第32話

「違った…きみこには、ご飯を奢ったりプレゼントしたり…愚痴聞いたり…」


全部、きみこのためにやってた。嫌われたくないから。都合の良い時だけ呼ばれた。


「あ、そうだ。大家さんに会った」


「え?あ…」


結婚して2人で住んでること話してない。


「たまたま会ったら、どなたですかって聞かれて。今度あゆちゃんと結婚する宮本って話したら、いーっぱいあゆちゃんのこと聞けた」


「…え、なに」


「あゆちゃんに部屋貸すこと、迷ったんだって。でも、あゆちゃんの話し方とかで、誠実さが伝わったらしい」


「え、そう、だった?」


「契約書を読んで欲しいって言ってきたり、スマホの使い方聞いてくる人は今までいなかったんだって。だから、苦手なことは手伝ってあげたくなったみたい。あゆちゃんの笑顔が好きなんだって」


「…そっか。私、大家さんによくしてもらってたのに…」


「じゃ、今から大家さんの家に行ってみよう」


「うん」


大家さんはアパート一階に住んでいる。


「あら、あゆちゃん」


「大家さん、この人と結婚しました」


「ええ。直接聞きましたよ。おめでとう」


「ありがとう、ございます」


照れくさい。


「さ、中入って」


お茶を出してもらった。


「それで…家賃は…」


「そのままでいいのよ。宮本さん、でしたよね」


「あ、はい!」


コタローさんは元気の良い返事をした。


「お仕事はされてるの?」


「お店してます。料亭なんです」


「料亭?」


「あー、えっと、宮本っていう予約制のとこで」


「えー!そこは隠れ家的なとこでしょ?料理人?」


「あ、はい」


「すごい!」


「あ、あの、食べたいものあったら作ります。あゆちゃんがお世話になったって言ってたから」


「じゃあなんでも。困ったことあったら、いつでも相談してね、あゆちゃん」


困ったこと…。

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