アーサーウィズユー

@MagguMagu

1.The early bird catches the worm. 

 ルーティンは大事だ。


 いつか言われたその言葉は未だに脳髄にこびりついていて、俺を構成する原動力の一つとなっていた。今日酷く頭が痛い。だがその言葉を遂行すべく今日も重い腰を持ち上げる、この辺は森深く、ランニングをするだけで足腰が鍛えられる。いつもやってる事ではあるが、やはり早朝の冷えた空気を浴びながら走るのは気持ちの良い物だった。


『俺もいい歳だ。運動は大事だな』


 言い訳の様にそんな言葉を零すのは何度目か、数えるのすら億劫な程だ。何もかもかなぐり捨ててやめてしまえば何か変わるかもしれない。だが、それはきっとだろうな。




 *




 今日もトレーニングメニューに区切りを付け、汗を拭きながらテレビを点ける。昔からテレビの虫で、特に習慣的に朝のニュースは欠かさず見ている。時刻は7時を回った所で、本来であればキャスターのお姉さんと朝の楽しい逢瀬と洒落込むはずだっただが、どうにも様子がおかしい、テレビ自体は点灯しているというのに映らない。どのチャンネルも同様である。配線に問題はない。念の為、パソコンなどの電子機器も試したがどれもこれも同じ症状だった。払い忘れのはずはないので当然ながら何らかの不具合だろうが、如何せん奇妙である。この村はそれなりに都市から離れているといっても、基地局が設置されているために携帯は繋がるはずなのだが。それすらオフラインのままなのだ。しかし、ふと最悪に近い予感がよぎり、それを確かめるべく小走りで車庫へと向かう。


 そこには見慣れた愛車があった。すぐさまドアを開けエンジンを始動する。

 ・

 ・

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 点いた!


 心から安堵する。無論普段からメンテナンスを欠かしたこと等無く。当然の事ではあったのだが、ここまで異常が多いと心配にもなる。このピックアップトラックとは長い付き合いで、家族同然なのだ。名はヴァルキリーと言う...なんだよ悪いか。


 しかし、やはり普通の状況ではないのは明らかだった。こういった異常事態の際、最も大事な事は落ち着いて立ち回る事である。今までの経験上そう結論付けていた。となれば話は早く、一旦、隣の那々木さんの様子を見に行く事にする。隣人ではあるものの付き合いは精々最初の引っ越しの際に挨拶に伺った事と、たまに出かける時に見かける事がある程度か、そんなものである。確か...息子と母親の二人暮らしだったはずだ。




 *




 隣と言えば聞こえは良いがここはドが付く程の田舎、那々木家まではそれなりに離れている。畑畑畑、田んぼ、それらを尻目に歩くうちに気づく。あまりにも人気が無さ過ぎると。いつもであれば農作業中のじいさんばあさんが目に入るような時間である。しかし、今朝から降り出してるこの小雨を除いて自身を主張するような存在はここにはいなかった。やはり何かがおかしい。


 嫌な感じが拭えず足早に急いでいくと間もなく一軒家が見えてきた。那々木家である。確か...ここで間違いないはずだ。正面側に回りドアベルを鳴らす。車はあるし、こんな早朝だからよっぽどの事が無い限り在宅で間違いないだろう。


『ごめんください!隣のミツルギです!誰かいますかー!?』


 しかし、その声かけも虚しく、人が出てくる気配はなかった。5分程待ったころだろうか、さすがに出てこないだろうと判断し踵を返すべく体を動かそうとしたその時、ドアノブに血が付いてるのが目に入った。


『なんだこれ...』


 ずっと感じていた嫌な感じが確信に変わったその瞬間、ドアが大きな音と共に一息に開け放たれ、人が一気呵成に出てきた。


手上ハンズアップげろ!これの弾丸がお前の顔面にめり込む前に」


 そして、黒いをこちらに突きつけ、そう宣言したのである。

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