第3話 なんかもらったんだけど!
結局、次の日からは王都の外の森に行って魔物狩りをすることになった。
ゆいは足手まといなので、一人留守番すると言ったのだが、勇の「友達をひとり置いていくわけにはいかない」という言葉のせいで、同行を余儀なくされていた。
***
「クリスタルバリアー!」
クラスメイトの鈴木千晶の作った半球状のバリアの中で、ゆいは恐怖に震えていた。
「グオォォォォォ!」
戦っているのは3体のシュルーム・ベアだ。頭からキノコが生えたツキノワグマのような姿をしているのだが、怪力と胞子による麻痺の組み合わせで、1体でも庶民には手に余るモンスターだ。なんでそんなのが3体も出ているかというと、森の奥結構深いところまで入ってしまっているからだ。
しかしながら、シュルーム・ベアたちの怪力は千晶のバリアを傷つけることができず、胞子もバリアにはじかれていた。
「ダイヤモンドランス!」
千晶は空中からダイヤモンドの槍を3本出現させると、それでシュルーム・ベアたちの心臓を貫いていった。
「てへ、ちょっと奥に行き過ぎたかも~。帰ろっ、ゆいちゃん」
こちらに召喚されてからというもの、千晶がかつてにもまして調子にのりすぎではないか。
「うん、帰ろう!そうしよう!それがいいよ!」
いくらバリアで守られているからと言って、あんなモンスターが目の前にいるのは精神が持たないのだ。ゆいの眼には涙がたまっているではないか。
「ゆいちゃん、泣き虫ぃ~」
千晶にからかわれていてもゆいは反論する気にもなれなかった。
「千晶ちゃん、なんか変じゃない?」
帰り道、ふと違和感を覚えたゆいが言い出した。
「気のせいだよ~。ゆいちゃんビビっちゃって~」
千晶がそう言った次の瞬間、ふたりは突然現れた
「ぎゃーっ、助けて、助けてーっ!」
ゆいがパニックになって叫ぶ一方で、千晶は割と冷静である。
「クリスタルバリアー!っと。これでわたしは大丈夫。ゆいちゃん、今助けるからね~」
そのまま『ダイヤモンドランス』を繰り出して蔓を攻撃しようとするも、ゆいが暴れるせいで照準が定まらない。そのとき、男の声が聞こえてきた。
「アイスソード!」
その男はふたりに絡まっていた蔓をすぱっと切り裂いていった。
「ありがとう、勇くん」
助けてくれたのは辰巳勇だった。どうやらたまたま近くを通り過ぎたらしい。
「千晶、気をつけろ。俺たちだけならともかく、ゆいを連れて行くとなるとどんな危険があるかわからないぞ。
ゆい、お前も自分の身くらい自分で守れるようになれよ」
実にありがたい言葉だが、ゆいにはそれができる気がしなかった。
「これから帰るんなら、一緒に行こうぜ」
そうしてそのまま3人でお城まで帰ったのだった。
***
「はぁ?金を持ってないだと!?」
魔物狩りのあと、ルルに教えられた魔道具店に来ていたゆいたちは、店長さんに叱られていた。店長は黒いコートを着た19歳ほどの銀髪の若い女性であった。すごく魔法使いっぽい。
「すみません、ここに来れば装備を整えてくれるってルルさんが教えてくれたんですが……」
ゆいがぶるぶると震えながら手紙を差し出すと、店長は遠い目をして天を仰いだ。
「あいつ、人づかい荒すぎだろ……」
しばらくの沈黙ののち、店長が切り出した。
「いくらこの手紙があるからといっても、タダでは装備は売れない。だからクソ貴族どもから金をせびってくるか、なんか値打ちのあるもんと交換にするか、どっちかにしろ」
ド正論である。だいたい、なんで勇者に小遣いも渡していないのだろうか。この国の貴族、がめつすぎである。
「でもこれだけあれば足りるっしょ?」
そこに星奈が『インベントリ』から魔物の死体をばんばん取り出してきた。今日の狩りの戦果を持ってきたようだ。
「本来なら全く足りないんだが……」
店長は少し考えた後、ふと何かに気づいたように顔を上げ、道子先生のほうを向いた。
「こいつをあたしの弟子にするなら残りの代金チャラでいいか」
「私、ですか?」
困惑する先生に、店長は続ける。
「道具魔法って、師弟関係を結ばなきゃ使えないんだよ。あんた、そこそこ才能はあるみたいだから、あたしがもらってタダ働きさせれば元を取れるかなって」
それを聞いて道子先生は悩んだ。確かに、この提案は悪くない。一方で、この提案を受けてしまうと生徒たちの戦いについていくことはできなくなる。
「あたしはあんたらの装備を作ってくるから、ちょっと考えてろ」
そう言って店長は店の奥にさっさと行ってしまった。
「先生、俺は道子先生がこの店の弟子になるほうがいいと思います」
勇が意見を出す。周りからも「そうだな」と同意の声があふれる。
「どうして?辰巳くん。お金が足りないから?」
「お金はどうでもいいんです。けど、先生には俺たちのために魔道具を作ってほしい。なにも同じ場所にいることだけが戦いじゃない。違いますか」
すごい意見だ。ちょっと転生物の主人公気分になりすぎてないだろうか。
だが、道子先生の心に響くものがあったようだ。
「そう、そうね……」
***
しばらくして店長が戻ってきたとき、先生は自分の決断を伝えた。
「私をあなたの弟子にしてください。そのかわり、生徒たちを守ってくれるような魔道具をください。そして、すごい魔道具を作れるようにしてください!」
「あっそ。じゃあ取引成立ってことで。これがあんたらの装備な。
これ着てれば、多少の寒暖差や衝撃なんかはへっちゃらっていう、優れものだ」
そう言って持ってきたのは店長が来ているのとよく似たコートであった。人数分。
微妙にサイズが異なることを見ると、ちゃんとひとりひとりの体格に合わせたのだろう。
「おい、武器はないのかよ!」
「あんたらに武器まで用意してやる義理はないからな。別料金だ」
「ルルちゃんを裏切るのか!」
勇が詰めると、なぜか店長は爆笑しだした。
「あは、ははは、はははは。ごめん、ごめん。面白すぎて。ぷはははっ。
このコートだけでもかなり過剰サービスなのに。もっとって。ぷはっ」
「おい、なにがおかしい!おい!」
店長は何がツボに入ったのか、笑いすぎて息苦しそうになっている。
そんな光景を傍目にゆいはコートを着て、魔法使いっぽいと喜んでいた。
「とにかく、武器が欲しかったら素材を取ってこい!それから道子は今日からここに泊まりな」
どれだけひどいと糾弾しても売り手のほうが強いのである。結局、勇たちは店長の主張を飲まざるを得なかった。
「じゃあ、今日はとっとと帰れ!」
そのまま店長がクラスの生徒たちを追い出していく。そして最後にゆいが退出するとき、店長に呼び止められた。
「あんたにはこれを渡す」
これまでの言動が嘘のように真剣な表情をして、銀色のペンダントを差し出してきた。
「これは……?」
ペンダントには六芒星が描かれており、その6つの頂点に小さく透明な水晶がついていた。
「これはお守りだ。まあ、なんかあったら役に立つと思う」
店長はそのままペンダントをゆいの首に掛けた。
「三神ゆい、『その日』まで、肌身離さず持っていろ」
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