第2話 キャラメイクとは己との対話である
『ディザイア・オンラインへようこそ。広大な世界へと降り立つ前に、まずは貴方の分身となるキャラクターを作成します』
無機質で白い壁に床、目の前に映し出されるは四角のウィンドウ。
多少の不気味さも感じる空間で、俺は女性の音声に促されるがままにアバターを作り始める。
ゲームの中である筈なのに、体を動かせば体が動く……言っている事が変かも知れないがそうとしか表現できないし、それだけの事がなかなかに楽しい。
これまでFVRは敬遠していたが、割と勿体無い事をしていたのではないだろうか。
『初めに、キャラクターの種族と性別を選択してください』
三つの種族が二パターンずつ、計六人が俺の前方へ出現する。
種族は人間、獣人、そして竜人があるみたいだ。
人間は基本何でも出来るオールラウンダーで、獣人は近接戦闘に特化しているらしい。
竜人は他の二種族よりも全てのステータスが高いかわりに一部のアイテムが使用不可、その上NPCとの会話が特殊なものになるらしい。
ピーキーな性能、というヤツだ。
どの種族も魅力的だが、長く遊ぶのなら出来る事は多いに越した事は無いだろうとの判断に基づき人間を選んだ。
それに、少なくとも俺をディザオンに誘ったイナリさんは獣人にしているだろうし、獣人でないと駄目な場面があったら彼に頼もう。
竜人は……いつかサブキャラでも作る日が来たら選ぶか。
性別?
そりゃあ女性にしましたよ、だってそれが目的の内の半分ですし。
「さてさて、それじゃあ見た目を弄っていきますか」
目の前に出現した鏡を見ながら、手元のウィンドウで一つづつ丁寧に自身の見た目を設定する。
一番上には『リアルの見た目を反映する』なんて選択肢があったが、とんだ罠だ。
顔出しでやってる配信者なんかは使うのかもしれないが、少なくとも俺みたいな美少女になりたい願望を抱えている、あるいはその逆でイケメンになりたい人にとっては一生縁のないコマンドだ。
「髪型だけでも相当に種類多いな。しかもこれ、プリセットだし。自分で髪切って設定するのも可能って……美容師の資格持ってる人ならありがたい……のか?」
一応言っておくと、俺は資格どころか普通のハサミすら満足に扱えない。
出来たら出来たで髪型の選択肢が余計に広がって更に悩むのは分かり切っているので、美容師を目指していなかったのは幸運だったかもしれない、なんてのは流石に詭弁がすぎるか。
選択肢が無限でなくても膨大な事には違いないので、結局種族の選択と同じかそれ以上の時間悩むことになってしまった。
その後、細かい要素一つ一つに同じだけの時間がかかってしまうのだが、全てディザイア・オンラインのキャラメイクが細かすぎるのが悪いと思う。
* * *
最終的に俺が出した結論は、白髪ロングで前髪も片目が隠れる長さ、目の色は小判を思わせる金色……なんてものは無いので黄色。
FVRに慣れていない人間がリアルと違う身長のアバターを使っていると疲れやすくなるらしいので、身長は現実の俺と同程度に。
同様の理由で胸も削ったが、決して他意は無いし癖でも無いので悪しからず。
真面目な話、事前調査によるとこのゲームには性別による装備の制限がないらしいので、突発的に男装がしたくなった時の為の安全策である。
そしてイナリさんが言っていた通り、ボイスチェンジャーも設定出来た。
低音イケボの美少女になれる神ゲーディザイア・オンラインは、今後出会った人全員に布教していこうと思う。
『職業を選択してください』
キャラメイクに手間取った為一時間ぶりとなってしまった音声ガイドに従い、表示された各職業の説明に目を通す。
職業は戦闘職が六つ、生産職が五つ。
戦闘職は戦士、剣士、狩人、魔術師、召喚士、司祭。
生産職が鍛冶師、木工師、裁縫師、錬金術師、料理師だ。
商人があれば商人一択だったのだが、無いのなら仕方がない。
マネキンの着ている服の中で一番好みなのが、司祭の白い布に金色の刺繍が入ったローブだったので、それ目当てで司祭を選択する。
司祭は回復寄りの魔法職らしく、他のゲームで言うところの僧侶や白魔道士、メディックに当たる職業みたいだ。
『続いて、信仰する神を選んでください』
なんだ、まだ選択する項目があるのか。
説明によると、AIによってランダムに生成された実績を解除する事で、信仰する神と選んだ職業に合わせたスキルを覚えるらしい。
覚えるスキルも大半がランダム生成されたものらしいので、基本的に他の人と戦い方が被る事はなさそうだ。
ただ、このゲームにはレベルの概念は無いらしく、確定で覚えるスキルも存在しない。
ここの選択を誤れば、それ即ち詰み––––––––
「あ、富神ってある。よーし決まり、次に行こう!」
なんて知ったことか。
俺は、どんなゲームであれプレイスタイルを曲げる気はない。
誰よりも稼いで、誰よりも富を築き、ピンチの際には全財産を消費してでも勝ちをもぎ取る。
むしろ、俺こそが富の神になってやろうじゃないか!
……ゲームの中でくらい、リアルのお財布事情は忘れたいしな。
『キャラクターネームを設定してください。尚、ここで設定した名前はNPCにも呼ばれる事となりますので、ご注意ください』
うん、危なかった。
大概名前はネタに振ってしまう人間なので、今の注意がなければ現代版寿限無が始まり詰んでしまうところだった。
でも変な名前にしたい。
真面目に名前を考えるとセンスが『†闇より這い出てきた漆黒の黒†』みたいになってしまうので、どうにかネタ要素を入れて中和しなければならないのだ。
「……
『アクセン様でよろしいですか?』
「多分大丈夫そうだし、それでお願いします。金策するにはとんでもなく縁起が悪いけど、気にしない方針で」
『了解しました。それでは最後に、冒険を始める国をお選びください』
無事にアクセンとなった俺の前に、マップが表示される。
大陸はドーナツ状となっていて、中央部には海……いや、巨大な湖が存在している。
同じくらいの領土を持った国が三つあり、北部にあるのは機械技術の発展したベーテン帝国、東部にあるのは和風っぽいシュクガン都市連合。
個人的にはベーテン帝国に行きたいのだが、イナリさんは西部にある中世ヨーロッパがモチーフの王道ファンタジー国家、プレイア王国にいるらしいので、俺は渋々プレイア王国を選んだ。
てか、プレイア王国の街の名前分かり辛いな。
首都がカレイドで、ミリアドに、シガレドだろ?
最後を揃えたいのは分かるけれども、初心者には覚えられないな、これは。
『以上で、全ての設定は終了しました。それではアクセン様、どうか素晴らしい冒険をお楽しみください』
ああ、ようやくだ。
それじゃあ冒険を、いや、金策を始めようじゃないか!
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