三話 図書館にて

「やあミナトくん、今日もこっぴどくやられたようだね。おじちゃん心配だよ。」

「………お前俺と年同じだろ」

「そんな事本当かどうか分からないだろう?」



あれから短い針が二つ進んだ頃。

現在、ミナトは王都の中心より少し離れた場所にある小さな図書館で身体中に受けた怪我を治療していた。

手が届く場所には自分で治療して、届かない場所には同じ同居人である司書に手伝ってもらってもらいながらも今日の戦果につ当て話す。


「しかし驚いたよミナト。私は君がもっと前、それこそ1年前には学園にいないと予想してここを貸したってのにいまだここにいるなんて。君以外の人達はすぐに居なくなったというのにね。」


そんなことを言いながら周りを見渡す司書。今どこをみたとしても見渡す限り、本しかない。


「予想が外れて残念だったな。」


「いんや?別に話し相手になってくれるミナトくんはいてくれたほうがいいけどね〜。」


「………」


1年共に過ごしても未だ掴みどころが分からないミナトは別の話題にすり替えることにした。


「………今日は魔法具の魔法陣を付け加える条件と内容を学んだ。」


「ほうほう。どうだった?」


「結論から言ってよくわからん。円状の魔法陣だときちんと起動いたのに四角に形を変えた途端動かなくなった。その基準が分からない。」


「あぁそれね。他にも影響があったり条件があったりするけど、完成形の形に影響があったりするんだよ。壺だったら丸形の、箱だったら四角型といったようにね。」


「物体に影響されるってことか。」


「そうそう。ちなみに魔法で作る時も完成形に影響があるね。」


頭はボサボサでクルクルメガネをつけているいかにも馬鹿っぽい見た目しているのに頭がいい司書の話を聞き、覚える。ここに住むときめた次の日、授業に行き詰まり悩んでいた時に教えてもらってから毎日のように教えてもらっている。お陰で明日の授業にもおいていかれることはなさそうである。


「なぁミナトくん。いい加減辞めるべきじゃないのか?学園を」


「……その話なら前にもしたよ。卒業さえできればその後が楽になるんだから行くでしょ。」


卒業の肩書を持っているだけで勝者になれるのなら辛くても行ったほうがいい。もしかしたら魔法が使えるようになるかもしれないんだから。「だが、君がそこで頑張って魔法をおぼえれたとしても。君が一番わかっているんだろ?」


「……………」


「今から働けば5年後には普通に暮らせるだけのお金が貯まるはず『くどいですよ』………」


「卒業するまで学園には行きますし、退学になるまでは泥水を吸ってでも足掻きますよ………教えてくださりありがとうございました。」


そういって部屋から退出するミナト。部屋を出るその後ろ姿には覚悟で染まっていた。


「……あんなにいた生徒の中でも生き残っているのが皮肉にも魔法が使えない彼だけなんて。」


わかっていたことだった。

今から働けばと彼には言ったが、誰でも身体強化や生活魔法と言った日常的に使える魔法すら使えない人を誰が雇うというのか。彼にもそれがわかっているからこそ、嫌な目にあっていながらも学園で学んでいることすらも。


「この世は本当に理不尽だらけだよ……そう思わない?____。」


その言葉は静かな部屋に響いたが誰の耳にも聞こえる事はなかった。


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