2-2
同じ学校にいる以上、避けては通れないんだろうけど、やっぱりドキドキする。誰が隣に並び立っていようと、どんなに仲睦まじく罵りあっていようと、もしかしたら私に気が付いて、ハンドをシェイクしてくれるかもしれない。
そんな愚昧な期待のせいで、いつも以上に周りを見回していた。そんなんじゃダメだ、ただの変人だ。そもそも時雨が自分の教室に、私以外の用件で来るわけないっ。でも退屈だ……、机に突っ伏して昼休みをスキップしたいところだけど、昨日はスイーツ食べ放題のおかげで、かつてない良質な睡眠が取れてしまったから、全然眠くない。
それで、自然と縁佳のほうに視線が吸い寄せられていった。縁佳はいわゆる一軍と称される男女に囲まれ、手を叩いて爆笑したり、時に小突き合ったり、それは私にとっては宴のようだった。視界に入っただけで、網膜が焼き切れそうだ。
私もあの中に混ざりたい……のかな。確かに私は、青春したいって思ってもみたりする。でもそう思っているのは、自分とは無縁だって分かってるからでもある。簡単に手に入るものに、高い値段はつかない。
熟考していると、あっという間に時間が過ぎている。そう、考え事って時間を食うのだ。脳のほとんどの部分を使ってないのに。あーあ、休み時間終わっちゃった……。縁佳の取り巻きも、蜘蛛の子散らしたように、解散していく。
その日は縁佳と顔を合わせることもなく終わった。いつも通り、バスの中で一日を振り返ってみれば、私は本当に縁佳と話したかったって、すぐに気付いていた。この間みたいに、前の席に来るのを受動的に待っていたんだ。
まっまあ、私と違って縁佳には友達が沢山いるわけだから、順番が回ってくるまで待とう。そう、私が一歩踏み出したって、更なる災厄を招くだけだ。自分の心を縛り付けるだけだ。そう自分に言い聞かせた。何なら、隣に誰も座ってないから、ぶつぶつ唱えてもみた、呪詛を。
私は本当に運が悪い。自販機から飲み物を取り出して振り返ると、時雨が階段を下りて行った。絶対、絶対、私、あの人の視界に入っちゃったって。混乱した私は、その場にかがんで目を瞑っていた。
ただのカラーバス効果なのかもしれないけど、いつでもどこでも、時雨が近くにいる気がしてしまう。それはやがて、怒りのような感情に移ろっていった。
時雨の横にはいつも、誰かがいて一人じゃない。二か月も前の私にとってはそんなもの、強がりじゃなくて、本気で羨ましくも何ともなかった。それが今は間違いなく、寂しさを感じている、一人ぼっちで居たくないって願ってる。人と交わることを知ってしまった。責任を取れって、厚かましい怒りが薄っすらと浮かんできたんだ。
でもそれもこれも、私は言葉にできなかった。バカヤローでも、口くせーんだよの捨て台詞も吐けなかった。もちろん、縁佳に対しても同じだった。そうだ、そもそも縁佳の趣味とか性癖とか知らないし、雑談を持ち掛けようにも無理だよ。しょうがないしょうがない。
こうして私は、教室にいる間に限り、縁佳の観測者として不干渉を貫いていた。抱腹絶倒して天に召されそうな姿も、教壇に足を引っかけるドジっ子な姿も、学級委員のように取り仕切る姿も……何だかどんどん遠くなっている気がする。
「島袋さん、どの競技出る?」
「はぁ……、はあー…………」
「あれ、島袋さーん、どうした?生気抜けてるけど」
勝手に、もう縁佳が話しかけてくることは無いと信じ込んでいた。不意を突かれて、頭が真っ白になり、情けない声を漏らしながら、両足を前に蹴っていた。まあ、後ろの席の人も情けない声出してたから、私だけじゃない椅子ぶつけてごめんなさい。
「体育祭の種目だよ。特別に好きなの選んでいいよ」
「いや、別に何でもいい」
「えぇ!?ガントレットでもいいの!?か弱い少女には、ちょっと酷な種目じゃない!?」
「モロックマ……。とりあえず座りなさい、あとモロックマの声よく通るんだから、静かにしてなさい」
「何でもいいっていうのは、そういう危険性をはらんでいるんだよっ!わかったかっ!」
「そう言えば台風の目で棒って使うから、確かにできるね。してやろうか?」
「おうおう、武器なんて捨てて一人ずつ、徹夜してからかかって来い!」
「まっ茶番は置いといて、希望はある?」
「パン食い競争」
「ごめんねー、無いんだよ、定番なんだけど」
「じゃあ騎馬食い競争」
「何じゃそれ、お腹すいてるの?」
「ふん、大食い競争」
「ついに体育祭じゃなくなった」
満を持したが、縁佳は釣られてくれなかった。例に漏れず、私は運動が得意ではない。その上、チームの興亡を背負っていると思うと、余計におかしな方向へ進んでしまう。できれば出場したくないんだけど……。
こうして質問をはぐらかし続けたら、 “縁佳と” 二人三脚を担当することになっていた。って、正気の沙汰じゃない!
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