2.Seeing is believing.
その長物はこの国では珍しいもので、俺にとっては懐かしい物。
つまりは銃である。その中でも近距離においては無類の制圧力が強味の所謂、ショットガンと言われるものだった。俺は迷いなく手を挙げる。顔がグチャグチャになるのは勘弁してほしいものである。
よく見るとそれをこちらに突きつけているのは快活そうな青年であった。
髪は短く切り添えられていて、細身であっても健康的な印象を受ける。しかし、その両の目は一切の動きを見逃さぬと言わんばかりにこちらを睥睨していた。...たしか、那々木さんちの息子さんだったかな?年の頃は20を超えてはいないはずだったが....えらく幼い印象を受け、同時に、そんな年端もいかぬ子供がこんな物を大の大人に突きつけないといけないぐらいにはよくない状況である事ぐらいは容易に想像が付いた。付いてしまった。
「手を上げたが、次はどうすればいい?裸踊りでもしようか?」
こういう時は“ビビったら負け”、昔そういわれた。
故にそれなりに動揺している心胆を抑え、あたかも余裕しゃくしゃくのように俺は彼を煽る。素っ頓狂な顔をした彼としばらく見つめ合った後、観念したかのように自分から話し始めた。
『ああそうだ!今すぐに服を脱げ...』
彼が言葉をそう紡ぎだしたと同時に丁度いい距離感にあったその銃口の先を思い切り蹴りあげる。
『へ?』
パンッ!
緊張かはたまた無意識か、彼が引き金にかけた指を引いたため銃弾が放たれ、周囲に不快な音が鳴り響く。
今だ
このショットガンは一発撃てば排莢が必要なのだ。チャンスは今
すかさず低姿勢で懐に飛び込み、その動作のために存在している、中腹あたりにあるフォアエンド部を握りこむと、腹に蹴りを入れて突き飛ばしながら、彼からそれを分捕る、排莢。そしてそれを彼に突き付け返す。
「ガキ。一度しか言わないからよく聞け、今の状況を教えろ。何が起きてるかサッパリだ!」
そう彼に告げた。
『勘弁してくれ!昨日から何もかも最悪なんだ!警戒して当然だろ!』
呆気に取られた状態から一気に引き戻されたように、そう彼が捲し立てると何かに怯えるように周囲を見回す
なんなんだ...?何を探してる?
『頼む!銃を俺に向けたままでいい。あんたがマトモなら頼むから家の中に一緒に入ってくれ!』
「やっぱり何か事情があるみたいだな。信じてやる。裏切るなよ。」
彼が真摯な気持ちでこちらに訴えかけてきてるというのが、誰に言われずとも理解できたからというのもあるが、そもそも子供に銃を向けてるというのは非常に胸糞が悪い。銃口は下げ、素直に付いていくことにした。
*
『はぁ...ひと心地つけた』
彼はそういうと、ドアにもたれかかるようにして地面に座る。全気力を振り絞ったといった雰囲気だ。家が全体的にうす暗く、電気が通ってないようだ。大変不穏である。分析もほどほどに彼にインタビューをすることにした。
「んで、説明はしてくれるんだろうな。もう理解してるだろうが、お前らに危害を加える気はない。母親と二人暮らしだっただろう。彼女はどこだ?」
『かーちゃんには上で隠れてもらってる...話せば長いんだが...本当に何も知らないのか?長くなるからまず自己紹介しないか?。ひと心地ついて気づけたが、アンタ、外れに住んでる外国人だろ?俺は那々木...苗字はしってるか。龍之介ってんだ。その銃は下げたままで頼むぜ』
「お前が余計な動きをしない限りはな。アーサー。ミツルギ・アーサーだ。だが苗字で呼ばれるのは好かん。アーサーと呼び捨ててくれ。」
そう俺が言うと彼はすぐに気安く接してくれた。先ほどまでの剣呑さは抜け、年相応の顔を見せてくれている。子供はこれでいいのだ。
しかし、現状の説明を頼むとすぐにその顔にも陰が落ちる事となったし、彼はどうやら母親を交えて話したいようだった。彼に二階に上る事を促されたので、応じる。警戒は解いていないが心配はしていない。この時点で俺は彼を信用していた。深い理由はないが、所謂カンだ。下手なロジカルよりよっぽど役に立つ。
『龍ちゃん!』
缶を利用したお手製の鳴子 に彩られた不穏な階段、家具によって簡易的なバリケードが築かれた二階の廊下を抜けて、寝室のドアを開けると開口一番そう言いながら龍之介を妙齢の女性が抱きしめる。
優しそうな目元にミディアムボブの髪、前会ったときと変わらない。龍之介の母親で間違いなかった。
『銃声が聞こえたから心配していたのよ!怪我はない?』
『ああ...大丈夫だった。あんな銃声の後だったというのに、奴らの姿は何故か影も形もなかった』
喋っているうちに落ち着きを取り戻したのか、やっと俺の存在に気づいたのか、肩越しに那々木さんの視線がこちらを捉える。びっくりしたような表情を一瞬したが、すぐに平静を取り戻したようで、その後の龍之介からの説明もあってか、状況は飲み込んでくれたらしい...。いや、助かるんだが、えらく落ち着いてるなと。
そう感心していると、やっとこさ現状の説明をしてくれるというので、その場に腰を下ろし、深呼吸してから、薬室に残っていた最後の一発を排出し、ショットガンをその場に置き、自身の武装を解除した。カンに頼るまでも無く、危険はないだろうと判断して。
「頼む」
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