第31話 晴人、ヴァイオレットの側室の申出を受ける

「ヴァイオレットちゃん、ずっと晴人さんを見ていたでしょう?」


「あっ、は、はい。」


「キャハ、正直でヨロしい。晴人さんのことが好きですか?」


「はい。」


「キャハ、正直でヨロしい。なぜ好きになりましたか?」


「キムジョン帝国が侵略戦争を仕掛けて来たときに、父と母たちとはぐれてしまって、気付いたら敵の鉄砲隊に囲まれていました。『ああ、私はここで死ぬんだわ。』って思った時、目の前に一人の男性が現れて電光石火のごとく敵の鉄砲隊を斬り倒していきました。それが晴人国王陛下だったのです。」


「あ~、なるほど。ヴァイオレットちゃんは、晴人さんに命を救ってもらったわけなのね。つまり、晴人さんは、ヴァイオレットちゃんの命の恩人なのね。」


「はい、そうです。」


「そのとき、晴人さんに何か言われたの?」


「はい。『そこのお嬢さん、早く走って逃げなさい!それとも、俺が抱っこして逃げようか?』と微笑みながら声を掛けてくださいました。私が怖さのあまり固まっていたのですが、『俺が抱っこして逃げましょうか?』という言葉で正気に戻ることができました。それで、一生懸命に走って逃げだせることができました。」


「ヴァイオレットちゃん、晴人さんを見た瞬間、どんな気持ちになりましたか?」


「・・・。」


「ヴァイオレットちゃん、私が晴人さんの妻だからといって遠慮しないでね。私は晴人さんの妻になった以上、心の広い女性でありたいの。」


「はい、晴人さんが微笑んだ瞬間に心臓がキュンと締め付けられました。」


「なるほど、晴人さんの微笑みにヴァイオレットちゃんの心臓がキュンって締め付けられちゃったのね。それを何と呼ぶか知っていますか?」


「いいえ、知りません。」


一目惚ヒトメボれというのですよ。」


「ヴァイオレットちゃん、それからずっと辛かったでしょう。」


「はい。」


「ヴァイオレットちゃん、それからずっと苦しかったでしょう。」


「グスン。はい。」

 バイオレットの「ロンバルドの青い宝石」からとめどなく涙がアフれ止まらなくなっていた。


 その会話を陰で見守っていた一人の女性がいた。ロンバルド女王、つまり、バイオレットの母だった。


「ヴァイオレットちゃん、ここは人目に付きますわ。どこかゆっくり話ができる場所はないかしら。」


 そのとき、ロンバルド女王がソフィーナとヴァイオレットの前に姿を現した。


「ソフィーナ女王、あたたかい御心ミココロに心より感謝いたします。私の部屋でヨロしければ、どうぞいらっしゃってくださいませ。」


「ロンバルド女王、感謝いたします。ヴァイオレットちゃん、お母様のお部屋に参りましょうか。」


「グスン。はい、ありがとうございます。」


 それから3人は、ロンバルド女王の部屋に移動した。ソフィーナがヴァイオレットの腕と肩を抱える姿を、ロンバルド女王は見逃さなかった。


 ロンバルド女王は、部屋へ案内した。

「ソフィーナ女王、どうぞ、ソファーにお座りになってくださいませ。」


「はい、ありがとうございます。」


「ヴァイオレットも座りなさい。」


「はい、母上。」


 ロンバルド女王は紅茶を出してくれた。そして、改めて挨拶アイサツをした。

「ヴァイオレットの母のロンバルド女王です。その節は、パルナ・パーニャ共和国の晴人国王様にこの国のみならず、国王と私とヴァイオレットの命を救っていただきありがとうございました。国王の代理として、ソフィーナ女王にお礼申し上げます。また、先ほどからソフィーナ女王にはヴァイオレットに対して慈しみの御心ミココロで関わっていただいたことに最大のお礼を申し上げます。」


「ロンバルド女王、もったいないお言葉に感謝いたします。」


「ヴァイオレットは、あの日以来、部屋にこもりっきりになりまして、部屋に入るとうつ伏せになったまま泣いている状態が続きました。庭園に出ることを勧めて、庭園の花々を見つめているのですが、『心ここにあらず』といったうつろな瞳で花々を見ているのです。ヴァイオレットにとっては、もはや花は花であって花ではない状態になっていたのです。ヴァイオレットの心の中は、さぞや晴人様のことで満たされていたのでしょう。」


「ヴァイオレットちゃん、食事の方はいかがですの?」


「はい、一時期、全く食事を摂る気力がなくなり、主治医からこのままでは、命が危ういと言われまして、家族内に大きなトラブルを招いてしまいました。父上と母上がよく喧嘩をするようになりました。そんな折、母上に食事を摂らなければ自害すると言われました。それで、ようやく正気を取り戻してからは、食事だけは摂るようになりました。」


「まあ、かわいそうに。そんなことまであったのですね。ロンバルド女王、ヴァイオレットちゃんは今でも元気のない状態なのですか?」


「はい。」


「ロンバルド女王、ヴァイオレットちゃんを晴人さんの側室に迎えるのはいかがでしょうか?」


「はい?」


「ヴァイオレットちゃんを晴人さんの側室に迎え入れるのです。」


「まあ、私から申し出ようと思っていたことをソフィーナ女王からおっしゃっていただけるなんて・・・。気が動転しました。」


「あのう、ソフィーナ女王はそれでいいのですか?」


「ロンバルド女王、ヴァイオレットちゃん、同じ女性としてこのような純粋なお心を見捨てるわけには参りませんわ。もう祝賀会も済んだ頃でしょう。晴人さんを魔法でこの部屋に呼び出しますね。」


「まあ、なんと!」


「晴人さん、ソフィーナよ。大切な用件があるからロンバルド女王の部屋にいらしてください。」


「ソフィーナ、探したんだぞ。」


「いいから早く、ロンバルド女王の部屋にいらして。」


 それから5分後。


「コン、コン。晴人です。入ってもよろしいでしょうか。」


「どうぞ、お入りになってください。」


「失礼いたします。」


「どうぞ、お座りになってください。紅茶とコーヒーはどちらがお好きですか?」


「申し訳ありません。コーヒーでお願いします。」



 その後、晴人は、ソフィーナとロンバルド女王にこれまでの経緯イキサツを事細かに聞かされた。ヴァイオレットは、終始、顔を真っ赤にして、時折、晴人の顔をチラ見する様子だった。一方、晴人は、うなずきながらもその目線は斜め下を見つめっぱなしだった。そして、ソフィーナが口を開いた。


「晴人さん、ヴァイオレットちゃんを側室に迎えてあげて。ねえ、いいでしょう。」


「うん、はあ?はあ?側室?この俺に側室?ヴァイオレットちゃんは、まだ16歳なんだぞ。」

 晴人には、中学3年生というイメージしかわいてこなかったのだった。


「ヴァイオレットちゃんはもう16歳なの。この惑星では、結婚してもいいの。15歳から大人なのよ。この惑星は、一夫多妻が普通なのよ。」


「ソフィーナ、ソフィーナのお父上様はお母上様だけじゃないか!」


「うちの父は、特別なの。婿養子ムコヨウシで結婚したから、母上に遠慮して我慢しているだけなの!」


「俺だって、ソフィーナの婿養子ムコヨウシじゃん。」


「あのね、晴人さん、婿養子ムコヨウシで結婚しても、側室を迎え入れて、一夫多妻はできるのよ。それにねえ、16歳であろうとも、心は立派な女性なの。あなたのことを心から愛しているの。ねえ、ヴァイオレットちゃんからも晴人にきちんと自分の素直な気持ちを伝えてもいいのよ。」


「は、はい。私は、キムジョン帝国が侵略戦争を仕掛けて来たときに、お父上とお母上とはぐれてしまい逃げ遅れました。気付いたら既に、敵の鉄砲隊に囲まれてしまいました。そこに現れたのが晴人国王陛下でした。晴人様は、十数名いる鉄砲隊を瞬時に斬り倒し、『そこのお嬢さん、早く走って逃げなさい!それとも、俺が抱っこして逃げようか?』と微笑みながら声を掛けてくださったときのことをずっと忘れられずに覚えていました。私の心は、自分の命を救われるより先に晴人様の微笑みを見た瞬間に鷲掴ワシヅカみにされました。」


「・・・。」


「ねえ、晴人さん、どうしたの?」


「・・・。」


「ねえ、晴人さんってば、いったいどうしちゃったの?」


「・・・。」


「ねえ、晴人さんってば!」


「・・・。突然、降って湧いたような話で頭の中が・・・。」


「ソフィーナ女王、晴人さんのお気持ちも推し量って差し上げましょう。『側室』という話は、あまりにも予想外の内容です。それが突然、発生したのですから落ち着いて考える時間を差し上げましょう。晴人さんは、この惑星の人間ではないのです。地球という他の惑星から『天』によって召喚されたのです。慣習も一般的な物事の考え方も違って当然です。この件については、4人で解決できる問題ではございません。国同士の関係が絡んできますので、私は主人にも相談します。ソフィーナ女王もセオドア上皇とエリス上皇后にもご相談ください。」


「分かりました。ご配慮いただきありがとうございます。追って連絡いたします。では失礼いたします。」




 その後、ロンバルト国王陛下のご配慮で、晴人とソフィーナ、セオドア上皇とエリス上皇后は、ロンバルト城に長期滞在を勧められ、ロンバルト国に滞在することになった。

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