パパラッチをハートキャッチ
「ああ!? なんで俺写真撮られてんの?」
「ふふ、ええ感じに撮れてんなあ。杉田クン、この写真、無料で学校中にバラまかれたなかったら……かしこいキミならわかるよなぁ~?」
頭からフードを払った
蒼白だった顔が羞恥で赤くなり、写真に手を伸ばし、夏樫が写真をひょいと掲げ、また杉田の表情から血の気が引いた。
「アカンで~、正しい答えは分かっとるはずや。キミがしてきたことと、しようとしたことを思い返せばなあ」
「う、あ……」
「ここまで言うて上げても答えられへんの~? ションベンと一緒にボキャブラリーも出てもうた? 」
呻くだけの杉田を見て、可笑しくてたまらない、というように夏樫は嗤う。正直、さっきまでの死神の演技より今のほうがある意味恐ろしい。
「キミが社会的に死なんと済む選択肢はただ一つ。キミが手に入れようとしとった『核爆弾』から手ぇ引いて、売っぱらった写真をぜ~んぶ回収して、そこのカメラマンちゃんの正体も忘れることや。余計なこと言ったら……わかっとるな?」
口の端を歪めた凶悪な笑顔で凄むと、杉田は声もなく何度も首を縦に振り……精神が限界を迎えたのか白目を向いて気絶した。
「ふ~、こっちはこれでよし、や。さて……」
満足げに立ち上がった夏樫が、おもむろに床に蹲る
「あ、あなた……なんなの……なんなのよ……」
「ん? 自己紹介覗いてたんやろ? みんな大好き、歌って踊れる
小首を傾げて微笑みかけてはいるが、百目は怯え切って後退りするばかりだ。
まさか女子である百目にも杉田と同じ目に合わせるつもりか……?
百目も、それを予期してか投げ出していた脚をきゅっと閉じた。
夏樫は杉田の写真を挟んだ指先を振って、もう一枚の写真を出現させた。おれの位置からは何が映っているか見えないが、百目の目を剥く様子から、それがあの廃部室に隠したものであることは分かった。
「よう撮れとるとは思うけど、もったいないって」
一転して柔らかな口調になり、夏樫は膝を折って百目と目線を合わせる。
「……は? もったいない?」
「せや。百目ちゃん、せっかく立派なカメラをお父ちゃんからもらったんやろ? そのカメラでもっとええもん撮ったほうが、お父ちゃんも喜ぶんと違う?」
「そ、それは……でも……、復讐が」
「生徒会長チャンと付きおうてからも浮気繰り返しとるようなヤツやで? 百目ちゃんとは最初っから釣りおうてなかったんや……もちろんその男のほうがうんと下でな」
話しかけながら、夏樫は百目の背中に手を回して抱き寄せた。
「だってこんなにカワイイんやで? 新しい恋なんてなんぼでも始められるし……カメラやって、将来プロのカメラマンにでもなったら隠し撮りなんかよりよっぽどガッポガッポ稼げると思うで、センスええし」
「え……」
戸惑うような百目の背中をぽんぽんと優しく叩きながら、さらに口にする。
「ウチは見たいなあ、百目ちゃんが立派なカメラマンになってバリバリ活躍して、誠実なイケメンと付きおうてるとこ」
言いながらあやすように体を揺らす。すると、目をぎゅっとつぶった百目がすすり泣き始めた。
「……ごめんなさい、彼氏を取られてから、こんなに誰かにやさしくされたの、初めてで……」
「うんうん、ツラかったなあ。一人で思い詰めてもうたんやなあ……使うたフィルムとかもバカにならんかったやろ?」
相槌を打ちながら、優しく話を聞き出すのを続けていくと、目に見えて百目の体から力が抜けていく。
「わたし……お父さんのカメラでこんなことしちゃったけど……、
今からでも目指していいのかなあ、カメラマン……」
「ええやんええやん。ウチは応援しとるで? まっとうなキミの切り取る世界、どんなもんか見せて欲しいわぁ」
「……うん」
「ふふ、ええ子や」
百目に向かって柔らかく微笑むと、夏樫はもう一度持っていた写真を掲げて見せた。
「ほんなら、もうこの“爆弾”は必要あらへんな?」
すっかり憑き物の落ちた顔で首を縦に振る百目の前で、夏樫はその写真を両手で引き裂いた。細かく千切ったものを片方の手の平にのせて、ふっと息を吹き替えると魔法のように消え失せた。
「これで、この学校の盗撮魔はもうおらへん。な?」
「夏樫、さん……」
……一見、情け深い行動だが……直前の杉田への脅迫との落差で騙されていないか?
おれは訝しんだが、目を輝かせる百目を見ていると何も言えなかった。
「ふう、いい汗かいたわ。ほな、事件解決の報告、といこか。会長サンに叱られへんように身だしなみを整えて、な」
汗一つかいていないくせにそう言うと、夏樫はパーカーを脱ぐ。その下からは手品のように制服が現れる。しかも胸元がパッツパツでスカートの短いものではなく、生徒手帳の身だしなみのページに乗っているような丈だった。
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