第6話 晴人、国王になる

「まあ、何て可愛らしいのかしら。」

 そう言って、ソフィーナ第一王女は晴人タイガーと晴人フェンリルをでて、首に抱き付いていた。

 その姿を見て、なぜか晴人はドキドキしていた。

 しかし、聖獣の姿を見た近衛兵たちはビクビクしていた。


「晴人さん、晴人タイガーと晴人フェンリルを元の大きさにしていただけますか?」


「はい、この庭の広さがあれば大丈夫です。晴人タイガー、晴人フェンリル、本当の大きさを見せてあげなさい。」


「はい、主。」


「はい、主。」


「パッ。」


「パッ。」


「ウワアアアア!ウワアアアア!何だ、このデカさは!」

 近衛兵の大声を聴いて駆けつけてきたメイドたちが、


「ギャアアアアー!ギャアアアアー!」

 と叫んだため、城中の者たちが城の庭に走ってきた。


「ウワアアアア!ギャアアアアー!」


 すると、パルナ・パーニャ共和国の国王陛下が、

「黙らぬか!聖獣様のゴールデンサーベルタイガー様と聖獣様のイエローフェンリル様じゃぞ、この無礼者が!」

 と大声で一喝したため、急に静かになった。


「ここにおわすは、全宇宙の『天』であるホワイトドラゴン様の使徒、大和晴人ヤマトハルト様じゃ。そして、その両脇におわすは、大和晴人様の部下である聖獣『晴人タイガー様』と『晴人フェンリル』様じゃぞ、頭が高い!控えおろう!」


「ハハーッ。」

 そう言って、城内の全員がひれ伏して頭を下げた。


「晴人様、晴人タイガー様、晴人フェンリル様、どうかお許しください。」

 

「いえ、いえ、驚くのが正常の反応ですよ。王様、お気になさらないで下さい。みなさん、驚かせてすみませんでした。どうかお顔を上げてお立ち下さい。晴人タイガーと晴人フェンリルもサイズを小さくしてくれ。」


「ハハーッ。」


「ハハーッ。」


「そう言うと、背丈が彰の肩の高さになるサイズに戻った。」


「オオーッ!」

 今度は、聖獣様が小さくなられたぞ。


「皆さん、この2匹は、聖獣の晴人タイガーと聖獣の晴人フェンリルと言います。噛みつきません。とても優しいですので宜しくお願いしますね。」


「ハハーッ。」

「ハハーッ。」


 パルナ・パーニャ国王とエリス女王陛下とソフィーナ第一王女は、この様子を見て微笑んでいた。


「ミニッツです。晴人さん、この後、王の謁見エッケンの間に通されると思います。そこで、パルナ・パーニャ共和国の国王陛下が王位を譲る話をされると思います。『天』との約束である異世界侵略戦争を勧善懲悪するには、この王位継承を受けなければなりません。大丈夫ですか?」


「うむ。『天』との約束を果たすため、それから異世界侵略戦争を勧善懲悪し、人々の命を助けるため、引き受けようと思う。ただし、ソフィーナ第一王女との婚姻は、恋愛結婚を望んでいる事だけははっきり言おうと思う。それでよいか?」


「はい。それが晴人さんの本音ならばそうお伝えください。ただし、これだけは覚えていてください。この異世界では15歳になったら結婚できるのです。晴人さんは、

23歳です。ソフィーナ第一王女は18歳です。ソフィーナ第一王女は素晴らしい方です。心の片隅に置いてください。」


「分かった。」


 晴人には、「ボノ」という優秀で切れ者の執事シツジが配属された。


「晴人様、ただ今より王の謁見エッケンの間にご案内いたします。」


「ボノよ、両脇に晴人タイガーと晴人フェンリルを従えて良いか?」


「はい。従えてよろしいかと存じます。国中の貴族が大勢いますので、驚かれぬようにしてください。」


「うむ。分かった。」




「ただ今、宇宙の支配者『天』であるホワイトドラゴン様の使徒である大和晴人殿が到着なされた。門を開けられよ。」


「ギ、ギ、ギ、ギ、ギ、ギ。」


 多くの貴族たちが見守る中、晴人は両脇に聖獣の晴人タイガーと晴人フェンリルを従えて入場した。貴族たちには、アラカジめ聖獣を伴う旨の説明がなされていたため、騒ぐ気配はなかった。晴人は、王を見つめるふりをしながら貴族たちの様子をウカガった。晴人が想像していたキラびやかな衣装を着けている者はなく、中には粗末な衣装を着けている貴族たちもいた。晴人は、この国の貧しい状況をある程度把握することができた。


「大和晴人殿、そなたが此度コタビの勇者召喚に呼ばれた者であり、宇宙の支配者である『天』のホワイトドラゴン様の使徒であることに相違ないな。」


「はい、相違ございません。」


「現在、我が国パルナ・パーニャ共和国は未曾有ミゾウの国難を抱えておる。また、いつ帝国軍に侵略戦争をしかけられるか不安定な時期である。そこで、ホワイトドラゴン様の使徒である大和晴人殿に王位を継承するものとする。」


「現、パルナ・パーニャ共和国、国王の願いを受けてくれるか?」


「はい、全身全霊をかけてこの国難を乗り越えて見せます。ただし、ひとつだけ条件がございます。」


「何?条件じゃと?」


「はい、私が転移してきた地球という惑星の中の日本では、恋愛結婚をするのが一般的です。人が決めた結婚ではなく、自分たち同士で相思相愛になった者同士が結婚するのが恋愛結婚です。それをお認めになるのならば、この申し出をお受けいたしましょう。」


 突然の申し出に、周囲の貴族たちも国王自身もたじろいだが、国王は、エリス女王陛下とソフィーナ第一王女の方を見ると、彼女たちが微笑んでいたことに気付くと、


「うむ。その件、承諾しようではないか。では、これより戴冠タイカンの儀を執り行う。」


 そして、戴冠タイカンの儀がトドコオりなく行われると、晴人は王の冠を付け、キングチェアに腰を下ろした。


 進行役のボノが

「では、これより新国王となられた大和晴人国王にお言葉を頂戴する。晴人国王、よろしくお願いいたします。」


「うむ。」

 晴人は、おもむろに次元収納ストレージから、銀紙で包んださつまイモの「ベニはるか」と「安納芋アンノウイモ」を取り出し、王の接見の間にいる全ての人々に配った。また、晴人タイガーと晴人フェンリルの足元にも置いた。


「皆の者、よく聞いてくれ。これは私が転移する前に済んでいた地球という惑星の鹿児島カゴシマという土地の名産品で「さつまイモ」という。たくさんの美味しいさつま芋があるが、今回は、『ベニはるか』と『安納芋アンノウイモ』を持参した。食べてみるがよい。」


 銀紙を外した貴族や王族たちは、2種類のさつま芋を食べてビックリしたのだ。

「おいしい!」

アマい!」

「何という旨さじゃ!」

「これならいくらでも食べられるぞ!」


 パルナ・パーニャ前国王もエリス前女王陛下もソフィーナ第一王女もその甘さと美味しさに驚きを隠せなかった。

「お父様、お母様、ほっぺが落ちそうな美味しさです。香りも素敵です、最高の食べ物ですわ!」



「皆さん、よく聞いてください。なんと、この2種類の作物は、栄養がない土地でもよく育つのです。」


「な、何と!栄養がない土地でも育つ⁉」


「パルナ・パーニャ共和国の畑にぴったりじゃやないか!」


「貴族の皆さん、種芋を持ってきました。これを良く耕した土に植えて水をあたえてください。たくさんの実がなります。栄養も豊富です。健康にも良いです。主食にもできます。この2種類の種芋を持ち帰り、住民の全てにお配りください。もちろん、貴族の皆様の畑にも植えて下さい。」


「さて、今度は、紅はるかと安納芋のお菓子を配ります。食べてみて下さい。」

 晴人は、次元収納ストレージからたくさんのお菓子を取り出して配った。


「うまーい!」

「最高じゃー!」

「何だ、この旨さは!」

「こんなお菓子は初めて食べましたぞ!」

 貴族たちは大喜びだった。


 またもや、パルナ・パーニャ前国王もエリス前女王陛下もソフィーナ第一王女もその甘さと美味しさに驚きを隠せなかった。

「お父様、お母様、天国のような美味しさです。こんなおいしいお菓子は初めてですわ。最高の食べ物です!」




「ええーっ、このお菓子のつくり方を描いたレシピを「紅はるか」と「安納芋」の種芋の箱の中に入れておきましたので、作ってみてください。」


「ハハーッ。心より感謝いたします。」

「ハハーッ。心よりお礼申し上げます。」

「ハハーッ。心よりありがたく頂戴チョウダイしたします。」


 晴人タイガーと晴人フェンリルもこの美味しさには驚いて、物体再現魔法を何度もかけて、こっそりと次元収納ストレージにしまい込んでいた。


 すると、どこからともなく自然発生的に「万歳」の声が起こり、それがみるみる広がっていった。


「晴人国王陛下、バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」

「晴人国王陛下、バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」

「晴人国王陛下、バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」


 進行役のボノが

「以上をもちまして、パルナ・パーニャ共和国国王の戴冠式を終了いたします。」

 と言うと、貴族の全員が膝を折り曲げ、頭を下げた。


 その姿を見て、最も泣いていたのは、前国王であった。心の中で「自分の目に狂いはなかった。最高の人物に位を譲って良かった。」と思っていた。


 貴族たちは全員が嬉々キキとして古びた荷馬車に2種類の芋を載せてそれぞれの領地へ戻っていった。その姿を見たソフィーナ第一王女は泣いていた。そして、その姿を後ろから大和晴人は見守っていた。


 その後、王の部屋に晴人と前国王、前王妃、ソフィーナ第一王女、晴人の執事ボノが集まり、コーヒーと紅茶と紅はるかと安納芋をいただきながら幸せな気分をあじわっていた。すると、晴人が立ち上がり、おもむろに椅子を持ち出し、自分の席の隣に置いた。そして、


「ボノ、隣に座りたまえ。」


「いいえ、結構でございます。執事たるもの王の後ろに立つのが慣例でございますのでご容赦ヨウシャください。」


「だめだ。俺とボノはこれからの難局を一心同体で乗り越えていく同志だ。だから座りたまえ。これは、王の命令だ。」


「ハハーッ。」

 ボノは恐縮しながら、コーヒーと2種類の芋を味わっていた。その姿を見た前王は、「わしに足りなかったのはこれじゃ。人の心を一瞬にしてわしづかみにする真心じゃ。」と思った。

 また、ソフィーナ第一王女も「何という豊かなお心の持ち主なのでしょう。身分にとらわれず、同じ困難な道を歩む同志と言われた。このような素晴らしい男性と初めて出逢いましたわ。」と晴人に心から感服していた。



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