第4話 料理でも役立たずなんだけど!
日をまたいだ魔物狩りの練習をしたり、魔道具店に魔物の死体を持って行って武器を作ってもらったり、店長からいろいろと情報を聞き出したりしているうちに、ゆいたちがこの世界に召喚されてから1週間が経った。いよいよ、『宝石の魔女』の討伐に向けて出発である。
『宝石の魔女』の居城はどうやら王都からそう遠くないところにあるらしい。
馬車で1日で鉱山の町ストーンゲイズにたどり着いたゆいたちは、王国の騎士たちに囲まれて、『宝石の魔女』の住む魔境の入り口までやってきたのだ。
「ここが……」
ここは通称『魔鉱山』と呼ばれる洞窟であり、大量の魔物が生息することで知られる。一方で、稀少な鉱石も多く産出することから、命知らずの冒険者たちが日々玉砕していくことでも有名である。
この入り口部分だけでも魔物は多く、人が暮らせるとは思えない。
「勇者諸君、ここから先は我が王国騎士団でも立ち入ることが困難な魔境である。ゆえにここからは勇者たちだけで進むように」
そんなこと言っているが、これは単に自分の命が惜しいのである。その証拠にゆいは逃げ出さないように見張られているではないか。しかし勇たちにはそれを気にしている様子はない。
「わかっている。注意することが少ないほうがより集中できるからな」
勇の”お前らみたいな雑魚は足手まといだ”という返答に、騎士たちは顔をしかめた。ビビりなくせに、ザコと言われるのは気に食わないようである。
***
「ファイアボール!」
「サンダーボルト!」
「アイシクルフォール!」
「サンドブラスト!」
ゆいたちは、1週間の特訓の成果もあって、特に苦戦することもなく洞窟内を進んでいた。持久戦も練習していたので全く問題ない。もっともゆいは役立たずであるが。
「魔物たちがだんだん強くなってきているな」
「でもまぁ、あたしたちならヨユーだし?」
勇と星奈はリーダーなのだが、まだ出番がないので雑談をしている。
「それに、額の魔石もだんだん大きくなっているみたいだ」
このあたりの魔物は、森にいた魔物と違って額やしっぽなどに魔石をつけている。この魔石には魔力をためることができ、魔道具の材料になる。
「あたしの『インベントリ』に入れておけば大儲けじゃん?」
「そうだな」
こうして進んでいると、Y字路にさしかかった。
「灯里、頼む」
「まかせて。サーチ!」
光魔法『サーチ』は目的地への方向を調べることができる魔法だ。この魔法自体は勇自身でも使えるが、光属性が強い灯里が使うことによって魔力の節約になる。このあたり、才能が有り余っていても努力を怠っていないようだ。王国の騎士たちとは大違いである。
「それにしても、どうして光石が等間隔にあるんだろう?」
ゆいは疑問に思う。こんな魔窟の奥に人が入ったことはほとんどないはずなのに、光源となる光石―ぼんやりと青く光る魔石の一種で、稀少価値が高い―のおかげで明かりを灯す必要がないのだ。リソースを割かなくてもよいという点では歓迎するべきだが、ゆいには不気味に思えてならない。
「まあ、仮に明かりが消えてもこちらには光魔法の使い手が何人もいる。全く問題ないさ」
***
こうして洞窟をある程度進んだところで、野営することにした。
「なんだか、こうしていると修学旅行みたいだな」
「懐かしっ。もう何か月前だっけ」
勇の言葉に、星奈が同意した。
「スープ作ってみたよ~。おいしいから、食べてみて~」
そう言って千晶が持ってきたのは、ジャガイモのような芋と肉が入ったスープである。塩だけで味付けされているとはいえ、なかなかおいしい。
「わたしの料理も食べてみてください!」
ゆいも対抗して料理を作っていた。豆たっぷりのスープである。
ちなみに、調理道具や食材はすべて星奈の『インベントリ』に入っているので運搬の問題はない。
「どれどれ……うん、普通」
ゆいの作ったスープは、豆が多すぎて「豆の味しかしない」という感じのスープであった。なんというか、おいしくないけど、食べられないほどまずいわけではない、そんな味である。
「わたし、ついてきた意味あったんでしょうか……」
料理でもパーティーに貢献できなかったゆいは、ついに耐え切れなくなって愚痴をこぼした。もっとも、今から帰ろうとしても、一人では無謀の極致なのだが。
「当たり前だ。俺たちはみんな一緒だ。ゆいひとりを仲間外れになんてしない」
「でも、わたし役立たずで……」
「弱いからって、そんなことで追放するのか?俺たちの絆はそんなに弱いものなのか?大丈夫だ。ゆいは必ず俺が守る。だから安心してついてくればいいんだ」
ゆいは感動のあまり顔が真っ赤になっていた。勇はいつも正義感がちょっと強すぎる男の子だけれども、こういう憎めないところがあるのだ。
「明日、ドラゴンを倒して、そして魔女を倒すぞ!」
勇がみんなを鼓舞すると、みんなもそれにこたえる。
「おおおおおお!」
その日、辰巳勇はしっかりと眠った。
高橋星奈は緊張していたので、周囲の警戒のために起きていた。
そして、三神ゆいは心臓がやけにうるさくて、なかなか寝付けなかった。
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