軍事関係者を味方につけてクーデターを起こさせ、6か国を手に入れていた。その6か国には、プージン皇帝の命令に背かない配下を領主として任命し、統治させていた。


 プージン皇帝は、意外にも計算高く知能が高かった。その証拠として、農民に課す税金の割合を3割に設定したため、農民に転職するものが多く、新しく開墾する者たちが増加した。しかし、その裏には仕掛けがあり、一度戦争が起きれば、15歳以上の農民男性は兵役に就き、兵士として戦地に赴かなければならなかった。そのため三百万人もの軍事力を有していたのである。


 また、プージン皇帝は科学を重視し、新しい兵器開発に国力をあてた。一度は、パルナ・パーニャ共和国の大和晴人国王に、長距離大砲の向上を破壊されたが、その反省を生かし、地下深くに工場を建設し、長距離大砲だけでなく、砲門を3門備えた長距離大砲の開発にも着手していた。プージン皇帝は「天」の存在を否定する人間至上主義者であり、「天」や神、多民族の存在を決して許さなかった。



 6か国の帝国軍軍事会議とは名ばかりで、ほとんどがプージン皇帝の独壇場であった。

「6か国帝国軍事同盟の諸君よ、我は、パルナ・パーニャ共和国の『天』の使徒と名乗る大和晴人国王を5年以内に必ず暗殺する。そのため、スパイ暗殺部隊をさらに強化する。ずっと付け狙って5年以内に必ず暗殺してやる。また、7か国軍事同盟の国王だけでなく、王女やその一族を暗殺し、俺の恐ろしさを植え付けてやる。したがって、そなたらは我に力を貸せ!運動神経に優れ、頭脳が高く、暗殺に長けた者を各国から200名、ロジア大帝国に派遣してほしい。我々がその者たちをさらに訓練し、暗殺のスペシャリストを育て上げる。


 それから、5年以内に長距離大砲を増産し、3門長距離砲を開発する。増産に成功すれば、6か国帝国軍事同盟の国々全てに渡そうではないか。そして、一気に7か国軍事同盟国に侵略戦争を仕掛け、あの多民族を認める国家の人間や多民族どもを一人残らず、この世から抹殺するのだ!よいな!」


「ハハーッ。」

「ハハーッ。」

「ハハーッ。」


「ヂャイナ帝国、習遠平シュウエンペイ国王よ、7か国軍事同盟に侵略戦争を仕掛けるときは頼りにしているぞ。我が開発済みの長距離大砲と3門長距離砲の設計図を渡しておこう。地下に軍事開発基地を造り、そこで3門長距離砲を造るのじゃ。ヂャイナ帝国には5年後の戦争の折は先鋒を任せる故、頼んだぞ。」


「ハハーッ。」


 このプージン皇帝の晴人と7か国の国王一族を狙った暗殺計画は、後に大きな悲劇を招き、禍根カコンを残すことを誰も知る由もなかった。





 それから4カ月後、遂に大型貨物列車のレールや鉄橋が完成し、7か国軍事同盟の国王や女王、王子、王女たちや各首脳陣たちが大勢集まり、ロンバルド共和国の首都ロンバルドのロンバルド駅で出発式が行われようとしていた。終点はコアベイル連邦国のコアベイル駅であった。


 パルナ・パーニャ共和国からは、大和晴人国王やソフィーナ女王、セオドア上皇、エリス上皇后、ボレロたち首脳陣の他に、死の「骸骨の森」の獣人たち30万を新たに「モンスターズ」と命名し、その30万もの「モンスターズ」全員が空から見守る中での出発であった。


 出発に先立ち、パルナ・パーニャ共和国を代表して、晴人が「大拡声器魔法」を用いてスピーチを行った。

「皆さん、待ちに待った大型貨物列車鉄道が遂に完成いたしました。また、それに先立ち、7か国の防衛の拠点となる『万里の長城』も完成いたしました。この数千年という長い間、忌み嫌われ、人を遠ざけてきた死の『骸骨の森』の30万人の獣人たちの力がなければ、この偉業は達成できなかったでしょう。彼らは、『天』の使徒である私の大切な部下たちです。空中に集まっている『モンスターズ』全員に感謝の気持ちを込めて拍手をお願いいたします。」


「パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ。」


「皆さん、盛大な拍手をありがとうございました。これからは『モンスターズ』を同士と呼び、友と呼んで下さることを心より期待いたしております。この大型貨物列車鉄道で今後、様々な食糧や商品や資源や人の交流が盛んになります。新時代の革命のシンボルともいえる大型貨物列車鉄道です。そして、我々7か国はますます豊かになり、強くなると確信いたします。そして、食料や資源を結び付けるだけでなく、国民一人ひとりの心も結びつけるものと期待して、最後の言葉といたします。」


「それでは、出発進行!」


「ピー!ゴットン、ゴットン、ゴットン、ゴットン、ゴトン、ゴトン、ピー!」


 その場にいる百数十万もの人間や多民族、モンスターズ全員が大型貨物列車が見えなくなるまで見送ったのであった。

 その中に、一人の美しい女性が晴人を見つめ続けていた。彼女はロンバルド共和国の第一王女、ヴァイオレット姫であった。金髪をしており、スタイルが抜群で、瞳が透明なブルーであったため、一度、出逢ってしまった人はその瞳の輝きに魅せられてしまいその存在と名前を忘れられないと言われていた。国民たちからも敬意の念を込めて「ロンバルドの青い宝石」というニックネームで呼ばれていた。


 その彼女は、キムジョン帝国が侵略戦争を仕掛けて来たときに、国王たちとはぐれてしまい逃げ遅れ、敵の鉄砲隊に囲まれていた出来事があった。そこに現れたのが晴人だった。晴人は、十数名いる鉄砲隊を薩摩示現流で瞬時に斬り倒し、「そこのお嬢さん、早く走って逃げなさい!それとも、俺が抱っこして逃げようか?」と微笑みながら声を掛けてくれたときのことをずっと覚えていたのだった。晴人に自分の命を救われるより先に晴人の微笑みを見た瞬間、彼女の心は鷲掴ワシヅカみにされたのだった。


 それからというもの、ヴァイオレットは、長い恋煩コイワズラいになってしまい、元気を失っていった。そして決定的だったのが、晴人がソフィーナと結婚しているという事実であった。何も食べなくなったヴァイオレットを案じた女王が


「ヴァイオレット、あなたの変化には気付いていましたよ。あの侵略戦争のときにあなたの命を救ってくれた大和晴人国王に出逢ってから、あなたは変わりましたわね。

決して一人で苦しんではなりませんよ。あなたには私が付いています。どれだけ苦しいのか話せば、少しは楽になるのですよ。」


「お母様、私は大和晴人国王を愛してしまいました。でも、ソフィーナ女王という素敵な方と結婚していましたわ。私はこれからいったいどう生きて行けばいいのか分かりません。これほど人を愛したことがないのです。」


「ヴァイオレット、この世界の慣習では、一夫多妻が普通です。大和晴人国王陛下以外の国王は、側室を8人持っていらっしゃる方もいます。夢をあきらめてはいけません。この件は、私に任せておきなさい、いいわね。」


「はい、お母様。」



 そして、ヴァイオレットは再び晴人と出逢う機会を得たのだった。



 その夜、ロンバルド城で各国の国王や女王、首脳陣を交えた歓迎式典が行われた。

晴人の人気は高く、人だかりができていた。次から次に国王と女王が挨拶に来て、談話をするのだ。長い間、晴人のそばに立っていたソフィーナは足がシビれてしまったことを晴人に伝え、その場を離れた。すると、青く輝く瞳をもった一人の美しい女性が晴人を見つめていることに気付いた。ソフィーナは、遠慮なく声を掛けた。


「こんばんは。」


「まあ、ソフィーナ女王様、こんばんは。」


「足がしびれてしまったので、椅子に座りましょう。」


「は、はい。」


「あなたでしょう?国民たちからも敬意の念を込めて『ロンバルドの青い宝石』と呼ばれているヴァイオレット姫は。」


「あっ、はい。国民たちはそう呼んで下さります。」


「透明に近い青色の綺麗な瞳だわあ~。吸い込まれそうですわ。」


「お褒めのお言葉、ありがとうございます。」


「ヴァイオレット姫はおいくつなの?」


「16歳です。」


「若いわねえ~。うらやましいですわ。」


「じゃあ、私より年下だからヴァイオレットちゃんって呼んでいいかしら?」


「はい。」


「ヴァイオレットちゃん、ずっと晴人さんを見ていたでしょう?」


「あっ、は、はい。」




 はてさて、この後の展開が楽しみになってきました。続きは、第31話をお楽しみに。 

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