美少女になりたい金策廃人はVRMMOで大富豪を目指します!
不明夜
第1話 栄華の終わり、新たな門出
『ここまで、ほんっとうにありがとうございました!皆さんと遊べたこの五年間は、ギルドマスターとしても俺個人としてもかけがえのない日々でした!』
暗い部屋の中、キーボードのエンターキーを押してメッセージを送信すると同時に、俺はゲーミングチェアの背もたれへ全体重を預ける。
眼前のモニターは近未来的な宇宙船の内部を映し出しており、黒くテカテカとした床の上には場にそぐわない木の椅子が並べられている。
そんな椅子に座っているのは、これまた宇宙船にそぐわない黒いローブを被った魔法使いや鎧を着た騎士。
しかし、その隣にはボディーラインの浮き出る宇宙服を着た壮年の男だって鎮座しているのだから、改めてこのゲームの世界観がどれだけとっ散らかっているのかを認識させられてしまう。
何にせよ、この混沌とした光景が見られるのも今日までだ。
現在時刻は23時54分。
画面右上に表示されたデジタル時計が0時00分を示すと同時に、このゲームは
俺が中学の時にPCを買ってもらってから、現在大学生となるまでの五年間。
フルダイブのVRMMOが主流となった時代にあえてPCのみ、しかも基本無料が基本な時代にフルプライス+月額課金でここまで運営した事には敬意を示したい。
最初はファンタジーだったジャンルも、数度のアップデートを重ねる内にいつの間にかSFへと変貌していたが、それでも俺はこのゲームが大好きだった。
かけがえの無いフレンドも出来たし、一期一会のプレイヤーと協力して馬鹿みたいな難易度のボスを倒す喜びも知れたし、それに。
金を儲ける喜びの味も、よくよく覚えられた。
時計の数字が進む。
左下のチャットログには、ありがたい事に俺への感謝が流れて行く。
時計の数字が進む。
進む。
右上に一瞬0が並んだ後に、モニターが暗転する。
12月21日、0時00分。
ひっそりと、一つのゲームが終わりを迎えた。
* * *
同日、21時。
ある種の燃え尽き症候群を抱えたままに一日の講義を受けた俺は、数本の緑茶をコンビニで買ってアパートへと帰った。
誰が待つでもないワンルームの部屋に「ただいま」なんて言いながら入る行為が如何に虚しいかなんて、実家に居た頃は知る由もなかったな。
家の中に居るというのに帰るべき
……いや、少し嘘を吐いた。
カップ麺にお湯を注ぐくらいは出来る。
家にあるのが、よりにもよって湯切りを必要とするカップ焼きそばだけなので、食事にありつけないというだけだ。
考えてもみてほしい。
うっかり麺をシンクへ落としてしまう危険性を、アレは孕んでいるのだ。
今の精神状態でそんなミスをしでかせば、将来の夢がウニになってしまう。
何も考えず、ただキャベツを頬張る人生。
案外、悪くないのではなかろうか。
益体もない思考に耽っていたところ、握り締めていたスマホから着信音が鳴る。
それは、一通のメールが届いた事を示すものだった。
詐欺かスパムか迷惑メールか、届いたものをすぐさまゴミ箱へ放り込む覚悟を決めてから確認する。
届いていたのは、大変迷惑で詐欺じみた友人からのメールだった。
件名 |FVR機器買え
差出人|inari@************
本文
いや本当に買って、マジで面白いから。三回もベータテストに参加した僕が保証する。お前の大好きな金策も(多少面倒だけど)たっぷり可能だから。
彼……イナリさんから届いたダイレクトマーケティングは確かに魅力的だが、今更FVR機器を揃え、ソフトを買ってまでMMOをする気は無い。
今の俺は、いわば失恋して傷心の身。
すぐに次のゲームへと移れるほど尻軽でもない。
如何にディザイア・オンラインが面白そうであっても、遊ぶ気は無い!
追伸
ディザオンはアバター美少女に出来るし、ゲーム内に
* * *
そんな訳で、俺は今ダンボールの箱からFVRヘッドセットを取り出している。
届くまで思いの外時間がかかったせいで、世間は絶賛クリスマスで浮かれている。
丁度大学の冬休みも始まったので、そこだけは幸運だろうか。
説明書を飛ばし読み、ディザオンの公式アカウントを作成し、とんでもない容量のダウンロードを済ませて今は12時半。
カップ焼きそばを食べ、トイレにも行った俺はFVR機器を被ってベッドへ寝転がる。
いざ、ディザイア・オンラインの世界へ。
全ては、美少女となって金策する為––––––––!
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