3章 帝都
第19話 先生と再会したんだけど!
ゆいたちは、帝都に向かって街道を進んでいった。4人とも、もう森の中を突っ切るのはこりごりだった。そのため、普通に宿に泊まりながら普通に街道を進んでいた。
「まあ、お金には困らなくてすんでよかったね」
「星奈さんのおかげですね」
「そんな褒めてもなんも出ないし!」
「星奈だけ活躍してずるいよ~!」
星奈の『インベントリ』の中にあの迷っていた時の魔物の死体の山が入っていたので、ついた町々でちょくちょく換金していたのだ。おかげでゆいたちは魔物の素材の相場もわかってきたし、いろいろと買い物をすることもできたのだ。
「でも、魔物の買取価格、思ったより数倍は高いんですよね。
ウッドオーガの素材なんて、なんに使うのかよくわからないのに1000シルバー以上しましたし」
ゆいたちがここまでの旅で得た感覚によると、1シルバーはゆいたちの世界での1ドルくらいである。ちなみに、1シルバー硬貨は小さい銀貨で、それより小さい価格の取引には銅貨をひもで束ねたものを使うようだ。
ゆいは魔物の相場を、一体あたり高くても数百シルバーくらい(つまり、1日1体魔物を狩れば普通に生活できるくらい)だと思っていたのだが、実際は安いものでも1体1000シルバーを超えていたのだ。『インベントリ』の中にはまだ数百の死体が入っているので、全部売れば文字通り
「僕たちは普通の人が入らないようなところにいる魔物を狩っていたからね。多分ゆいが思っている以上に強い魔物だったんじゃないかな」
灯里の説に、ゆいはうなずく。
「倒すのが難しくて供給量が少ないのは間違いないと思います。でも、ウッドオーガは一昨日も見かけましたよね?ここは森の中でもない街道なのに」
「みんなザコだから倒せないんじゃないの~?ほら、わたしたち、最強だから~?」
千晶が軽々しく最強とかほざいているのは置いておいて、どうやら普通の人と比べて星奈たちがはるかに強いことは間違いないらしい。もっとも、この大量の魔物を倒したのは、7割くらいは灯里なのだが。
「なんにせよ、あの森の深部で倒した魔物とか、森で拾った草花や木の実とか、サクリちゃんに押し付けられた品々を売る必要がなくてよかったですね」
ひとまずの結論に着いたところで、ゆいが締めくくった。
「ゆいちゃんの集めた草は売っちゃってもいいんじゃないの~?」
「ダメですよ!二束三文で買いたたかれるかもしれないんですから!せめてちゃんと鑑定してからじゃないと」
「でも森に生えてただけのただの草じゃん。ちょっときれいな花が混じっているとか、そんなんで高く売れるとは思えないっしょ」
「貴重な薬草とか入っているかもしれないじゃないですか!それに最悪売れなくても森の植生の研究とか、きっとなんかの役に立ちますから!」
そう、森をさまよっているときにあまりにもできることがなかったゆいは、とりあえず貴重なものだったらいいなと思い、生えていた草を採集していたのだ。
「そういえばゆいの採った草のいくつかは毒草じゃなかったかな。確か手袋越しにつかんだだけでゆいが呼吸困難になっていたような」
「ひどい!灯里さんまで!毒がある植物でも、いや毒があるからこそ価値がありますって!」
そんなことを言っていると、城壁に囲まれた大きな都市が見えてきた。
「見えてきたじゃん!あれが帝都、エンペラーシティっしょ」
「早く先生に会いたいよ~!」
そうしてゆいたちは、帝都への入城待ちの行列に並んだのだった。
***
「待ち時間少なかったのラッキーじゃん?」
「入城の審査は厳しくなかったしね」
「お金さえ払えばほとんどノーチェックでしたね」
少し高めの入城料を払うだけで難なく帝都に入ることに成功したゆいたちは、道子先生のいる魔道具店を探して歩き回っていた。
帝都の街並みは整然としていた。土地は商業区画、観光区画、生産区画、居住区画などの区画に分けられていて、ゆいたちは魔道具店の立ち並ぶ区画を簡単に見つけることができた。
「どこにいるの~、せんせ~」
しかし、魔道具店の数が多すぎる上に、ゆいたちはお目当ての店の店構えも知らないので、ゆいたちは途方に暮れていた。何度かお店に入っていったものの、全然知らない人の店だったのだ。
「とりあえず、全部の店を当たってみるしかなさそうだね」
「じゃあ次はゆいちゃん!がんばれ!」
「ここでゆいちゃんに当てられたらへこむよ~」
なぜか4人で誰が先生のいる店を当てられるかゲームが始まっている。星奈、灯里、千晶と進んで、つぎはゆいの番らしい。
「わかりましたよ!一発で先生のいるお店を引き当てて見せます!」
そう大言壮語したゆいだが、別に自信があるわけではない。
ただなんとなくあの店長がただものではないと感じていたゆいは、彼女が普通の場所に店を構える気がしなくて、ゆいは裏路地に入っていく。
「おいおい、こんなところに店を構えるやつなんかいないっしょ」
呼び止める星奈にも構わず路地を進んでいくゆい。そして古い建物の、さび付いた金属製の扉を開く。
「ゆいちゃん、はずれ~。お店じゃないところを探すなんて~」
そこは魔道具店ですらなかった。あったのはほこりまみれの床と腐った木のカウンターだけで、人の気配もなかった。
ゆいは一度扉を閉め、そしてもう一度開けた。
(やっぱり、普通の人が入れるお店じゃなかった……)
ゆいの前には、王都にあったのとまったく同じ間取りの魔道具店があった。そしてそのカウンターのところに、ゆいたちの担任教師、佐藤道子が立っていた。
「三神さん!無事だったのですね!」
道子先生はゆいの姿を見ると、泣き出しそうな顔になってゆいのほうへと駆け寄ってきた。
「心配したのですよ!……伊藤さん、鈴木さん、高橋さん、これだけですか?ほかの皆さんはどうしたのですか?」
「先生、ごめん。勇は『宝石の魔女』に操られちゃったし、ほかのみんなもクリスタルの中に閉じ込められた。あたしたちが自分の実力を過信したせいだ」
「わたしのせいで、わたしのせいでみんなが~!」
星奈はたぶんちゃんと反省しているが、千晶はどう見てもウソ泣きだ。
「だから先生は反対だったのですよ!いくら最強でも、慢心していたらやられるのは王道じゃないですか!ああ、これは先生の責任です。先生がみなさんを止めなかったせいで……こんなことになるなら、せめて私がついていくべきでしたね!あんな師匠の甘言なんかに騙されないで!」
なんだかひどく感情的なセリフだが、こんなので先生としてやっていけるのだろうか。
そこにゆいたちの後ろから銀髪の女性がやってきた。店長である。彼女は道子先生の言葉をさえぎって言った。
「なんだ、4人も残ったのか。コート代割り引く必要はなかったか?」
意外そうな顔で言う店長に、道子先生が怒り出す。
「4人もって……まさか初めから全滅すると思ってたんですか!?それならなんで辰巳くんたちへの協力を惜しんだんですか!?なんで三神さんたちと会う前に、就業とか言って王国を離れたんですか!?師匠には人間の心がないんですか!?」
「もう残ってないかもなあ」
呑気に答える店長を、ゆいは冷ややかな目で見ていた。
ゆいは、店長が人知を越えた存在であると確信していた。よく思い出してみればなぜかゆいの名前を知っていたし、なんたってあのルルと親交があるのだ。やばいに決まっている。
そしてゆいは店長やルルの目的がわからない。どうしてゆいに自らの本性をのぞかせたのだろうか。どうしてゆいはあの森で生かされたのだろうか。ゆいはそれが知りたくてたまらない。
それゆえゆいは店長を問い詰めようとする。
「すっとぼけないでください。あなたには聞きたいことがたくさんあるんですよ」
「とぼけては……ってああそっちか。あんたの言いたいことについては、まあ大まかにはご想像の通りさ。けど謎解きの答えを先に聞くような無粋な真似はすんなよ?」
ゆいは、自分の心の中を見透かされたような不気味さを店長に感じていた。ゆいが「すっとぼけた」と指摘したのは、クラスメイト達はゆいたち4人を残して全滅したことを知っていたはずだということであった。
この主張に対しては、普通は認めるか、否定するか、はぐらかすかするだろう。しかし返答は「大まかには想像の通り」である。「的外れ」ならわかるが、こんな返しができるのはゆいの思考を読み取っていることの証左である。
つまり店長は疑問の答えは自力で見つけろと言っているわけである。それはルルの言葉と同じである。しかしヒントはある。なんとかその思惑を見破れないだろうか。
「そういえば~、店長さんならあの草鑑定できるかも~」
千晶の言葉に、ゆいの思考が遮られた。
「あの草?どんなのだ?ちょっと見せてみろ」
店長が怪訝そうな顔で先を促す。
「ゆいちゃんが魔物の森で集めてたんだけど~、ゴミだよね~」
千晶が説明している間に星奈が『インベントリ』の草花を取り出した。
テーブルに置かれた草花を
「こういうのはアカデミーに持ってくのがいいだろうな。あんたの知りたいことについても、いくつか手がかりが得られるだろうさ」
そして棚から一枚の地図を取り出した店長は、地図を指さしながら説明する。
「ここがアカデミー。大学や図書館なんかがあるところだな。
このあたりが居住区画。家を借りるんならここで探せ。宿は高いぞ。
そしてこのへんが商業区画の中でも食品を扱ってるとこだ。
この地図はやるから、用事がないならもう帰れ」
店長が手を振ってゆいたちを追い払おうとしたところで、灯里が思い出したように声を上げる。
「店長さん、ほかにも見てほしいものがあるんだけど、いいかな」
そういって星奈に合図をすると、テーブルの上に一体の魔物の死体と一枚の布が置かれた。
「こっちの魔物は解体すればまだオークションに掛けることができるかもしれないが……やめたほうがいいだろうな。最低落札価格数億シルバーとかいうことになりそうだ。それにそっちの布はどう考えても外に出さないほうが賢明だな」
店長がそれらの物品を手に取って調べた結果、どうやら高すぎて売れないレベルらしい。ゆいたちが道中で売却しようとしなくて本当によかった。
「それなら、この魔物たちはどうすればいいのかな。布のほうはともかく、僕たちじゃ魔物の解体もできないんだけど」
「あたしが解体してやってもいいんだが、どうせ素材も使えないだろ?だから道子の練習用にすればいい。解体、調合、制作、付与。全部練習できるからちょうどいい」
「師匠!私、師匠に魔法を教わった覚えがありません!ずっと雑用ばかりさせてたじゃないですか!」
「基礎はやってみせただろ?あとは練習あるのみだ。大丈夫、多少失敗してもだれも文句言わないさ」
技は見て覚えろとかいう
「これでもう終わりか?なら帰った帰った!」
店長に店を追い出されてしまったゆいたち。ついでに道子先生も追い出された。
***
「みなさん、ああいう思わせぶりなことを言うテキトーな大人には騙されてはいけませんよ!この前も、師匠は『この壺の中には、失った大事なものが入ってるんだ』とかいって空の壺を売りつけて全財産を巻き上げていたんですからね!」
よっぽど店長が人でなしだったのか、愚痴を生徒にもらす道子。こんなんで先生をやっていけるのか非常に心配である。
「とにかく、こうなった以上はなんとかして辰巳くんたちを助け出す方法を探すべきです。そのためにも、先生が全力でバックアップします。みなさんはこの世界ではとても強いですから、きっと何とかなります。先生もついていますから!」
「でも、魔女と戦うとか無理ゲーじゃん?」
「先生、勇くんたちのことは忘れよ~?」
何とか生徒たちを助けたい道子といろいろと諦めているゆいたちの間には、深い溝ができていた。
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