第5話 ジュエル・ドラゴン、強いんだけど!

 野営の場所から3時間ほど進むと、広く開けた場所が現れた。なんというか、ボス部屋という言葉がぴったりである。

「油断するな。おそらくここに例のドラゴンがいるのだろう」

 ゆいたちの陣形は、勇が先頭、星奈が最後尾であり、ゆいは隊列の後ろ側で千晶の『クリスタルバリアー』に守られる場所にいる。

「ここまでと違って暗いね……勇!『ライト』使うべきかな?」

 回復役なので千晶のそばにいる灯里が尋ねる。

「そうだな。見つかって袋叩きにされるより敵が見えるほうがいいだろう……

 全員警戒態勢!」

「ライト!」

 灯里の光魔法『ライト』によって、広間の全貌が昼間のように明るく照らされる。この広間にはゆいたちが入ってきた入り口、そしてその反対側には、ドラゴンが眠る出口、それだけがあった。あとはまっすぐな壁と、まっ平らな床だけである。


 ドラゴンは、透明な鱗でおおわれていた。無色の鱗は水晶か、あるいはダイヤモンドだろうか。ところどころにある色のついた鱗は何の宝石だろうか。

 そしてその牙や爪は非常に硬そうな金属でできていた。オリハルコンとか、アダマンタイトとか、そんな感じである。そしてその角は金ぴかであった。

 その羽は金属の骨組みと薄い膜からなり、その膜は真珠層のような輝きを放っていた。

 非常に硬い宝石と貴金属で作られたそのドラゴンの名前は、さしずめジュエル・ドラゴンといったところだろうか。


「やつを起こさないようにできればいいが……」

 先頭を歩く勇が部屋のちょうど真ん中を通ったところで、ジュエル・ドラゴンはぱちくりと目を覚ました。

「グオォォォォォ!!!!」

 ドラゴンの大きな咆哮とともに、戦闘が始まったのだった。




 ***




「ファイアボール!」

「サンダーボルト!」

「サンドマウンテン!」

「アイススピア!」

「ダイアモンドランス!」

 勇たちは初めに全力で威力の高い攻撃を繰り出した。並の魔物ならば一撃必殺となる攻撃が何発も直撃したが、ドラゴンは身じろぎもしない。

「ダメか」

「効いてないっぽい。鱗に傷一つ入ってないし」

 最後尾で視力を強化して冷静に見ていた星奈は、ダメージが入っていないことを見抜いた。

「やっぱり短期決戦は無理だな。みんな!無理に攻撃するな!魔力を温存しながら戦え!」

「おう!」


 ドラゴンは広間の天井近くまで飛び上がり、ゆいのいるあたりを向いて、そして息を吸い込んだ。

「来るぞ!」

「クリスタルバリアー!」

 ドラゴンの口から放たれた白い光線は、千晶の張っていたバリアに直撃した。

「嘘……」

 これまで傷一つつかなかったバリアにぴしりとひびが入った。

「バリアの範囲を狭めろ!魔力を集中させるんだ!」

 勇の言葉を聞いた千晶は、バリアを縮小し、そして厚くする。

「よし、これなら耐えられる!わたしってば天才か~?」

 バリアからそれた部分の地面は、光線を受けて蒸発した。


 そして光線を放っている隙を狙い、勇は身体強化で飛び上がり、剣でドラゴンの翼を狙った。

 剣は翼を切り裂き、翼には大穴が空く。

「もらった!」

 しかし、追撃をしようとした次の瞬間、

「避けて!」

 ゆいの声が届くのとほぼ同時に、ドラゴンの放っていた光線が”曲がる”のは同時だった。

「ウィンド!」

 勇は風を放った反動で間一髪で曲がってきた光線の直撃を回避した。しかし、避けきれず左腕を失ってしまう。

「あんな技まであるのかよ……」

 そう、ジュエル・ドラゴンの光線ブレスは、空中で鏡に反射したように曲がったのだ。そして2回反射で自分の真後ろにいた勇を狙い打ったのである。

「ひとまず千晶のもとに集合!」

 バリアの外で攻撃していた部隊が、千晶のバリアの中に入った。


「リジェネレーション!」

 灯里の光魔法(回復)によって左腕を再生させている勇が、みんなに尋ねた。

「あのドラゴンはかなり強い。みんなの知恵を貸してくれ!」

 いくら千晶が石魔法のエキスパートだからといっても、ずっとあの光線に耐えられるわけではない。魔力は有限なのだ。ほかにも『クリスタルバリアー』が使える人はいるが、焼け石に水、いや光線に石ころである。

「千晶、あとどれくらい耐えられる?」

「あと1時間くらい~?」

 千晶はお調子者なので、この答えなら30分以内になんとかするべきだろう。

「とりあえず、あたしが一発ぶっ放せばいいんじゃない?」

 星奈が世界魔法による攻撃を提案する。世界魔法による攻撃は強すぎて使いづらい。

『書庫』には、「地形が変わる」と書かれていたので、星奈もこれまで使ったことがない。だが、この状況を打破するには使えるのではないか。

「悪くない。だが二回は使えないだろうし、なにより一撃で倒せるとは思えない」

 これだけでは足りない。何かないのか。

 そこにゆいが控えめに手を挙げた。

「えっと、罠かもしれないんですけど……」

「なんだ?」

「最初の攻撃の時、色のついた鱗が動いた気がするの。だから、もしかしたらそこを一点集中で攻撃すれば、ダメージが与えられるかも」

 なけなしの視力強化でドラゴンを見ていたゆいは、いち早くこのことに気が付いたのだ。

「でかした、ゆい。

 よし、それじゃあ作戦はこうだ。

 まず、星奈の世界魔法でドラゴンにそれなりのダメージを与える。最低でも、光線を止める。

 次に、ドラゴンの動きが止まっている間に、色のついた鱗を狙って集中砲火を食らわせる。

 灯里、千晶、援護は任せた」

「了解だよ」

「オッケ~」




 ***




「それじゃあ、やっちゃうよ」

 星奈が世界魔法の詠唱を始める。世界魔法は魔法名だけでなく、詠唱を必要とするのだ。

「世界よ!我が敵の座すその欠片よ!その身を震わせ、その身を均せ!

 スペースクエイク!」

 ドラゴンを中心として、震えだす。

 壁も、地面も、天井も、空気も、人も、宝石の鱗も、水晶の盾も、光線でさえも、ぐちゃぐちゃになろうとする。揺れて、震えて、散り散りになる。残ったのは、天井や壁だった岩、ばらばらに飛び散ったクラスメート、地に墜ちたドラゴン、そして一人立っている、高橋星奈だけであった。


 何とか意識を保っていた灯里は、作戦通りに光魔法で仲間を回復する。

「コンパニオンリカバリー!」

 指定した相手を距離関係なく全回復させる奥義によって、勇たちクラスメイトだけが立ち上がる。

「いくぞ!」

 勇の掛け声に、仲間たちが呼応する。

「ファイアボール!」

「サンダーボルト!」

「サンドマウンテン!」

「アイススピア!」

「ダイアモンドランス!」

 最初と同じように放たれた魔法は、今度はドラゴンの緑色の鱗を狙っていた。

 そして攻撃が当たり、鱗が割れた。

「グオォォォォォ!!」

 鱗を動かして鉄壁の守りの隙間を隠そうとするドラゴン。しかし、そこに勇の剣が突き刺さった。

「どうだ!人間舐めんな!」

 そして勇がこじ開けた部分に向かって、さらなる魔法が飛んでくる。

「フレイムビーム!」

「ライトニングショット!」

 これらの魔法は究極の一点集中攻撃である。それが、勇の剣と鱗の間のわずかなギャップに突き刺さった。

「ギアァァァァァ!!」

 もがくドラゴンがしっぽを振り回してくる。それを、勇は体をそらしてかわした。

 そこに爪による追撃が襲い掛かる。

「くっ」

 勇は右足を犠牲にしてやり過ごし、その傷はすぐさま灯里が回復する。

 そして光線攻撃を放とうとするが、

「クリスタルバリアー!」

 千晶がドラゴンの口の目の前に立ち、そして光線から勇を守る。

 最大威力の分厚いバリアにひびが入る。もって数秒。しかし、それで十分だ。

「これで……終わりだ!」

 その数秒で、勇が身体強化によるものすごい筋力で、ドラゴンの肉を切り裂く。

「アァァァァァ!」

 ドラゴンは断末魔をあげて、そして光となってはじけていった。

 残ったのは、ジュエル・ドラゴンの鱗と牙と羽を混ぜたような、水晶玉だけであった。

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