第7話 反逆者にされたんだけど!

「助かった……んだよね、僕たち」

『宝石の魔女』ペリーヌとの戦いの場から、なんとか転移して逃れた星奈、灯里、千晶、ゆいの4人。現在は、キングダム王国の王宮に用意された女子部屋にいた。

「わたしのせいで、みんなが!」

「千晶は悪くないって!あれは不可抗力だし?」

 千晶は自分の魔法でクラスメイト達を拘束してしまったことに深く傷ついていた。無事に逃げられて緊張が解けたせいで、自己嫌悪が加速しているようだ。

「みんな、落ち着いてください!安心するにはまだ早いですよ!」

 ゆいがみんなの気を引き締めようとしたとき、部屋のドアが開いた。


「何故ここにいる?国王の命に逆らって逃げてきたのか?」

 部屋に勝手に入ってきた貴族が、めっちゃふんぞり返りながら言った。

「『宝石の魔女』の強さを知ってて言ってんの?」

 星奈が答えるも、貴族はそれがどうしたといわんばかりの態度で言う。

「逃げてきたんだな。ならば国王の命に逆らった反逆罪だ!反逆者をとらえよ!」

 IQ50みたいな言動だが、なぜか騎士たちはこんなのに従っているらしく、10人の騎士が部屋に入ってゆいたちを捕えようとした。


「目をつぶって」

 灯里が小声で言った。ゆいたち3人が目をつぶったことを確認して、灯里は唱える。

「フラッシュ!走るよ!」

 灯里は光魔法『フラッシュ』のまぶしい光によって騎士たちの視界を奪い、その隙に逃走しようとする。しかし、そこで光を逃れた一人の騎士が、ゆいの腕をつかんだ。

「はなして!」

 身体強化で振りほどこうとするが、力負けしてできない。

「ふん、これで一人……ぐふっ!」

 そこを星奈のキックで助けられる。

「反逆者共め!王国を敵に回して逃げられると思うなよ!」

 貴族が捨て台詞を放った時は、すでにゆいたちが逃げおおせた後だった。



 ***




「この店はエンペラー帝国帝都に移転しました」

 ゆいたちは、これまでお世話になっていた魔道具店の前にいた。

「あの店長、道子先生連れてどこ行ったんだ……」

 星奈がぼやくのも無理はない。何の前触れもなくたった2日で、店を閉めて移転を始めてしまったのだから。

 途方に暮れる星奈たちに、ゆいが提案する。

「こうなったらエンペラー帝国って国に向かいましょう。先生とも合流したいですし。どうせ、この国にはいられないんですから」

 しかし、星奈が指摘する。

「それはいいけど、エンペラー帝国ってどっちかわかんないじゃん」

 この世界の地理について、ゆいたちはあまり詳しくないのだ。

「それなら、この王都の酒場や冒険者ギルドみたいなところにいけばわかるかもね」

 灯里のこの言葉で、ゆいたちは王都探索を始めたのだった。




 ***




「あっさり見つかっちゃいましたね、世界地図」

「まあ、苦労するよりいいじゃん?」

 ここは王都の下町の中心部。王宮からは少し遠いので、騎士に見つかりづらいと考えてこのあたりで情報収集を始めたのだが……

「まさか一件目が商業ギルドだなんて、僕たちツイてるよね」

 灯里の言う通り、最初に入った建物が商業ギルドで、しかも入った目の前に略式の世界地図があったのだ。

「ねえ、ほんとに東の帝国に行っちゃうの?やだよ~」

 千晶はすこし落ち着いたものの、心のダメージは大きかったらしく、自信を完全に喪失している。

「騎士たちにつかまっちゃったら、首ちょんぱじゃないかな」

「え~そんな~」

 千晶と灯里が話している横で、星奈とゆいも話を続ける。

「王国の主要な町や街道なんかの場所も聞けましたし、どんな国があるのかもわかりましたしね」

「4つしか国がないとか信じられないっしょ、普通」

 ゆいたちは全員驚いたのだが、この世界には―正確にはこの大陸にはだが―4つしか国がないのである。北アメリカ大陸より少ない。


 この大陸はだいたい三角形の形をしていて、その西側の頂点にキングダム王国、東側の頂点にエンペラー帝国、そして北側の頂点にエレクション連邦共和国がある。そして、キングダム王国とエレクション連邦共和国のちょうど真ん中あたりにレリジョン神国があるのだ。

 大陸の中央には10000m級の火山であるボルカノ山が座していて、また山と海の間の平野部の大半は魔女の住む魔境になっているらしい。ちなみに、『宝石の魔女』ペリーヌの住んでいる部分は、キングダム王国から突き出た半島の部分である。

 そのため、国家間を結ぶ街道は基本的に一本しかなく、またその道も狭く、危険なので、貿易や人の交流は非常に少ないそうだ。

 ならば海はというと、これまたやはり魔物がたくさんいるので、すぐに船が沈んでしまう。そのため海上輸送は絶望的なのだ。


「なんか不自然に思えるんですよね……」

「うーん、あたし難しいこととかよくわかんないし」

 そんなことを言っていると、前のほうから出てきた騎士とエンカウントしてしまった。

「見つけたぞ!」

「フラッシュ!」

 ゆいたちはそのまま王都に隣接する森へと入っていったのだった。




 ***




「『インベントリ』があってよかったですよね、本当に」

 現在、ゆいたちは逃亡生活3日目。魔物が出現するため人が少ない森を主に通りながら、エンペラー帝国との国境を目指していた。

「野宿に必要なものが全部入るもんね。これがなかったら、僕たち宿を探さないといけなかっただろうし」

「それだけじゃなくて、魔物の素材を売ってお金を用意できるのも、星奈さんのおかげですよ」

「ははっ、そんなほめられると照れちゃうし」

「わたしのこともほめてよ~。水魔法とか、自然魔法はみんな使えないくせに~」

 ゆいと灯里が星奈をあまりにほめ散らかすので、千晶が必死に”わたし、役に立ってますよ”アピールをしている。一番役立たずなのは明らかにゆいなのだが。

「頑張ってる頑張ってる。千晶がいなきゃ、シャワー浴びらんないし」

 星奈が雑にほめたが、それが千晶には気に入らないようだ。

「『ウィンドヴェーン』のおかげで今まで迷ってないのに~」

 自然魔法『ウィンドヴェーン』はだいたいの方角、風向、そして魔物の位置を教えてくれる魔法だ。この魔法のおかげで、ゆいたちは道なき道を迷うことなく進めている。千晶はそう主張したいようだ。

「世界よ!我が座す地を映し出せ!サテライトマッピング!……千晶、ちょっと方向がずれてるじゃん」

 世界魔法『サテライトマッピング』。空から衛星写真のごとく周囲数kmの地図と自分の居場所を確認できる魔法だ。どうやら千晶はちょっとぽんこつだったらしい。

「世界魔法、ずるすぎるよ~」

「もう全部星奈ひとりでいいんじゃないかな」

「役立たずでも、みんな置いていきませんって……多分」

 ゆいもちょっぴり落ち込んだらしかった。



 ***




 それからまた2日経って、ゆいたちはとある都市に到着した。この都市から国境の町であるエンキンまで乗合馬車が出ているのだ。馬じゃなくて、ロバだけど。

「4人で乗りたいのですが」


 馬車は2頭のロバに繋がれており、10人くらいが乗れる規模のものだ。

 平野部ならもう少し荷車を大きくしたり、台数を増やしたりするのだろうが、ここからの道は険しい山道になっているので、小回りが利くようにしないといけないのだ。


「ちょうど4人分空いているぜ!ラッキーだったな」

 ゆいは今日は無理かもと考えていたけれども、御者のおじちゃんが乗せてくれた。この馬車は2日に1本しか出ていない。乗れなかったら徒歩で突破するかと思っていたゆいたちは、満面の笑みでお礼を言った。

「ありがとうございます!」

「嬢ちゃんたち、べっぴんさんだからくれぐれも気をつけろよ?馬車で何かあっても、俺は止めらんねえからな」

 長時間、見知らぬ人が一緒にいるので、トラブルが起こることも珍しくないようだ。

 しかし、その忠告は、べっぴんさんとほめられたことでゆいたちの頭から抜け落ちていた。

「そんじゃ、そろそろ出発するから、早く乗り込め!」


 馬車の中にはすでに6人の人が座っていた。壮年の冒険者らしき男が3人、若いカップルらしき男女が一組、そして、ゆいたちの見知った黒髪の少女が一人。

「また会いましたね、ゆいさん」

 その少女、ルルは微笑んだ。




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