第24話 威力、高すぎなんだけど!
「それで、どうするんですか?さすがに灯里さんと千晶ちゃんが強いとは言っても、宮廷にいる警備兵全員を相手にするのはきついですよね?」
夜の帝都を進み、宮廷の近くまでやってきたゆいたち。
「問題ないわ。こんなこともあろうかと、昨日作っていたこの魔道具が使えますからね!」
道子先生がノリノリでゆいたちに眼鏡の形をした魔道具を手渡す。かけてみたゆいたちだが、いまいち効果が分からない。
「それはカメレオンレンズ!かければほかの人には姿が見えなくなる眼鏡よ。道具魔法の練習用に作っていたのが役に立ったわ」
つまり運がよかっただけじゃないか。しかしこのカメレオンレンズは非常に有用だった。魔物の森の深部にいた姿が見えないカメレオンを素材にして作られたその眼鏡のおかげで、ゆいたちは敵に見つかることもなく楽々宮廷に侵入することができた。音は聞こえているのに、警備がゆるすぎるのではないだろうか。
こうして難なく皇帝の部屋に侵入したゆいたち。その目的は、あの銅鏡を破壊することだ。あれさえなければ、星奈を解放することができるだろう。
「ダイヤモンドランス!」
部屋にあったその鏡に、千晶が宝石の槍を降らせる。だが、その槍は空中の見えない壁にぶつかって防がれた。
「賊が入り込んでいたか……」
皇帝がゆいたちの存在に気が付いた。その隣には、ただぼーっと立っているだけの星奈がいた。皇帝は鏡を手に取り、星奈に命令する。
「高橋星奈、このエンペラー帝国皇帝カイザー34世が命じる!『この部屋に入った不届き者たちを排除せよ』」
星奈は無言で詠唱を始める。
「世界よ!我が敵の座すその欠片よ!その身を震わせ、その身を均せ!」
(やばいよこれ絶対!)
ゆいがあわあわしている間に、灯里が星奈の詠唱を止めようとする。
「ごめん、星奈。ライトボール!」
光を固めて作られた無数の光弾が星奈と皇帝を攻撃する。しかし、灯里との間にある透明な壁に邪魔されて届かない。
「くっ!」
灯里は必死に壁を壊そうと、光弾の数をさらに増やす。バリアには徐々にひびが入っていき、そしてついに割れた。しかし、それは少し遅かった。
「スペースクエイク!」
星奈の世界魔法の詠唱が完了する。星奈の切り札の一つ。あのジュエル・ドラゴンとの戦いで、すべてを震わせ、破壊した空間振動の魔法。
「クリスタルバリアー!」
千晶がバリアを発動するが、それで耐えられるものではないということは、すでに経験がある。迫る衝撃に、思わずうずくまるゆい。しかし、その星奈の魔法は、いつまでたっても発動しなかった。
「おおっ♪ 今日は調子いいね!ちゃんと部屋の中に入れたよ♪」
突然現れた声の主に、部屋の中の全員の視線が集中する。
「あっ、バリア割っちゃったかも、てへぺろっ☆」
ゆいたちと皇帝の間に立っていたその人物は、小学校の低学年くらいの背丈の少女であった。しかし、彼女を見て人間であると判断する者はいないだろう。なぜなら、彼女の髪は虹色に光っていて、さらに宙に浮いているからである。そのうえ、彼女が身にまとうワンピースはまるで宇宙のミニチュアのようだ。星々が
その少女は星奈の隣に瞬間移動すると、星奈の手に触れた。
「これでよしっ☆ たぶん大丈夫だよね!星奈ちゃん、こんばんは♪」
すると星奈の目に光が戻る。そして星奈は近くにいた皇帝に即座に右ストレートを放つ。
「よくもあたしを操ってくれたな!」
皇帝はギャグみたいに吹っ飛ばされて、壁にぶつかってぐえっと声を出した。
「ゆいちゃんもこんばんは♪ 大変そうだったから、来ちゃった☆」
そして少女はいつの間にかゆいの隣にいて、ゆいに話しかけてきた。
ゆいは笑顔を顔に貼り付けながら、内心ではがくがく震えていた。カメレオンレンズがまるで意味をなしていないくらいだ。明らかに機嫌を損ねるとやばい。星奈の意識も戻ったことだし、できるだけ穏便にこの場を立ち去りたいとゆいは強く思った。
「貴様、何者だ!」
立ち上がった皇帝が、その少女を指さして叫ぶ。少女はまた一瞬で皇帝の前に移動して、にっこりと笑って答えた。
「わたしは『星の魔女』ステラだよ☆ ねえカイザーちゃん、ゆいちゃんたちには手を出さないでほしいな♪」
皇帝は、王国の貴族たちほどバカではなかった。魔女の言葉に逆らうようなことをする人間ではなかった。しかし、人間の世界には政治というものがあるのだ。
「しかし、宮廷に侵入した不届き者を罰さぬわけにはいかぬ。ゆえに彼女らには国外退去を命ず。これでよいか、魔女よ!」
「ホントは帝都に暮らせるようにしてほしかったけどなー、でもそこが落としどころだね♪」
ステラのこの返答に胸をなでおろしたのは皇帝だけではない。ゆいもそうだ。ゆいはカメレオンレンズを外し、皇帝に挨拶をしてさっさとこの場を立ち去ろうとした。
「お邪魔しました!ステラさん、助けてもらってありがとうございます!さっ、星奈さん、帰りますよ!」
これにて一件落着、とはいかなかった。運悪く、部屋の外にいた騎士が入ってきたのだ。この場から立ち去ろうとしたゆいたちとばったり出くわしてしまったのだ。しかも、ちょうどゆいが姿を現したときだったので、騎士たちが騒ぎ出したのだ。
「何者だ!どこから入ってきた!」
「通りすがりの魔女だよ☆ この子たちを助けに来たんだ♪」
ステラが即答する。どうやらゆいたちをかばってくれるらしい。
ゆいは、星奈の腕を引っ張ってさっさと帰ろうとする。しかし、騎士の一人がそれを許してくれないようだ。
「あん!?皇帝陛下の寝込みを襲おうとした暗殺者をかばうのか!?」
そう言ってゆいに剣を振りかぶってくる。皇帝が制止するのも耳に入っていない。
ゆいは思わず目をつぶり、頭を守ってしゃがみこんだ。カリスマガードというやつである。しかし、騎士の剣はゆいに届かなかった。
「あzwsぇdcrfvtgbyhぬじmk」
その騎士は人のものとも思えない、言葉ともいえないものを発した後、剣を落として倒れこんだ。
恐る恐る目を開けたゆいの前に、ステラが立っていた。その小さな魔女の背中は、なんだかとても神々しく思えた。
「ルーちゃんの真似をしてみたけど、うまくいってよかった♪ これ便利だね☆」
一瞬で騎士を倒した(?)ステラを見た騎士たちは、狂乱してやけくそに剣を振り回してゆいたちに襲い掛かってきた。
「しまったなー。ゆいちゃん、これを穏便に収める方法ってなにかない?」
「知りませんよそんなの!さっきのやつで何とかならないんですか!?」
いきなりステラに状況の打開策を聞かれても、ゆいに答えられるわけがない。
「さっきはー、わたしの圧倒的に神々しい美貌をちょっと見せてあげたんだけどー、今あの人たちだけに見せるのはムリだね☆」
「そんな!」
自分のことを美人とか言うのは普通ではないのだが、人が死ぬレベルならそう言ってもいい気がしてくる。
そんなやりとりをしているうちに、騎士の一人がステラに切りかかってくる。死にたいのか。
「よし、この人たちは宇宙にポイしよう♪ えいっ☆」
ステラがつぶやくと、ゆいたちの目の前の空間がぽっかり消えた。そして残された宮殿の骨組みが落下していく。
そして、その空間に入った瓦礫が赤熱し、七色の光を上げて大きく爆発する。光は消えた空間の外を目指してものすごい速さで膨張していく。上空には虹色の光の柱が立っている。
「ごめん!ミスった☆」
どうやら、この帝都を壊滅させるのに十分すぎるエネルギーをはらむこの七色の爆発は、ステラのうっかりらしい。これまでも、うっかりで町を消し飛ばしてきたのか。
ステラはそのまま転移してどこかへと行ってしまう。そして虹色の極光に飲まれるゆいの胸元には、銀色のペンダントが光っていた。
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