4.Strike the iron while it is hot.

「と、言うのが昨晩起きた事の全てだ。改めてアーサーには悪い事をしたと思ってる。本当にごめん」


『いや、こればかりは俺も悪いな。昨日、夕方以降は酒を飲んでいた。役人が呼びに来た時にはぐっすりだったはずだ。そして、ちゃんと話を事前に聞くことができてりゃあ、こんなややこしい感じになる事も無かったはずだ』


「そう言ってくれると助かるよ」


昨日だけでは無く、割と日常的に飲んだくれてるのが大半だが、わざわざそれを自分から白状する事もないだろう。


二人の語ったその話は非現実的と言える内容ではあったものの、自分自身が経験した事柄と符合する点もあった。今後の方針は固まったと言える。


『気にするな。それよりこれからの事を話したい。気を悪くしないで欲しいんだが、確認の為にも、村全体の様子を見に行こうと思う。無論、このショットガンは返そう。無いといざという時に困るだろう』


状況から考えてもあまり疑ってはいないが、やはり万が一があるからな。確認は必要だろう、世の中にはだって存在してるのだから。


「最初に敵意を向けたのは私達なのにも関わらず、その気遣いは嬉しいです...が、丸腰で大丈夫なのですか?」


『問題ない。俺自身、ある程度荒事に慣れてるからというのもあるが、正直な所、語った話が事実だった場合の事を考えると、そちらにこれがない場合、後味の悪い結果になる可能性も考えられるからな』


俺が銃を取り上げた事で、いざという時に自分たちを守れず死なれるなんて最悪と言っていいだろう。考えたくもない。俺?俺はどうにかなる。どうにかする。


「荒事に慣れてるのは痛いほど理解してるから今更止めないが...足は必要か?車ぐらいなら貸せるが」


『気持ちだけ受け取っておこう。静かに動きたいから徒歩のほうが都合が良い。それより、二人はこの後どうするんだ?』


「とりあえずはここから動かず様子見...ですね。もしかすると回線が復旧する可能性もあるでしょうし、私達2人にとっては現状これが最適解だと思います。事実の確認が目的とはいえ、危険を冒して外に出るアーサーさんには少し面白くないかもしれませんが....」


申し訳無さそうな表情で合理的そうに語る那々木さんだったが、言葉にしないだけで怯えも勿論あるだろう事は察しが付く。語ってくれた話が全て事実だとすればショックもまだ完全には抜けきれていないことも想像に難くなかった。


『気にするな、適材適所と言う奴だ。日が落ちるまでには戻る、それまで無事で居てくれればそれで十分だ』



俺は我が家まで戻っていた。理由はいくつかあったが、やはり武器の調達が必要だったというのが大きい。まだ確実ではないとはいえ、噛みつかれたらゲームオーバーの可能性が高い存在を相手にするのだ。包丁や普通のナイフでは役不足という物だろう。


『っと...見つけた』


普段から作業で使ってる小屋にそれはあった


『やっぱりこれが手に馴染むな』


グルカナイフ...いや...日本ではククリだったか、だがこの場合それはどちらでも良かった。重要なのは俺の所有するこいつは刃渡り30cm近くあり、材質も良い物を使っているので、多少雑に使っても切れ味が落ちにくい。この2点である。まさに今の状況にうってつけと言うわけだ。無論、使わずに済むならそれが一番だろうがな。





うちは那々木家から東にほどなく行ったところにある。今はそこから小学校方面に北上している所である。なぜこんな森深い所を不便を承知で突き進んでるかと言えば、理由は明白で、ここら一体がド田舎で視界を遮ってくれるような建物が少なく、止めにはド平坦な土地だからであった。一目に着かないようにするならば不快を覚悟で森を突っ切る他ないのだ。


小雨程度ではあったが、早朝から降っていたため地面がぬかるんでいて非常に歩き辛い。ククリのおかげで、ある程度ルートの自由が効くからまだマシだが、やはり体力を奪われる。那々木家から小学校までは車で5分とかからないが、徒歩であれば20分ほどの道のりなのだ。その距離をこの劣悪な道で行こうというのだから気も滅入ろう。


道半ばまで来てさらに実感するが、やはり人を見かけない...。時計を見ると時刻は十時過ぎ、畑作業をしている人をまだまだ見かける時間である。それに、この村は南北に真っ直ぐ道路を敷かれていて、交通量は都会と比べるべくもないが、それなりにあったはずだ。那々木家で話を伺っていた時から聞き耳を立てていたが、少なくともその時からここに車は一切通ってないようだった。





うんざりするような道をやっとの思いで抜けて出ると小学校に到着。曰く、裏門から入ったとの事だったので同じルートを通ってみることにする。


しかし、とりあえず体育館をグルっと一周してみたが、死体どころか、血の跡一つも見つける事が出来なかった。一体どういう事だ...?、血は雨で流されたとしても、話の通りであれば死体が最低2つはあるはずだ。


『とりあえず中を見るか』


そう独り言をこぼした次の瞬間




ガタン!


自分の言葉を肯定するかのように体育館の中から音がした。

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