第8話 晴人、「天啓の瞳」の能力を発揮する

 パルナ・パーニャ共和国前国王の正式な名前は、マイロ・セオドアであった。したがって、今はセオドア上皇と呼ばれていた。マイロ・セオドアは公爵の出身であり、

短気で短絡的なところもあるが、愛妻家であり、一度、忠誠を誓ったり、信頼したりした人物に対しては、最大限の敬意を払う人物であった。そのセオドア上皇とエリス上皇后には、2人の娘がいた。18歳になるソフィーナ第一王女とまだ3カ月になったばかりのマリアン第二王女であった。マリアン第二王女は、乳母が育てていたが、母乳を与えたり、夜に就寝したりするときは、エリス上皇后が育てていた。


 そのセオドア上皇とエリス上皇が、夕食会へ大和晴人国王を招待した。大和晴人国王は、その夜は、ボノ軍師兼執事と戦略情報省長官のジ・エッジや事務官のラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンスを夕食会を予定していると断ったものの、彼らも一緒に同席しても構わないと言われ、断られなくなってしまい、一緒に夕食会に参加することになった。


 その日の夕食会の参加者は、セオドア上皇とエリス上皇、ソフィーナ第一王女、晴人国王、ボノ軍師兼執事、戦略情報省長官のジ・エッジや事務官のラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンスの10名であった。


「オオー!晴人国王、よくぞ参ってくれました。逢うのが待ち遠しかったですぞ。そなたの改革は見事ですぞ。貴族も国民も喜んでおります。この私にも多くの貴族や知り合いの国民から晴人国王のことを大喜びしている話ばかり聞かされて、わしも鼻が高いですぞ。ハハハハ。それにのお、上皇と上皇后とソフィーナの部屋のトイレを改築していただいたお礼をまだ、晴人国王に伝えておらなんだ。誠に驚きましたぞ。トイレの中から噴水が出たときは、ビックリしましたぞ。でも、あれは最高に気持ちが良いもんじゃ、のお、エリス、ソフィーナ。」


「あなた、ディナーの最中ですよ。おトイレの話は後でして下さいとあれほど言ったのに、あなたったら。」

 とエリス上皇后にたしなめられた。


「おお、これは失敬。ディナーの最中であったな。晴人国王、失敬した。」


「アハハハ。セオドア上皇様、構いませんよ。」


「晴人国王、晴人国王が祖国へ行き、持ち買ってくれたソーラーパネルのお陰で、城中が明るくなりましたぞ。近衛兵もわしとエリスとソフィーナ第一王女が守りやすくなったと喜んでおるし、大勢のメイドも掃除がしやすくなったと喜んでおります。また、国民が大変喜んでおりまして、わしにたくさんの手紙が届くのです。手紙を開いて読んでみると『よくぞ、上皇は大和彰様を国王に指名して下さりました、心から上皇の先見の明に感謝します。』と書かれておるのじゃ。ワハハハ。わしは嬉しくて、嬉しくてたまりませんぞ。」


「セオドア上皇様、褒め過ぎですよ。まだ、これからです。」


「うむ。相変わらず謙虚じゃのお。」


「晴人様、この国を内乱もなく善き方向へお導き下さり、心より感謝いたします。我が娘のソフィーナ第一王女は、生まれながらにして『真実の判別能力』というご加護を『天』より授かりました。そのソフィーナが『唯一無二の稀にみる名君』と申しております。今後とも我が国、パルナ・パーニャ共和国を帝国の侵略から守るため、どうぞよろしくお願いいたします。」


「はい、必ず数多あまたの帝国の侵略からこのパルナ・パーニャ共和国を守って見せます。されど、『唯一無二の稀にみる名君』も褒め過ぎかと存じます。気恥ずかしいです。」


「晴人国王様、誠の話です。私には生まれながらにして『真実の判別能力』のご加護が備わっております。わたしがこの『真実の判別能力』に『大和晴人様はどのような人物ですか?』と問いかけたときに、『慈愛に満ち、ダンジョンの虫たちの命まで大切にし、大勢の魔物と魔人を従える王でありながら、いばることもなく、思い遣りや優しさ、配慮の心に満ちあふれ、人や多民族を差別することもなく、侵略戦争国を勧善懲悪する唯一無二の稀にみる名君であるとともに、ただ一人だけの女性を生涯愛し続ける漢の中の漢である。』という言葉が返ってまいりました。私の『真実の判別能力』はこれまで一度たりとも外れたことがございませんの。私は心より晴人国王を信じております。」


 晴人は、ソフィーナ第一王女の真っ直ぐな瞳にドキドキしながら

「あ、あ、あ、ありがとうございます。」

 と上がって舌が回らなくなった。すると、すかさずエリス上皇后が


「まあ、晴人様が緊張なさっているわよ、ソフィーナ。脈があるんじゃないの。」


「お、お、お母様、から、から、からかわないで下さいませ。」


「あら、今度は、ソフィーナが緊張して舌が回らなくなっていますわ。オホホホ。」


 晴人もソフィーナも目のやり場に困り、顔を赤らめて下をうつ向いていた。一度、晴人が顔を上げたとき、同時にソフィーナも顔を上げ、目と目が合うと、再び顔を赤らめて、下を向いたり上を向いたりする晴人であった。その仕草をエリス上皇后が微笑ホホエましく見守っていた。


 


 そのとき、場の空気が読めないセオドア上皇が、

「して、晴人国王よ、今夜、そなたが、ボノ軍師兼執事と戦略情報省長官のジ・エッジや事務官のラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンスと夕食会を催すということじゃったが、何か込み入った話じゃったのか?」

 そのとき、ボノ軍師兼執事と戦略情報省長官のジ・エッジや事務官のラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンスに緊張感が走った。晴人は、『天啓の瞳』の能力によって、ボノ軍師兼執事と戦略情報省長官のジ・エッジや事務官のラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンスに走った微弱な緊張感の電流を察知した。


 晴人はここぞとばかりに口を開いた。

「セオドア上皇、エリス上皇后、ソフィーナ第一王女、せっかくの夕食会に呼ばれながら今から身勝手な話をさせて下さい。緊急案件です。セオドア上皇、エリス上皇后、ソフィーナ第一王女は私の話を聴いておいてください。その方が、この国のためです。」

 晴人国王がそう言うと、セオドア上皇とエリス上皇后とソフィーナ第一王女は緊張感を隠せなかった。今から重要な話がなされると直感したからだ。


「誤解を恐れずに敢えてこの場をお借りして申します。ボノ軍師兼執事と戦略情報省長官のジ・エッジ、事務官のラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンスよ、私に隠していることがあるだろう。他はだませても、この俺には通じぬぞ。分かっておろう、ボノ軍師兼執事よ。」


「晴人国王様、何ゆえそのようなことを申されるのですか?」

 とボノが切り返した。


「ボノ、俺は誰だ?」


「大和晴人様です。」


「違う、名前を聴いているのではない。俺が何者かを聴いているのだ!」


「はっ!全宇宙の支配者である『天』の使者です。」


「そうだ、今になって気付いたか!それがどういうことか分かるか!」


「ぜ、全部我々の過去を知っているということです。」


「そうだ。お前たちの過去も家族も全て把握済みだ。俺が『天』の使者であることを忘れるな。」


「ハハーッ。恐れながら申し上げます。私、ボノは7年前までロジア大帝国の特殊工作海兵隊長でした。そして、私の忠実で優秀な部下がジ・エッジとラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンスです。私は、海兵隊の将軍に呼び出され、『内乱の起きているヤリスという村に深夜に忍び込み300発の連発爆弾を仕掛け、爆破した後に、生き残っている住民を全て殺せ。』と命じられました。しかし、その村は、我々全員の出身地の村だったのです。私は1週間以内に実行せよと命じられていたため、ジ・エッジとラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンスの6名で密かに話合い、大型船を盗んで、ロンバルド共和国を抜けてこのパルナ・パーニャ共和国に亡命する計画を立てました。もし、この計画が発覚すれば、3代に渡って首を切られるという生きるか死ぬかの大きなけに出ることにしました。4日目の深夜に3名の見回りの海兵を殺し、私の妻と子どもと両親と祖父母、ジ・エッジとラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンスたち全員の妻と子どもと両親と祖父母たちを大型船に載せて、このパルマ・パニーニャ共和国に逃げてきたのです。逃げる途中で、我々は大型船でロンバルド共和国に近付き、ロンバルド共和国の船に乗り換えて、パルマ・パニーニャ共和国に逃げてきたのです。ロジア大帝国の海兵隊の将軍は、ロンバルド共和国の沖で大型船を発見し、ロンバルド共和国に亡命したと勘違いをし、同盟国であるキムジョン帝国にロンバルド共和国に侵略戦争を命じましたが、ロンバルド共和国はパルマ・パニーニャ共和国軍の援軍を得て、その侵略戦争を撃退したのです。それで我々は難を逃れて、パルマ・パニーニャ共和国の森を開墾し、畑を作りました。領主様に『どこから来たのか』と尋ねられましたが、『戦争難民です。』と答えたところ、その領地に住むことを許されました。ですが、いつ、我々の居場所がバレて皆殺しに逢うか心配であったため、その情報を収集するために私が責任を取ってこのパルナ・パーニャ共和国の城の執事の募集を見て、試験を受け、この城の執事として働くようになりました。私は絶えず、人に分からぬようにドア越しで人と人の話を盗み聞きし、私たちの居場所がバレていないかを確認しました。上皇様には申し訳ないことをしたと思っております。しかし、何度も上皇様の部屋に侵入して書類を調べたり、他国の訪問者が来たときに聞き耳を立てたりして情報を盗み聞きしておりました。これが真実でございます。」


「ジ・エッジ、ラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンス、ボノの説明したことに相違ないか。


「間違いありません。」

「間違いありません。」

「間違いありません。」

「間違いありません。」

「間違いありません。」


「うむ。ボノよ、よくぞ真実を話してくれたな。それに、ジ・エッジ、ラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンス、正直に認めてくれてありがとう。そなたらは分からぬであろうが、そなたらの顔は全員指名手配されており、懸賞金まで賭けられている。ボノが金貨100枚で、ジ・エッジ、ラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンスは金貨80枚だ。」


「そんなに高額で指名手配されているのですか?」


「ジ・エッジ、本当だ、今からその画像を見せてやる。」

 そう言うと、彰はスクリーン投影画像魔法で指名手配犯の顔写真が貼られている掲示板を画像で見せた。

「ほ、本当だ。あれは俺の顔だ、おい、皆の顔が載っているぞ。懸賞金も晴人国王が言った通りだ。」


「ジ・エッジ、俺は嘘はつかんぞ。」


「ハハーッ。」


「お前たちは常に命を狙われている。しかも、俺が敢えて、お前たち全員を戦略情報省に採用した。なぜなら、最もロジア大帝国のことに詳しいからだ。でも、今の顔のままじゃ、見つかったら殺される。しかも、奥さんも子供も両親も祖父母もだ。お前たち全員に問う。『天』の使徒である俺が魔法でお前たちの顔を全員変えてやる。その判断はお前たちに任せる。その代わり、国王である俺が家族のところへ行ってなぜ顔を変えたのか、きちんと説明してやる。さあ、どう判断する。ハンサムな顔か?普通の顔か?老けた顔か?」


「ハンサムと普通の顔の中間ぐらいでお願いします。」

「同じです。」

「同じです。」

「同じです。」

「同じです。」

「同じです。」


「アハハハ。お前たち全員同じ発想だな。じゃあ、一人ひとり別人の顔にしてやるからな。後悔はするなよ。」


「ハハーッ。」


「では、ボノからいくぞ。」

 晴人は両手でボノの顔をおおうと虹色のオーラがボノの顔を包み込んだ。


「パッ。」


「よし、完璧だ。」


「ええーっ、彰国王陛下、マジですか?これ本当にボノですか?」


「うん。そうだよ。ボノ、手鏡を次元収納ストレージから出すから自分の顔を見てみろよ。」


「ええーっ、私が変わっている!」


「おい、おい、人聞きの悪いこと言うなよ。お前たちが顔を変えることを承諾したんだぞ。これでもう、命を狙われることはないぞ。後は、俺が家族に説明してやる。」


 すると、ボノは土下座して頭を下げながら言った。

「彰国王陛下、ありがとうございます。この命、彰国王陛下に捧げます。」


「ボノのバカ!俺に命を捧げるな!絶対に死ぬな!命令だ!」


「ハハーッ。」



 こうして、ジ・エッジ、ラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンスの全員が別人になった。


 当人のボノ、ジ・エッジ、ラリーマン、クレイトン、マコーミック、エバンスだけでなく、セオドア上皇とエリス上皇后とソフィーナ第一王女までまるで夢を見ているように、目線が宙を舞っていた。


「うむ。名前を変えなきゃヤバイ。よく考えて名前を変えてくれ。そして、人に尋ねられたら、『ボノは仕事を辞めたので替わりに来ました。』とか適当なことを考えておけよ。」

「イエッ・サー!」

「イエッ・サー!」

「イエッ・サー!」

「イエッ・サー!」

「イエッ・サー!」

「イエッ・サー!」


「じゃあ、順番に考えた名前だけを言ってくれ。」

「ボレロ」、「ジェット」、「リーマン」、「レイトン」、「ミックジャック」、「バンズ」です。


 それを聞いた晴人が笑い出す前に、ソフィーナ第一王女が大笑いし始めた。

「アハハハハ、アハハハハ、アハハハハ、アハハハハ。おもしろ~いわ!」

 それにつられて、晴人も笑い出した。

「ギャハハハハ!ギャハハハハ!ギャハハハハ!ギャハハハハ!」


 すると、不思議なことに自然発生的に全員が笑い出した。


「アハハハハ!ギャハハハハ!ウフフフフ!ハハハハハ!ギャハハハハ!」


「おい、もう時間が遅いから、俺の部屋の隣は6部屋開いているから泊まっていけよ。」


「それは、恐れ多いことです、晴人国王陛下。」


「これから帝国軍相手に死闘する仲間じゃねえか、俺の命令だ、泊まっていけ!」

 すると、「ボレロ」、「ジェット」、「リーマン」、「レイトン」、「ミックジャック」、「バンズ」が同時に返事をした。


「ハハーッ。」


 そのやり取りを一部始終見ていたセオドア上皇は内心「素晴らしい王じゃ。是非にもソフィーナ第一王女を正室にせねばならぬ。」と考え、エリス上皇后も「何て素晴しいお人柄なのでしょう。必ずソフィーナを嫁がせてみせますわ。」と考え、ソフィーナ第一王女も「決めた。決めた。運命の出逢いだったんだわ。晴人様を愛している気持ちに正直にならなきゃ。」と心に誓うソフィーナだった。




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