ラブホテル

読み切り

ねぇ聞いてよ

お付き合いして数ヵ月の彼氏と

まだ若干明るい時間だったけどラブホテル入ったんだ

ほらあそこ

高速のさ、ラブホが数軒建ってるとこあるでしょ

あそこの１つ

そう狭くもない部屋だったよ

最近のラブホの定番のアジアンリゾート風でさ

なかなか良かったんだよ

なのにさ

部屋のラタンソファと壁の隙間に

膝抱えてうずくまってる

作業着みたいなの着た男いてさ

え？

なにこれ？

誰？

凄いびっくりしたけど

彼氏は何も見えないみたいで

私は

彼氏がトイレへ行ってる間に

慌てて履いてたスリッパを手に持ち直して

試しにそいつを叩いてみたけど

スリッパは壁とソファの間で宙を空振るだけ

「？？？」

何これ？

え、幽霊？

なら除霊？

塩？

でも塩なんかないし困ったなと思ったら

「あぁそういえば」

と思い付いたんだよ

部屋にあったリセッシュを

シューッ！

と振り掛けたら

作業着さんは少しもがいてた見えたけど

ナメクジみたいに小さくなって消えた

私は一仕事終えた気分で

トイレから出てきた彼に先にシャワーを勧めたんだ

初めてでいきなり一緒にお風呂はさすがにね

恥じらいも必要

何か飲もうかなと無駄に隠される冷蔵庫探そうとしたら

今度は

６階建ての４階のベランダなんてない

はめ殺しのガラス窓を

外からバンバン叩かれたんだよ

カーテン開けたらさ

ご丁寧に手の影まである

あのね

そのね

実は

今日はさ

奥手の彼氏をね

何とか言いくるんであの手この手で口説き落としてね

いい加減食わせろやとね

やっとこさここまで連れ込んだ日だったからさ

もう色んな意味で限界でさ

窓に向かって

「お前は今日

この日まで私がどれだけ耐えて粘って

彼を口説き落としたと思ってんの？

邪魔したら解ってるよな？

覚悟できてんだろうな？」

って

窓に向かって全身全霊の気合い込めてガラス越しに凄んだら

窓バンバンが止んだ

よし

いいぞ

それでさ

そわそわしながらお風呂から出てきた彼に

「私もシャワー浴びるね～♪」

なんてね

彼には気付かれないように

「邪魔すんなよ」

って部屋を一通り睨み倒してから滝修行の勢いでシャワー浴びて

急いで出てさ

なのにさ

ここに来てピヨッちゃう彼氏よ

可愛いね

じゃあ少しリラックスしようか～と部屋を見回したら

そういや

部屋の一角で今更存在感を放つ酸素カプセルがあった

そうだった

部屋に入るなり予想外に忙しくて

目にも止まらなかった酵素カプセル

アジアンテイストの部屋で無茶苦茶浮いてるのにね

あぁそうだ

部屋選ぶ時も

「え～どこにするぅ～？」

なんて身体を無駄にくねらせながらさ

内心は

(もうやれるならばどこでもいい)

と適当に部屋のパネルボタン押したから忘れてたけど

こんなんあったね

ダーリンの緊張もほぐれるかねと

「ちょっと入ってみる？」

なんて酵素カプセル開いてみたらさ

うん

全裸のおじさんが横たわってたよね

リセッシュで何とかなるタイプでなく

明らかに生存してるおじさん

生おじさん

なんかね

私たちの前の時間にデリヘルを呼んでたみたいで

デリヘルさんとのあれやこれやの如何わしいコトが済んでから

好奇心で入ってみた酸素カプセルが思わぬ快適さで

爆睡しちゃってたらしい

おい

ホテルのバイトと清掃

客の出入り管理と掃除が杜撰すぎるだろうよ

ホテル代は返金して貰ったし

割引チケット貰ったけど二度と行くかだよ

それでさ

やっぱりそのあとは彼氏がやる気なくしてさ

もう絶対

あの地縛霊だか窓バンバンとか何だかのせいだよね

え？

生おじさんのせい？

そうかなぁ？

うん

つい昨日の話

結局彼氏も食い損ねたし

……

何？

言いにくい？

何が？

うん

怒らないよ何？

言ってよ

え？

多分がっつきすぎの私に一番引いてた？

えー？

発情期のメスゴリラ？

ははっ

おい

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