紺青

白河夜船

紺青

 おれ、宇宙人なんだよね。


 ある日の放課後、僕等しかいないがらんどうの教室で、不意に友人がそんなトンチキなことを言い出した。


 はあ。


 常々掴みどころのない奴だと思っていたが、今日はまた一段と妙な冗談を言う。苦笑して、


 それなら証拠を見せてくれ。


 と何の気なく返事をすれば、友人はふむ、と頷いて自身の学校鞄を探った。筆入れの中から細身のカッターナイフを取り出す。ちきちきという音が鳴り、薄い刃が白色灯の光に映えた。

 友人はそれを己の掌に当てがって、


 すぅ、


 といきなり真横に引いた。一連の動作は滑らかかつ極々自然に行われ、僕は止めるタイミングを逃したまま、ひたすら呆然とする他なかった。一拍の間を空け、やっと事態を飲み込めて、何してるんだ!───そう、叫び掛けた言葉は、目前に現れた光景のあまりの衝撃に、喉奥まで押し戻された。


 友人の白い掌にぱっくり開いた傷口からは、紺青の液体が滲んでいた。表面張力で丸みを帯びたその表には、光の加減によってきらきらと銀色に瞬くものが散っており、窓外に広がりつつある夜空とよく似たそれは、


 血……?


 僕が呟くと友人は笑い、傷口をぺろりと舐めた。それだけでもう傷は塞がり、掌は元通りきれいになって、ただ友人の口端に残った絵の具のような紺青だけが、先ほどの光景が夢ではなかったのだという現実を淡々と主張している。

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