第12話 晴人、ソフィーナにプロポーズする

 4か国東方諸国連合の軍事会議が終わってから1か月間、晴人はソフィーナ第一王女を伴い、国内視察の旅に出た。セオドア上皇とエリス上皇后は、大喜びでソフィーナ第一王女を送り出した。送り出す際に、エリス上皇后が


「ソフィーナ、この視察の旅で晴人国王の心根と価値観を深く知るのですよ。」


 とアドバイスを受けていた。ソフィーナもまた、晴人国王がどんな人間なのか詳しく知りたいと考えていた。それはまた、晴人も同じだった。父の彰から、


「晴人よ、恋愛とは相手の心根と価値観を確かめる期間なのだ。そこで十分に愛が成熟すれば、自ずと結婚に結実するものだ。」

 ということを教えてもらったことを思い出していた。


 晴人が、水路工事や道路工事、農地整備をする人間や多民族の親方に、

「ご苦労様です。あなた方の汗と涙によってこの国は豊かになります。心より感謝申し上げる。これは、ほんの少しばかりだが俺から皆へのプレゼントだ。皆で飲んでくれ。」

 と言って、自家発電電気魔法で動く大型冷蔵庫を次元収納ストレージから4台取り出し、冷えたビールとグラスとフォアローゼスのウイスキーを各工事現場に百本ずつ置いていったのだ。親方衆は、

「このようなご褒美を頂くのは初めてです。皆、喜ぶと思います。ありがとうございました。」

 と感謝を伝え、深々と頭を下げるのであった。


 また、昼食時に河原でサンドウィッチを食べているとき、うらやましそうに橋の上から5人の子供たちが眺めていた。すると、晴人が、

「おい、こっちへ来いよ。」

 と大声で呼びかけ、5人の子供たちにもサンドウィッチをごちそうした。

「お兄ちゃん、この牙の生えた大きなトラとフェンリルは噛まないの?怖くないの?」

 と無邪気に尋ねてくるため、晴人が晴人タイガーと晴人フェンリルにお願いして、子供たちを背中に載せて走り回ったり、空を飛んだりして遊んであげた。ソフィーナは、この1か月間の晴人の姿や行動を見て、晴人の心根と価値観に確信をもつことができた。


 ある日、大雨が降ったため晴人が次元収納ストレージからログハウスを出し、雨宿りすることになった。そのとき、ログハウスの窓から一人の女の子が冷たい雨に濡れながら、ふらついて倒れた。すると、突然、ソフィーナがログハウスから飛び出し、自分もびしょ濡れになりながらその少女を抱きかかえて帰ってきた。


「晴人さん、お願いがあります。この子は体の芯が冷えきっています。暖炉にたくさん薪をくべて燃やしてください。」


 と言って、その女の子の着ていた服を全て脱がし、大きなタオルで巻いて暖炉の近くで体を温め続けた。1時間ほど温めると、体の表面は温かいものの体の芯が温まっていないことに気付いたソフィーナが、


「晴人さん、この子は体の表面は温かくなりましたが、体の芯は冷え切っています。私の体温で温めます。私は全裸になってこの子を抱きかかえて温めますので、私の体の上から毛布を3枚かけて下さい。」


 と言った。ソフィーナは、何のためらいもなく全裸になるとその女の子を抱きかかえたので、彰はソフィーナの体に優しく毛布を3枚かけてあげた。すると、ソフィーナは泣いていた。


「可哀そうに。この子の左のテノヒラに持っているのは、薬草の一種です。おそらく、家族の中に病人がいたのでしょう。それを冷たい雨の中で薬草を取り続けたせいで低体温症になったのでしょう。」


 そう言いながら、ソフィーナは声も出さずにずっと涙を流していた。それを見た彰は、ソフィーナの涙をタオルでそっと拭いてやった。晴人は「完全治癒魔法」をもっていたが、ミニッツが「大丈夫ですよ、晴人さん。治ります。それよりもソフィーナさんの行動を見守ってあげるのも優しさです。」と言われていたため、差し出がましい行動を慎んだ。その2時間後、女の子が目を開いた。


「あれ、ここはどこかしら。キャ、私もお姉さんも裸だわ。」

 それを聞いた晴人は、


「あのね、このお姉さんは暖炉の炎とお姉さんの体の温かさで、あなたの体温を上げ続けていたんだよ。そうしなければ、あなたは死んでいたんでよ。」

 と伝えた。するとその女の子は、


「お姉さーん!命を助けてくれてありがとう!」

 と言って、ソフィーナの首に抱き着いてきた。


「良かったわね、体温が戻って。あなたのおうちにはご病気の人がいるの?」


「はい、お母さんが咳が止まらなくて、いつも苦しんでいます。この薬草を煎じて飲めば咳が止まるので、森で採っていました。」


「そうだったのね、じゃあ、あなたの服も乾いたし、あなたのお母さんの所へ行ってみましょう。」


 と言うと、全裸のソフィーナはそこに晴人がいるのを忘れて、3枚の毛布を取り、女の子に服を着せた後、晴人のいる後ろを振り返った。ソフィーナはあまりの出来事に声を失った。


「ソフィーナ、綺麗だよ。本当に美しい。はい、着替えだよ。」


 そう言って、ソフィーナに着替えを渡した。


「ソフィーナ、後ろを向いているから着替えていいよ。大丈夫だよ。」


 安心感を与える優しい声に、ソフィーナはさっきまでの羞恥心を失くし、自分の服を着た。そして、ソフィーナは黙ったまま後ろを振り向くと、後ろを振り向いたままの状態で窓に腕を掛け、外の様子をじっと見ている彰の背中を見た。「何て広い背中なの。」そう思うと自然と足が一歩ずつ彰の方に近付き彰の背中の方から胸にかけて抱きしめた。彰は、びっくりしたが、ソフィーナの両手の上から自分の両手を重ね、しばらくその幸福の時間を味わっていた。


 そして、後ろを振り向き、ソフィーナの頭を優しく撫でながら「頑張ったね、ソフィーナ。ご苦労様でした。小さいけれど尊い命を君が救ったんだよ。偉かったぞ。」

 というと、ソフィーナはそれまで耐えていた不安な気持ちがセキを切ったように、晴人の大きな胸の中で大きな声で泣いた。


「ウエエエエーン!ウエエエエーン!ウエエエエーン!ウエエエエーン!」


 晴人は、両手で優しくソフィーナを抱きしめながら、ゆっくりとゆっくりと背中をさすってあげた。


 ソフィーナは、泣き止んでも晴人に抱き着いたまま腕を離そうとはしなかった。ソフィーナは、今、この瞬間こそが幸せなのだと感じ、「時間よ止まれ」とそう念じ続けていた。

 また、晴人もソフィーナを抱いたまま背中をゆっくりと、ゆっくりとさすり続けていた。既に晴人の決心は固まっていた。「俺の人生の全てをソフィーナに捧げよう」そう何度も何度も胸の奥深くでつぶやいていた。


 40分、いや、1時間ほどこうしていただろうか。ソフィーナが顔を上げて、晴人につぶやいた。

「晴人さんのシャツ、私の涙でビショビショになりましたね。」


「大丈夫、俺の胸は広いからもっと泣いていいよ。」


 そう言い終わると、ソフィーナが晴人に飛びついて、両手でホホを包み込んだままキスをした。晴人は、一瞬驚いたが、すぐにソフィーナの頭を優しく抱きとめて、キスを受け入れた。とても長いキスだった。二人にとって、ファーストキスだった。

 キスが済むとソフィーナと晴人は、お互いの側頭部を優しく掌で包みながらずっと見つめ合った。そして、晴人が言った

「出逢った瞬間からあなたが好きでした。今はもう愛に代わりました。ソフィーナ、結婚してください。」


「出逢った瞬間から私も晴人さんが好きでした。心から愛しています。喜んで結婚いたします。」


 そう言い終えると、二人はまた長いキスをした。晴人もまた幸せをかみしめて心の中でつぶやいた。「時間よ止まれ」と。



 その30分後に大雨が止んだ。女の子はソフィーナと晴人の抱擁とキスを黙って見守っていた。それに対してソフィーナは、

「あなたのお名前は?」


「フランソアです。」


「フランソアちゃん、私と晴人さんの抱き合うところとキスをするところを黙って見守ってくれてありがとうね。」


「だって、お姉さんは命の恩人ですから。」

 と笑顔で応えてくれた。


「お姉さんの名前はね、ソフィーナっていうの。フランソアちゃんのおうちに連れて行ってくれるから、一緒に行きましょう。」


 そう言うと、晴人フェンリルの背中にフランソアとソフィーナが乗り、晴人タイガーの背中に晴人が乗って、フランソアの自宅へ向かった。


「ここがおうちです。」

 自宅を見るとあばら家であった。この周辺の家々も全てあばら家であった。晴人は近所の人に村長の自宅を訪ね、訪問してみた。すると、村長は、晴人がスクリーン投影画像魔法で見た晴人国王であることを悟った。晴人は、この村を改善したい旨を説明し、広くて安全な空き地を紹介してもらった。そして、晴人が国王であることに気付いた大勢の村民が見守る中、


「無限の力を持つ『メビウスの輪』よ、上下水道完備の3階建てマンションを百軒ほど造りたまえ!」

 と叫ぶと、

「パッ。」

 と、マンションが目の前に現れたのである。


「村長よ、このマンションに移り住みたまえ。もし、領地の貴族が何か言ってきたとしたら、『晴人様がお怒りになり、貴族の土地を全て没収する。』と言っていたと伝えてくれ。」 


 そして、フランソアの自宅へ行き、母親を抱きかかえ、マンションの一階の部屋に運んだ。そして、次元収納ストレージから新品のベッドと枕と毛布と布団を2人分とりだし、母親を寝かせた。「これは栄養失調による肺結核だな。」とつぶやくと、ソフィーナの見守る中、


「細胞再生魔法!治癒魔法!完全治療魔法!疲労除去魔法!身体強化魔法!」


 と唱えると、母親はすくっと起き上がった。母親が声を出してお礼を述べると、


「おかあさん、あなたの命は、ここにいるフランソアとソフィーナが救ってくれたのですよ。お母さん、今から俺がすることで大声を出さないで下さい。押し入れに、食べても食べても次から次に出てくるさつま芋の秘密の箱を置きました。その隣の箱は腐らない肉が入っています。それを食べていればもう結核にはかかりません。それとお母さんのベッドの床下に金貨を入れておきましたから、何かあったら使ってください。この事は秘密です。約束できますか。」


「はい、約束いたします。本当にありがとうございます。晴人国王様、ソフィーナ第一王女様。」


「それでは、失礼いたす。」


 そう言い終えると、晴人とソフィーナと晴人タイガーと晴人フェンリルは、一瞬にして消えた。


「スッ。」


「パッ。」


「えっ、晴人さん、ここはもう城の中じゃありませんか。」


「うんそうだよ。今日で全ての国中の視察を完了したからね。ええっと、地図は、ああ、あったぞ。これだ。ソフィーナ、来てごらん。これはねえ、この国の詳しい地図なのだ。俺が、さつま芋を2種類、全貴族に配布して、種芋として植えるように言ったのに、農民へ配らずに、自分たちで食べているのだ。ソフィーナ、こっちへ来てごらん。今から『天』の使徒である俺が、ユニバースソードに付与されている魔法の全てをソフィーナに付与してあげる。もらう?それとも要らない?」


「もらいます!」


「よし、じゃあね、前髪をすごしどけて、俺がソフィーナの額に俺の額をくっつけるから『完了』というまで、動いちゃダメだぞ。瞳は閉じなくてもいいよ。」


「はい!」


「では行くよ!ユニバースソード完全付与!」

 瞳を開いていたソフィーナは驚いた。部屋中いっぱいに虹色のオーラに包まれてそれが晴人の中に吸収され、キラキラ光りながらソフィーナの額にどんどん吸収されていったからだ。


「よし、完了。」


「ソフィーナ、もう終わったよ。」



 ソフィーナは、これから起こる出来事に仰天するのだった。

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