第4話 晴人、謝罪する勇気ある者を咎めず

 晴人は翌朝、大念話を利用して晴人の部下になった『骸骨の森』の魔獣や魔人たちや、『骸骨の森』の中にあるダンジョン内の魔獣や魔人、棲んでいる生き物全てに招集をかけた。


 晴人に忠誠を誓ったものたちは全て、転移魔法を付与されているため、一瞬で数十万の部下たちが、ログハウス前の広場を埋め尽くした。


「みんな、朝早くから済まない。今日、みんなを呼んだのは他でもない。俺が幾つか守ってもらいたいルールを伝えるためだ。俺が魔法をみんなに幾つか付与した時に、

みんなの瞳に人間を見分ける探知能力を仕込んである。人間を見たときに、その人間が赤く見えたら悪人だ。殺してもいいし、食ってもいい。その人間が黄色に見えたら

諜報員や暗部の者だ。殺してしまうとどこの国の者か分からなくなるから、念話で俺に必ず知らせてくれ。食うんじゃねえぞ。それと、青色に見える人間は、「善」といって、善い心をもっている人間だ。その人間は絶対に殺すな。俺に念話を入れて知らせてくれ。それから、お前たちが棲んでいる『骸骨の森』から勝手に出て、村を襲ったり、街を襲ったり、城を破壊したりするな。」


 すると、晴人ブラックドラゴンが

「主よ、人間を食わないと、みんな腹が減るんですがどうすればいいんですか?」

 と尋ねてきた。


「俺が、これから『骸骨の森』を飛び回って、野生の動物を100倍に増やしてくるから、野性ブタや野生イノシシ、野性ジカ、野性グマなどの野生の生き物を食べてくれ。」


「ええーっ、主は野生の動物を100倍に増やせるんですか?」


「ああ、楽勝だ!」


「イヤッター!主よ、最近、少しずつ、森の野生動物の数が減っていたんですよ。だからとても有り難いです。」


「そうだったのか。それで、もう周辺の村や街を襲っていたんだな。」


「はい、そうです。でも、もうその必要はなくなりました。」


「俺がうんと野生動物を増やしておくから腹いっぱい食ってくれ。」


「主よ、我々全部は主の配下ですが、何という名前を付けて呼んだらいいのですか?」


「う~ん。よし、『晴人軍団』だ。これからは仲間であり、家族でもある。だから『晴人軍団』と名乗るがいい。」


「ハハーッ。これからは『晴人軍団』と名乗らせていただきます。」


「以上だ、解散!」


「パッ。」

「パッ。」

「パッ。」

「パッ。」

 数十万の部下たちは、転移魔法を使って目の前から消えた。


 すると、晴人タイガーと晴人フェンリルが、

「主よ、そのような仕事は、私と晴人フェンリルにお任せください。私と晴人フェンリルは、どの場所にどんな野生動物がいるか知り尽くしています。転移すればすぐに終わりますので、お任せください。」


「晴人タイガーと晴人フェンリル、ありがとうな、とても助かるよ。」


「では、行って参ります。」


「スッ。」

「スッ。」


「ミニッツ、『骸骨の森』ってどれぐらいの広さなんだ?」


「はい、南北に約5000km、東西に広いところで2000kmはあります。そんなに広いのか?晴人タイガーと晴人フェンリルは大丈夫かなあ?」


「晴人さん、彼らは広さを知っているので、座標軸で転移しながら野生動物を物体再現魔法で増やしていますよ。100倍どころか、1万倍に増やしていますよ。」


「ミニッツには見えるのか?はい、一応、『天』の息子なので分かります。」


「ミニッツは凄いな。」


「あっ、そうだった。晴人さんにこの惑星フリースランドの現在の状況を万能地図を使って説明しますので、ログハウスに入りましょう。」


「うん、頼むよ。」


「これが万能地図です。先ず、これが昨日、転移したパルマ・パーニャ共和国です。その上にあるのが、ロンバルド共和国です。そして、パルマ・パーニャ共和国の下にあるのが、ダ・マールダ・オデッサ共和国です。パルマ・パーニャ共和国とダ・マールダ・オデッサ共和国の西側にある緑色の地帯が『骸骨の森』です。ダ・マールダ・オデッサ共和国の下にある国が、ノールランド共和国です。この4つの国を併せて『東方諸国連合』と呼びます。それから、アレクサンデル連邦国がここにあります。その上に、アルゴン連邦国があって、その左下にコアベイル連邦国があります。この3つの国を併せて、『南方諸国連合』と言います。そして、西にある3つの国が、真ん中にあるのが神聖バルト公国で、その右が神聖エディオン騎士団王国です。そして左が神聖バルト騎士団王国です。この3つの国を併せて、『神聖バルト連合』と言います。最後に、赤い線で塗られているところが『帝国連合』になります。東西に最も大きい国がロジア大帝国です。ロジア大帝国の真下に二番目に大きな国がありますよね。これが、ヂャイナ帝国です。最も東にあるのがキムジョン帝国です。そして、最も西にあるのが、アルメディア帝国で、その隣がベラルシ帝国。その東隣がイスラルド帝国です。帝国は全部で6つあります。それを併せて『ロジア大帝国連合』と呼びます。」


「ミニッツ、なぜ、『東方諸国連合』と『南方諸国連合』と『神聖バルト連合』はこんな隅に追いやられて、ロジア大帝国とヂャイナ帝国だけがこんなにデカいんだ?」


「はい、この赤色で塗られている国は全て『ロジア大帝国連合』ですが、このロジア大帝国とヂャイナ帝国が中心になって、他国への侵略戦争を仕掛けて、すごい勢いで国土を増やしていったのです。それに対抗するために、『東方諸国連合』と『南方諸国連合』と『神聖バルト連合』ができたのです。」


「ミニッツ、こりゃあ、ひでえなあ。日本の戦国時代より酷い状況じゃねえか。」


「はい、そうです。惑星『フリースランド』大陸の約5分の4近くまで『ロジア大帝国連合』が割合を占めています。これは、ロジア大帝国のウラジミルブーチンⅠ世が国王に即位した時を同じくして、ヂャイナ帝国のチュウキンペイが国王に即位してから他国への侵略戦争が始まったのです。この5年間で亡ぼされた国は7か国に及びます。」


「ひでえ話だなあ。ミニッツ、地図を見ると「帝国」と「共和国」と「連邦国」と「公国」があるが、どこがどう違うんだ?」


「はい、言葉の意味より実態で説明します。「帝国」は「侵略国」を意味します。人間至上主義を標榜に掲げています。「共和国」は「多種族の亜人たち」が散在している状態の国です。「連邦国」は領土ごとに人間の居住地と亜人の居住地が区分されている状態の国です。「公国」は宗教国家だと捉えて下さい。地図で言うと「神聖バルト公国」が宗教国家でそれを守るようにして「聖エディオン騎士団王国」と「聖バルト騎士団王国」が存在します。」


「おっ、晴人タイガーと晴人フェンリルが帰って来たぞ。」


「主、野生動物を現在の1万倍に増やしてきました。」

 と晴人フェンリルが報告した。


「すごいな。ご苦労様です。晴人フェンリルも晴人タイガーもありがとうな。」


「ハハーッ。」


「晴人さん、骸骨の森の東側中央に侵入者が3名。むむっ、晴人さん、パルマ・パーニャ共和国の国王陛下とエリス女王陛下、そして、ソフィーナ第一王女です。」


「はあ?何だって?パルマ・パーニャ共和国の国王陛下とエリス女王陛下、そして、ソフィーナ第一王女?この3名は命知らずの大馬鹿者か?」


「晴人さん、おそらくは晴人さんに逢いに来たようです。」


「よし、遠距離聴覚魔法で会話を聞いてみよう。」


「オオー!何という所だ、この『骸骨の森』は。足元が人間の頭蓋骨だらけだぞ。もう、晴人殿は死んでいるのではないのか!」


「あなた、何を言うのですか!晴人様は、『天』であるホワイトドラゴン様の使徒ですよ。必ず生きています。」


「そうです、お父様。お父様が原因で晴人様はこの『骸骨の森』に追放されたのですよ。晴人様は、私の『真実の判別能力』で『善なる天の使徒にてこの国の救済者』と出たのですよ!それなのにお父様は、短気を起こすからこうなるのです。」


「じゃから、命がけで謝罪に向かうのじゃ。そなたたち二人は危険じゃから付いてくるなと申したであろうが!即刻、帰るのじゃ!わし一人で謝罪に行くのじゃ!」




「晴人さん、どうしますか?」


「ちょっと脅かしてやろう。俺を追放した罰だ。ミニッツ、晴人ブラックドラゴンに念話を入れて、あの三人を迎えに行くように伝えてくれ。」


「かしこまりました。」



「あ、あ、あなた!空を見て!ブラックドラゴンよ!」


「何たることだ!初めて見たぞ!何という大きさじゃ!そなたたちは逃げるのじゃ。食われるのはわし一人で十分じゃ!」


「お父様、こちらへ向かってきます。」


「バサッ、バサッ、バサッ、バサッ、バサッ、バサッ。」


「おい、そこの三人、我がアルジのもとへ連れて行くゆえ、わしの背中に乗るのじゃ。」


「ハハーッ。おい、エリス、ソフィーナ、ブラックドラゴン殿の言う通りに背中に乗るのじゃ。」


「はい、あなた。ソフィーナ、乗りましょう。」


「しっかりと背中のウロコツカんでおけ。振り落とされぬようにな。」


「ハハーッ。」



「よし、もうすぐこちらに来るだろう。晴人タイガーと晴人フェンリル、本来の大きさになってくれ。国王を脅かしてやりたい。」


「ハハーッ。」



「さあ、我がアルジのもとへ着いたぞ。」

 三人は、ブラックドラゴンの背中から降りた。すると、ブラックドラゴンが、


「我がアルジよ、3人を連れて参りました。」


「うむ。ご苦労であった。この肉を持って行くがよい。」


「ハハーッ。有難き幸せでございます。それでは頂いていきます。また何かありましたらお呼びください。」

 ブラックドラゴンは、牛肉のかたまりを口にくわえると天高く飛んでいった。すると今度は、ゴールデンサーベルタイガーとイエローフェンリルを見て、国王は腰を抜かした。


「ゴ、ゴ、ゴールデンサーベルタイガーとイエローフェンリルじゃあ!は、初めて見たぞ!何という大きさじゃ!」


「あなた、よく見なさい!晴人様が真ん中にいらっしゃるじゃないの!ちゃんとご挨拶いたしなさい!」


「お父様、ゴールデンサーベルタイガーとイエローフェンリルは『聖獣』ですよ。」


「は、は、晴人殿、せ、せ、先日は、」


「晴人さん、ログハウスに入れて話を聞きましょう。」


「うん、ミニッツの言う通りにしよう。」


「御三人、こちらへどうぞ。」

 晴人は、そう言って大きなログハウスに案内した。


「な、何という大きなログハウスじゃ!」


「あなた、参りますわよ。」


「どうぞ、お入りください。」

 晴人は、リビングルームに案内し、テーブルの椅子に座るように促した。すると、パルマ・パーニャ共和国の国王陛下は、床に正座をし、晴人に頭を下げて言った。


「晴人殿、わしの愚かな過ちをどうか、どうか、お許しください。この地へ追放したことをどうかお許しください。神官長の言ったことを真に受けたこの私が愚か者でした。誠に申し訳ありませんでした。」


 晴人は敢えてしばらく黙っていた。女王陛下と第一王女はその姿を黙ったまま見守っていた。

「パルマ・パーニャ共和国国王陛下、頭を上げて下さい。」


 パルマ・パーニャ共和国の国王陛下パルマ・パーニャは、大粒の涙を流していた。


「晴人殿、誠に申し訳ありませんでした。どうか私の過ちをお許しください。」


 晴人はその3分後に、口を開いた。

「人間にとって、自分の非を素直に認め、謝罪する行為とは崇高なものです。勇気がなければできぬ行為です。私は、その崇高で勇気を持った者を咎めようとは思いません。どうぞ、お顔をお上げください。」


 その言葉の重みにエリス女王とソフィーナ第一王女は、強く胸を打たれた。


「晴人殿、では、お許しいただけるのですか。」


「はい。」


「ハハーッ。誠にありがとうございます。」


「国王陛下、どうぞ椅子にお座りください。」


「ハハーッ。」


「国王陛下とエリス女王陛下とソフィーナ第一王女は、紅茶とコーヒーのどちらがお好きですか?」

 そう尋ねると、国王陛下にはコーヒーカップを手渡し、エリス女王陛下とソフィーナ第一王女には手渡した。


 と、そのとき、晴人タイガーと晴人フェンリルが晴人の両脇に現れた。


「な、何と!聖獣ゴールデンサーベルタイガーと聖獣イエローフェンリルが・・。」


「私の部下です。体の大きさを自由自在にする魔法を与えました。」


「初めまして、晴人様の部下の晴人タイガーです。よろしくお願いいたします。」


「初めまして、同じく晴人様の部下の晴人フェンリルです。よろしくお願いいたします。」


「まあ、人の言葉が話せるのですね。素晴らしいですわ。こちらこそよろしくお願いしますね。」

 とソフィーナ第一王女が挨拶を返した。晴人はその気心に感じ入った。


「何て可愛カワイらしいのでしょう。晴人様は、部下に聖獣が2匹もいらっしゃるのですね。こちらこそよろしくお願いしますね。」

 とエリス女王陛下が挨拶を返した。その言葉を聞いた国王も、


「初めまして、私は国王のパルマ・パーニャです。どうぞよろしくお願いいたします。」

 と挨拶を返した。晴人はその言葉を嬉しく感じた。

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