第5話 晴人、城へ出向く

 晴人は、パルマ・パーニャ共和国の国王陛下に言葉を掛けた。

「よく『骸骨の森』へ来られましたね。魔物や魔人たちに殺されるとは思わなかったのですか?」


「命がけで参りました。私は一人で出向こうとするのですが、エリス女王とソフィーナが私たちも一緒に行くと言って聞かなかったものですから、どうしようもありませんでした。」


「もし、私が『骸骨の森』の王でなければ、あなたたちは殺されていましたよ。」


「晴人殿、今、何と申されましたか?」


「私がこの『骸骨の森』の王です。この『骸骨の森』の魔獣や魔人、ダンジョンの魔獣や魔人とそこにいる生き物すべての王になりました。勿論モチロン、ブラックドラゴンなども全て私の部下です。ですが、このことは絶対に誰にも話さないと約束してください。秘密にしておきたいのです。」


「ハハーッ。お約束は身命を賭して御守いたします。」


「晴人殿、これが『天』であるホワイトドラゴン様の使徒のお力なのですか?」


「そうです。私の父も『天』であるホワイトドラゴン様の使徒でした。」


「まあ、素晴らしいですわ!」


「にわかには信じ難いこと成れど、あのブラックドラゴンもシカり、聖獣のゴールデンサーベルタイガーもシカり、聖獣のイエローフェンリルもシカり、そして、わずか2日間でこのような大豪邸のログハウスを造ることシカり、まさに晴人殿は誰も為し得なかった『骸骨の森』の王なのですね。このことはまさに国家機密ですぞ。他の国に知れたら大変なことになります。絶対にこのことは内密に致します。」


「そのようにしていただけると、有難いです。」


「晴人殿、城にはもういらっしゃる気はないのでしょうか?虫のいい話ですが、晴人殿を召喚した目的は、この乱世の時代を生き抜くには、名君でなければ、帝国に支配され、民が奴隷にされてしまうのです。今も食糧難の問題を抱えており、国庫の資金も不足しております。私は暗君ですが我が国の民を愛しています。課税をして民を苦しませようとは思いません。実は私は田舎の貴族出身でして、この国で経理の仕事をしておりました。城内の庭に魔物が現れ、エリス第一王女が大怪我をなされた時に助けたことがきっかけとなり、エリス第一王女のたっての願いとあって当時のパルマ・パニーニャ国王陛下のお許しを頂き、婿ムコとして国王の座に就いたのでございます。されど、民の生活を豊かにし、帝国軍に負けぬほどの軍事力をもつ才覚はございません。ですから、何とぞパルマ・パーニャ共和国の国王になってもらいたいのです。身勝手なことを承知の上で、申し上げております。何とぞ、城へお越しいただけるようお願い申し上げます。」



「おい、ミニッツ、俺はどう返事したらいいんだ?」


「実は、城に向かう前に晴人さんには、是非やってもらいたいことがございます。」


「ミニッツ、それは何だ?」


「後で詳しく説明いたしますので、パルナ・パーニャ共和国の国王陛下には、『考えさせてほしい。』とだけお答えください。」


「分かった。そうしよう。」



「パルナ・パーニャ共和国の国王陛下様、お申し出に感謝します。しばらく考えさせてください。」


「はい、もちろんでございます。いきなり申し上げたのは私の方ですので、考える時間をお取りになってください。」


「誠に申し訳ありませんが、そのようにさせて頂きます。」


「無論でございます。」

 そのとき、晴人は『天啓の瞳』を使って、3人を見つめた。すると、現パルナ・パーニャ共和国の国王陛下は、「短気で短絡的。しかし、実直で誠実。民を心から愛する国王。帝国軍の侵略に恐れをなしている。」と出た。そして、エリス女王陛下は、

「心豊かな母性あふれる王妃。晴人の誠実さを気に入り、ぜひとも国王にしたいと考えている。」と出た。最後にソフィーナ第一王妃は、「『真実の判別能力』をもつ才女にて、心豊かで母性あふれる思い遣りと優しさのある女性。晴人と夫婦メオトになれば、晴人は生涯幸せとなる。また、現在、晴人に恋心を抱いている。」と出たのである。晴人は、その天啓の瞳の答えに、つい顔を赤らめてしまった。


「晴人様、差し出がましいようですが、お顔が赤いようです。お熱があるのではありませんか?」

 とソフィーナ第一王女が尋ねた。


「いいえ、大丈夫でございます。ちょっとコーヒーが熱かったものですから。」

 と応えた。

 その後、4人は雑談をした。するとパルナ・パーニャ共和国の国王陛下が、


「突然の訪問にて、長居は無礼ですので、これにて城に帰りたいと思います。」


「それでは、私の近くに参ってください。」

 と晴人は申し出た。3人は晴人の近くに集まってきた。


「空間転移!」


「スッ。」


「パッ。」


「はい、お城に到着いたしました。」

 と晴人が申し出ると、3人は目が点になって驚いていた。


「晴人様、これは何という魔法ですの?」

 とソフィーナ第一王女が尋ねた。


「場所から場所へ一瞬に移動できる『空間転移魔法』です。」


「まあ、なんて素敵な魔法なのでしょう!」

 と笑顔で応えた。晴人は内心「何て笑顔の似合う人なんだろう。」と心を奪われてしまった。


 すると、パルナ・パーニャ共和国の国王陛下は、

「これは、国家機密じゃ。他国に知られたらマズいことになる。晴人様を奪われてしまう。」

 と慌てていたものだから、エリス女王陛下とソフィーナ第一王女と晴人は大笑いをした。


「パルマ・パニーニャ共和国の国王陛下、エリス女王陛下、ソフィーナ第一王女、今日はお会いできて良かったです。それでは、失礼いたします。」

 晴人は、ニコッと笑ってその場を去った。


「スッ。」


「まあ、何てすがすがしくて誠実なお方なのでしょう。そよ風のようですわ。」

 とエリス女王陛下がつぶやいた。ソフィーナ第一王女は自分の胸が熱くなってくるのを感じていた。


「パッ。」


「ふう~。疲れたな。もう一杯コーヒーを飲んでくつろごうか。」

 そう言って、晴人はお気に入りのキリマンジャロを飲んだ。


「晴人さん、ご苦労様でした。」


「ああ、ミニッツか。ちょっと疲れたよ。でも、大丈夫。心地よい気疲れだから。そう言えば、ミニッツは俺に話したいことがあると言っていたな?」


「はい、実は、このダンジョンの最下層は100階までとされていて、晴人メタリックドラゴンがおります。晴人メタリックドラゴンは、ブラックドラゴン並に強い魔物なのです。『天』は、この宇宙全体から悪事をしてきた者たちから金銀財宝を数え切れぬ程、没収し、101階のダンジョンに隠しているのです。その伝説を知った者たちが何十万人という軍隊を派遣して、全滅したのです。だから、この地は『骸骨の森』と呼ばれているのです。父である『天』がこの金銀財宝を晴人さんに渡すように命じられました。晴人さんの好きなように使っていいと。」


「何!そんな山ほどある金銀財宝をいったいどこに運ぶのだ?」


「晴人さん、何も心配はございません。次元収納ストレージは無限です。次元収納ストレージを出して、『金銀財宝よ入れ!』と命ずれば、一瞬で次元収納ストレージに入ります。それをしていただきたかったのです。」


「なるほど、悪人や海賊、帝国に奪われるのを防ぐためか。」


「そうでございます。」


「分かった。それならいいよ。」


「晴人メタリックドラゴンには話はしてありますので大丈夫です。今すぐに101階に転移しましょう。」


「うん。いいぞ。」


「スッ。」


「パッ。」


「ウワアアアア!何だこりゃあ!こんな広い部屋にみたこともない金銀財宝の宝物ばかりじゃないか!」


「晴人さん、次元収納ストレージを出して下さい。」


「うん。分かった。直ぐに出すよ。」


「スッ。」


「パッ。」


「あれれ、無くなったぞ。この部屋が空っぽだ。」


「晴人さん、次元収納ストレージの中を覗いてみて下さい。」


「うん。」


「ウワアアアア!何じゃこりゃあ!」


「おそらく、日本円に直して、9999兆円の100倍以上ありますよ。」


「ミニッツ、こんなに大金をもって、どうするんだよ!」


「少しずつ、善いことに使っていきましょう。私がアドバイスしますから。」


「うん。善いことならいいぞ。頼むぞ、ミニッツ。」


「かしこまりました。お任せください。」


「では、本拠地に参りましょう。」


「スッ。」


「パッ。」


「主、突然いなくなったので私も晴人タイガーも心配しておりました。」


「ごめん、ごめん。ちょっと野暮用があったから。」


「晴人タイガーも晴人フェンリルもノドカワいただろう?ミルクをあげるからちょっと待っていてくれ。」

 晴人は、父の彰たちが使っていた超大型の冷蔵庫から、ミルクを出して銀のボウルにミルクを注いで、晴人タイガーと晴人フェンリルに飲ませた。


「う~ん!おいしいです主!なつかしい味がします!」

 と晴人フェンリルが言うと、


「うん、最高の味です。いくらでも飲めます!」

 と晴人タイガーが喜んでくれた。


「さっき、心配をかけたおびだよ。」


「晴人さん、これで全ての用事が済みましたが、明日、城に行ってみませんか?」


「う~ん、そうだな。もうわだかまりはないよ。城に行くよ。」

 その後、夕食を済ませ、晴人タイガーと晴人フェンリルに赤ちゃんサイズになってもらい、お風呂に入った。晴人は、日本からもってきたシャンプーで晴人タイガーと晴人フェンリルを丁寧に洗い、リンスをした。その後、気疲れした晴人は晴人タイガーと晴人フェンリルと一緒に床に就いた。


 翌朝、朝食が済むと

「ミニッツです。晴人さん、このログハウスを次元収納ストレージにしまい込んだら、城に参りましょうか?」


「うん、そうするよ。今からログハウスを次元収納ストレージに入れるね。」


「スッ。」


「パッ。」


アルジ、すごい魔法ですね。驚きました。」

 と晴人タイガーがつぶやいた。すると、晴人フェンリルも

アルジ、一瞬にして無くなりましたね。」

 と驚いた。


「あれ、お前たちにも次元収納ストレージ魔法は付与したよ。何でも無限に入るし、腐らないよ。夕食のステーキも入れていいんだよ。いつでも新鮮に食べられるぞ。」


「本当ですか、これからは頻繁に使わせてもらいます。」

 と2匹は喜んでいた。


「じゃあ、城に行くとしますか。」


「スッ。」


「パッ。」


 城の中庭に入ると、ソフィーナ第一王女がバラの花を摘んでいた。


「まあ、晴人さん!」


「やあ、ソフィーナ第一王女さん。バラの花が綺麗ですね。」


「はい。ありがとうございます。私、お花が大好きなんですの。直ぐに父と母を呼んで参りますね。」

 そう言って、ソフィーナ第一王女は駆けていった。

 すぐに、パルナ・パーニャ国王陛下とエリス女王陛下が近衛兵たちとやって来た。


「晴人殿、よくぞ参って下さった。感謝いたします。」


「晴人さん、いらっしゃいませ。お待ちしておりましたよ。」


「あのお~、実は城に入る前に相談があるのですが、私だけでなくみなさんのボディーガードをする役目で晴人タイガーと晴人フェンリルを城に入れていいですか?」


「それは大変心強いです。どうぞ、聖獣様をお入れください。」


「晴人タイガー、晴人フェンリル、出ておいで。」


「パッ。」


「パッ。」


「オオー!実に素晴らしい!我がパルマ・パニーニャ共和国に聖獣様が2匹も来てくださるとは重畳チョウジョウです。心より感謝申し上げます。」


「パルナ・パーニャ国王様、ありがとうございます。」

 と晴人タイガーは挨拶をし、

「パルナ・パーニャ国王陛下、今後とも宜しくお願い致します。」

 と晴人フェンリルは挨拶をした。


「まあ、何て可愛らしいのかしら。」

 そう言って、ソフィーナ第一王女は晴人タイガーと晴人フェンリルをでて、首に抱き付いていた。

 その姿を見て、なぜか晴人はドキドキしていた。

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