A―艦長の日記らしきもの
ここは
この《戦艦》を動かすのは大きく三つの軸。ひとつめは、私という存在自体。代々継がれていく中で多くのものが蓄積されてきた。お呪いが豊富になったのはいうまでもないが、それは別にこの戦艦とは関係ない。
直接に関係しているのは、『クラマ』という名前自体だ。日本という国からもう何百年もくらまという名の存在は信じられ、崇拝の対象とされている。その信仰こそが私のもつ呪力ともいうべきものになっているのだ。
そして、その信仰は先代たちが人の願いを叶えてあげたからこそ今もなお続いているといえよう。
二つ目は、さっきちらっと話したお呪いだ。いつも私が眠い表情となっているのもそのせいだ。空中に艦を飛ばせるためのものから、願いを呪力に変換するための形式的なお呪い、人や機械の目を騙す偽装を行うためのお呪いなど…常時発動させている自分自身もこういうのがあったかとなるくらい多い。多分。
本来、常時発動は無理だが…まぁ、そこは分身を駆使すればいくらか負担は減らせる。それに、とにかく山。山は我が家であるため、わたしの力は要らなくなる。何せ、山に住んでいるお仲間さんたちからちょっと力を借りることで全て解決されるから。
それでもキツい瞬間が多いのが事実。だからこの戦艦は私ひとりではなく他の方より力を借りて、少しでも安全な冒険というかなんというかを続かせることにしている。
そして、それが最後の三つ目だ。
三つ目は要するに、部下のことであるが…あるが…部下として思ったことの方が少ない。
ひとりは雅宗という名の自称イケてる女の子。おじさんひとりのところに突然華が添えられましたと言われそうだが、見た目の8割以上が白となっているのではないかと思わせる、通称『白狂人』であるからとても華だと、一言で言いあらわすことなんざできやしない。毎日自分の後輩と口喧嘩することは基本、そのついでにいつも遅刻をかましてくる。
不必要なお呪いの使用禁止は毎日息を吸うかのように守らない。
ただ、一方の目が少し変わった雰囲気を醸し出しているのだが…何せいつもおじさんの目には同じ白にしか見えない眼帯をつけて来るので詳細は不明。
ただならざるオーラの源はその件の目だろうとは推測しているが…
おっと…ただの悪口を言っているな。この狂人少女に任せられているのは少し変わった内容の願いを叶えてあげること。ついでに現地で現在の文化を調査することである。
勿論、説話に基づき、なら地上に降りることはあってはならぬこと。
よって、出来る限り彼女のお話仲間であり、彼女自身が生み出したともいえる小さく、強いお仲間さんたちに頼っている。
―が、実際は彼女自身もよく地上であれこれやっている。
願いを叶えてあげると、基本当世のもの、その一部が艦内で使えるようになるのだが…彼女は白狂人なのだ。本人曰く、もらう分だけでは白が足りないから死んじゃうことになるらしい。頭が痛くなるのでー次に行こう。っと言ってもこれで最後か。
ここを支えている最後のひとりは『天鳥』という名の男の子。さっきの白狂人と歳は近いように見えたから仲良くしてくれるだろうと踏んでいたが…こいつもとんでもない者だった。
仕事は彼女と同様、自分に任されたものはちゃんとこなしてくれている。因みに、彼には願いを叶えてあげるということ以外にこの戦艦のお呪いの一部に対する強化や改善なども頼んでいるといったところだ。
彼がいなかったら機械まで騙せる代物はこの世に出てこなかったであろう。
ただ、そういう彼にも致命的欠陥が存在する。
それはなぜか知らないが白狂人―いや、白蘭に対してだけいつも突っ込みというか…とにかく彼女を腹立たせる言葉しか言えないのだ。いや、わざとしているのかどうかは分からないが私が見てきた限り、彼の口から彼女に関してのごく普通の言葉は出てきたことがない。
ある意味、彼女が遅刻三昧になっているのも、彼の口振りからのことであろうということは見なくても分かるくらい明白。白蘭がいない時に、何回かそれについて聞いてみたことがあるのだが、どうも本人にはそんな気はないらしい。
余計にややこしい。おじさんには分からない若者の会話の方法というのがあるのか、気になりすまーとふぉんというやつで調べてみたが、そんなもんはないらしい。
あまりに長く続くせいで、正直彼に関してはもう驚く境地になっている。その言葉が愛のこもったものであったのであればとっくにふたりはナカヨシになっていただろうに。
いや、これもある意味仲が良いことになるのか…?
まぁ…それでもこの《天ッ狐》は事故なく、きょうも空を飛んでいる。
なぜ、そう長い間空を飛んできて、または飛んでいこうとしているのか。
それは何というか…代々それは変わってきたらしいが…表向きには新しく聖地となりうる地を探す、そのためだーが…正直、叶うことなき願いだと踏んでいる。
そしてもう一方は…そうだな…あのとんでもないふたりがそれなりに生活できるのはこの船しかないのではないかという、ごく個人的な、
そして我が儘的な理由からでもある。
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