2―任されました、任務

ああ。これはわたしの勘によるともうすぐ超うるさい上司が地上に行く

ことになるらしい、です」

そう。ついさっきいつものように艦長によって上司の暴力から助けられ、慣れた空間に連れてこられた。

艦長は中央の席、わたしはそこから左の席、上司は右側の席になっている。

勿論、どこに坐ろうが比較的古い技術でつくられてるこの戦艦の機械が映し出すそとの風景は空、空だけ。

高度を下げるともう少し面白いものが見れるし、その気になれば山に近くなってない時でも高度を下げるのは大丈夫だが…下げる気はない。

当然だ。高度を下げると地上で住んでいる人間の生活を眺められるようになる。それは…この手ではしたくないことだ。

何故なら、それは…超白狂人上司が楽しい思いをするからである。

だが、わたしのそういう思いがいつも叶うはずはない。むしろ、技術面での貢献度などkらある程度の越権を許してもらえてる側なのだ。艦長の判断で高度を下げることになれば従う他ない。

そして、席についてまもない時、艦長は言ったのだ。高度を下げると。

山が近くになっていればそれは山に頼ろうとしているということだが、わたしの見ている画面の情報からそういうことは読み取れない。

なら、それらしいといえばそれらしい仕事を任せられる時が来ているということにしかならないのだ。

「天鳥、覚えていないらしいから言ってやるが…お前が白蘭の後輩としてここに来てから今までお前の予感が当たったことは一度もないぞ」

「艦長のおじさんはなるほど、この私をそんなふうに評価していたということですね」

「何だろうな…合っているが妙に違う気がするんだよな…とにかくだ、残念だが今回はお前さんの出番だ」

あ…これは面倒です。朝から昼までは上司をからかうのが一日の楽しみだというのに。

仕方のない事ですが…せめて、面白い内容の願い事であってくれれば御の字といったところでしょうか。

「えー爺、何でわたしに仕事回してくれないの。わたしだって行きたいのに…」

「爺呼ばわりするなと何回言えば分かるんだい…とにかく、仕方のないことだろう。うってつけの願い事がなかったんだよ」

「そもそもそうやってわたしとあいつで仕事分け与える必要ってあるの?」

「本来はないかもしれないが…白蘭、お前さんに全部任せるときっと近い内この艦を白に染め上げるだろうから却下だ」

「はぁ~やはり爺は何もわかってないな…白がどんなに美しい色でわたしにぴったりか教えてあげないと…」

「そんな教えは要らない。それから全然答えになってない」

「そうですよ、超馬鹿上司。もう少し人の言葉をしゃべるようにしてください。わが子と話しているうちに人語を使えなくなったんですかね」

「うちの可愛い子たちはとても有能で物分かりが良いの。どこかの部下よりは物分かりが良い」

「先輩後輩関係だろうが…なんでそこはどちらも受け入れてるんだ…」

「それは…そうですね。当然のことです」

「頼むから、それらしいことを言ってくれ」

「それらしい答えになってるに決まってます。そうですね。それでないと超パワハラ上司が超パワハラ先輩になります。とても嫌なことに決まっているじゃないですか」

「ほぉ。なるほど、安心した。天鳥くんもちゃんとイカれてるな。無駄口叩く暇あるなら早くお前さんは仕事しに行け」

「からかいの時間が減るのはとても残念ですが、仕方ありません。さっさと仕事を終わらせてきてましょう」

「オマエマッテロ。イッタナ…カラカッテイタト…」

「こいつはなんとかするからーほら、これが今回の願い事だ」

艦長が丁寧に折られた紙を何枚、わたしの方に飛ばした。

「それから…これは任務用の札だ。んまぁ…札も、その紙も、中身の確認は後でしておけ。この狂―いや、嬢ちゃんで手一杯だ」

「ハナセ、ジジイ」

「あ、ダメダメ。こら、眼帯外すんじゃないぞ」

「―行ってきます」

「おう、行ってらっー落ち着け、白狂人。全くー」

あ、艦長。やりましたね。ご法度ですよ、本人の前でそれは…早く艦から離れた方が良いですね。この戦艦に何か問題が生じることはないだろうと思いますが…あの場に一緒にいれば多分『わたしは目を開けたら二日後でした』とかを口にするようになるでしょう。

それよりそうですね。

戦艦ではありますが、ここに来てから今までこの艦で戦闘を行うことは一回もなかったのが急に気になります。

戻ってきたら、艦長に聞いてみるほかないですね。画面情報上、それらしきものは見当たりますが、はて誰との戦闘を想定しての戦艦だったんでしょう。

不思議です。まぁ…超不思議上司に比べればはるかに分かりやすい謎ではある気がしますが…

あーあれこれ考えるうちに、空に出ました。

正直使わなくても良いですが、まぁ、札をそろそろ使いましょうか。

【天―翼】

【天―タケミナカタの守り】

これくらいで宜しいでしょう。空を飛ぶために必要な翼も生やしたし、太陽に焼かれる心配も水神の守りでどうにかなるはず。

ゆっくり高度を下げながらいきますか…前はごくありきたりの願い事でしたが…今回はいかがでしょう。

あ、そういえば前、確かわたしに任されたはずですが、あっちこっち歩き回る中で超欲張り上司を見かけたことがありますが、今回も艦長の目を盗んで来るんでしょうか。

今回も来たら、少しは楽しくなるかもですね。

うちの上司を腹立たせることより楽しいことはこの世にないのですから。

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天ッ狐、それから虹 @asahi2763

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