第8話 モンスターが召喚できることもあるなら、別の非日常もある可能性だってある

「……マジどうしよ。やめたいんだけどお金の底が尽きそうなんだよな」


バイト終わり、一頻りなじられ萎んだ後に乗って早く帰ろうとし、暫くペダルを漕いでいると、思った以上に揺れる。どうしたのか調べてみると、前輪がパンクしていた。音楽を聞きながら漕ぐ自転車が一番最高だと言うのに、それが出来ないということが僕の中でのストレスを増幅させていた。現在だって腹立つあまり並んでた自転車を蹴り倒した。ドミノみたいで楽しいねほんと。


そんな事を思いながら、家にトボトボと歩いていく。改めて見ると道路はこんなにも暗かったのだろうかと再認識させられる。照明灯また薄れており、全く光っていないものもある。頼むから通り魔来るなよと祈りながら歩く足を早めていく。ただ、僕が見たのはそんな普通のものではなかった。


鬼の様な顔に1つのツノ。緑の鱗で肌は覆われ、長い爪に血がべっとりと付いている。よく見れば後ろに倒れた男の人が呻いている。下には血が流れてる以上、助からないかもしれない。


「オマエ、ウマソウダナ。マリョクモオオイ。」


「マジか、召喚の次は化け物ですか……飽きないなこりゃあ」


怪物はノソノソと近づきながら距離を詰めようとするが、僕はチャリを振り回す。最近精神的以外にしか疲労感がないことに違和感があったけど、これほど目に見えるのはある意味すごい。そろそろ人間という概念を辞めているのかもしれない。外伝も作られているあのヤクザゲームを思い出す。またやりたいなぁ。


「おりゃあ!!」


「グッ!、オモシロイ。モットブツケテミセロ」


振り回したチャリが怪物に当たり、後ろによろめくと、いかにも脳筋な事を言う。それに乗じてもう一度振り回す。


「二度目ハツウジナイゾ」


しかし、怪物は腕を大きく振り上げることによって、振り回した自転車のタイヤを貫いて鈍い音を立てながら真っ二つにする。幸い、持ち手が両方とも手前の方にあったので無傷なのは喜ばしいことなのだろうか。壊れた自転車を見て爪のヤバさにビビっていると、ご自慢のその爪が、俺の顔に向かってくる。慌てて重心を右にづらし、避けるものの少し髪が切れた。すかさず振りかざされそうになるが、その前に渾身のタックルを御見舞させ、距離を開かせる。


「オオ、ヤルナ……」


体制を整え、直ぐ様振りかざす怪物に、今度は荷物を投げつける。投げつけるのは飲食店のバイト後のとんでもない異臭を放つ代物。


「クッッッサ!、ナニコレ!?」


流石の怪物もこの発言。今なら性格の悪い店長もついてくる大特価。タダでやるよ。しかし、そんなことも応じてくれるはずもなく、直ぐに地べたに捨てられる。とはいえ、もうそこに僕はいない。後ろにもう回り込んでるんだから。


後ろからタオルを巻き、激しく首を絞め、窒息を図る。大方相手の身長は二メートル以上あり、登る必要がある。しかしその分この怪物は登った僕を的確に振り落とす必要がある。仕留めることは無理でも大分時間稼ぎになる。さっき、天使に電話してすぐ来るように頼んだのだから。


「死ねぇ!!」


「ッグ、コンナモノ!!」


これでもかというほどタオルに力を込め、後ろに重心を図る。それに対して怪物は前屈みになり僕を前へ叩き落とそうとするも、二人の力は均衡している。しかし、最近力が強くなった僕と、人外の引っ張り合いはすぐ終わることになる。音を上げたのは僕でも、ましてや怪物でもなくタオル自身だった。ブチッと嫌な音がしたあと、僕は後ろに倒れ、怪物は前屈みに体勢を崩す。


僕は後ろの痛みを抑えつつ、すぐに距離を取ると、怪物はゆっくりとこちらを振り向いた。


「ナメヤガッテ、ハヤクシトメルカ……」


そういうと、それまでとは比べ物になら無いほどの速さで迫りくる怪物。それに対してステップを振みながら後ろに距離を取る。目が赤く染まっており、2回戦目みたいだ。


「『ジャガー』」


両腕をクロスさせ仁王立ちし呟く。以前とは違う行動に違和感を覚え、咄嗟に横に飛ぶと、怪物は元いた所に向かい爪を立てる。コンクリートや壁を抉り、バラバラになっている。


「ッチ、『カッター』」


照明灯の跨いだ所で、今度は手を少し広げ、振り下ろすと、三つの斬撃が僕に向かう。避けようとするも、右腕がモロに食らってしまい、ボトっと腕が落ちてしまった。本来なら発狂物だが、今までの非日常を考えて三途の川も渡りかけたので、別にどうってことはない。


「うわぁ、マジか。こりゃ今日死ぬかもしれないな……ッチマジ死ね」


ニィッと笑う怪物を睨みつけながら悪態をつく。そんな悪態に動じないかのように余裕そうに笑う。照明灯の明かりが消えた頃、ゆっくりと確実に僕を仕留めようと、爪を構えながら近づく。


少しやばいなと思ったが、心の隅に余裕を持てていた。どれもこれも、僕が過ごしてきた天使たちと比べると、全く速くないのだ。


一番の例といえばハンターだ。彼自身、本来はスナイパーであるので、肉弾戦は得意ではないものの、ある程度は動け尚且つ一つ一つに豊富な知識と技術がある。それに比べると屁でも無い。


それに何よりも余裕があるのはもう一つ、天使が今


「『アッグクロー』」


直後怪物が肩から斜めに三枚に卸される。怪物は理由もわからず崩れていく自身の姿に困惑している。そりゃそうだ。やっと仕留めきれたと思ったらとんでもなく強いやつが真後ろにいて、突然卸されるだから。そして、怯えている怪物に天使は青筋を浮かべて言う。


「楽に死ねると思うなよ」


僕は察した。右手から回復させたあと、『アッグクロー』何回も繰り出し、計20回以上やり続けると、そろそろ止めさせる。


「イキタ……カッタ………ダケ……ナ………ノ……ニ…」


最期は悲しみながら光となって消えていき、最後に残った物は天使と同じカードが残った。天使はカードを無慈悲に踏みつけ、僕の腕を治す。その途中で行った言葉は……


「このゴミを呼び出そうとは思わないでね」


とのことだった。しかし、普通に強かったので、これを素体に新しい召喚をしよう提案したら渋々であるが了承を得た。そもそも道端にこんなのがあってはまかり間違って召喚してしまう危険もある。持っておいて不自由は無いだろう。


なんか今日はどっと疲れた。しかし、今回は本当に助かった。本当に死んでいたのかもしれない。






後、余談だが、うめき声を上げていた人は天使が回復してくれて、公園のベンチに寝かせて次の日にはなんの問題もなかったらしい。今回は本当に大活躍だな。


ーーーーーーーー


「おかしい、さっきまでは反応があったのに……逃げられたか?」


深郷田達の入れ違いの形で入ってきた人物がいた。腰には紐縄がつけられており、武士の様な服をした女性である。彼女は怪物の跡を見回しながら、争っていたであろう痕跡から、何処に向かったのかを推測する。


「飛んでいったのか?、いやあれは『爪鬼』だ。相当な位階がないとそこまで強くならない」


彼女の言う『爪鬼』は、鬼の種類の中でまれなスピード特化型である。その上、他の『あやかし』と比べると頭が回り、直ぐに逃げられるということもあり非常に手を焼く。そんな『爪鬼』がわざわざ羽を生やすだろうか。それに今回の瓦礫から出てくる霊力の残り香を見ると、爪が通常よりも肥大化している。そんな『妖』に、羽を生えさせる程のステータスを保持しているとは考えにくい。


そこからの推測から、もう一つの可能性を考える。倒されたのではないだろうかと。しかし、『妖』は対抗手段がか、又はでしか、対抗できない。その上式神は。基本的には小型の偵察型でしか愛用されることはないため、可能性が薄いと考えられる。しかし、1人だけ、そんな芸当が可能な人物がいる。彼にはもうそんな記憶はないが、可能性もある。彼を監視しようと目付け役である一人の部下に連絡を入れる。


「……私だ。一つ聞きたいことがある。お前に監視させている彼に何か変化はなかったか?」


彼女が彼に遭遇させたのは先週。その時は可愛らしい姿で元気にはしゃいでいたとのこと。


「……何も変わりはないな。分かった……だが、念の為式神で監視させる。いつも通りにしても良い………」


一通り連絡した後、そのまま電話を切り、ポケットから小さな紙を取り出す。


「……頼む……『バタフライ』、『妖』を倒したやつを見つけてこい」


小さな紙が蝶となり、ひらひらと飛んでいく。それを見届けた後、彼女は壊れた壁などを霊力を使って修復した。


「最近、『妖』が多いのに危惧していたことが起きてしまった。………まあ……結局は倒せてはいるが…………」


空を見つめながら、一人呟く


「心配だ……寿一郎…」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る