第33話

「…あの、私、字が全然読めないんです…今更なんですけど、言ってなくて…すみません」


「え?」


全然わかってなかったみたい。嫌われちゃうかもしれない。


「本当に、全然読めなくて」


「そうだったの。漢字が苦手なのかと思ってたわ」


「違うんです。字も書けなくて…自分の名前だけしか…信じてくれますか?」


「そうだったの…。あゆちゃん、今までずっと隠してたの?会社にも?」


「…はい」


「それは大変だったわね…。私にできること、教えてね。話してくれてありがとう」


「…はい」


よかった、嫌われなかった。だけど、同情されてしまった。


「大家さん、俺は片付けが苦手なんすよね。でも、あゆちゃんが得意で助かってます」


「まぁ、そうなの」


「あゆちゃんは聞き上手で、物覚えもいいんすよ。難しい言葉だって知ってます。だから、普通以上っすよね」


「そうね」


「え、でも、私字が…」


「あゆちゃんは苦手なだけ。俺と一緒。大変っすか?」


「…え?」


大家さんは目をぱちくり。


「俺らと変わらないんすよ。わかんねーこと、苦手なことあるの普通っすよ。別にそんな気ぃ使わないでいいんで」


「…そうね、ごめんなさい。私ったら、失礼なこと…」


「い、いえ…」


「今後とも、よろしくお願いします」


コタローさんは、正座して深く頭を下げた。ちゃぶ台から離れたところでわざわざやったから…大家さんは少し引いていた。

コタローさんったら、素性バレちゃうよ!

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