第3話 メダルワールド
この競馬ゲームは非常に作り込まれていた。
実在していた競走馬たちが登録されており、馬券の種類も単勝、複勝、ワイド、馬連、馬単、3連複、3連単がある。
育成としても、配合を考えることも出来る上に優秀な父、母を選ぶとメダルの必要数も多くなるが強い競走馬が生まれやすい。
競走馬の強さについてはシンプルで分かりやすく、パラメーターがスピード、スタミナ、コンディションが目に見えてわかる。
調教としてメダルを使用することでスピード、スタミナのパラメーターを増やすことが出来る。コンディションは馬の調子を表しており、1レース毎に変化する。コンディションが良いときにはスピードスタミナのパラメーターが少し増え、逆の場合は減る。
出走させることの出来るレースはG3、G2、G1と後者に行くほど1着になった時に獲得できるメダルが増える。
レースに出走し終えると、パラメーターは下がって戻ってくる。そしてまた育て出走させてを繰り返してメダルを増やしていくゲーム性となっていた。
この競馬ゲームは僕たちの胸を常に熱くさせた。
競走馬のフィギュアがぎこちなく動き出す。
この時、僕は必死に集めた100枚足らずのメダルを一頭の馬にオールインしていた。
ここまで自信を持って推す理由には訳があった。
自分が育てた馬だったのだ。毎日コツコツと育て、グレードの低いレースに出走させて、間違いなく勝てる状態に仕上げたのだ。
これで大量のメダルを獲得することができる。
確信してレースを見守っていた。
レースも終盤に差し掛かり、僕の馬は速くなった。
きた。よっしゃあぁあ。
100枚もなかったメダルが一気に2000枚近くまで増えた。
気づいてしまった。これがこのゲームの必勝法だと。
それからはこの2000枚を使って必死に育成し、育ててはレースに出走させて自分の馬に賭け、メダルを増やしていった。
気付けはメダルは5000枚を突破し、周りの友人たちと比べても頭が二つ三つ抜けて僕が多くメダルを持っていた。
メダルに余裕が生まれてくると僕は周りの友人たちにメダルを配った。ただ、メダルは無料ではない。当然だ。
僕は友人たちにメダルを貸しては少し多く返してもらうを繰り返して新しいメダルの増やし方を構築していった。
しかしそう上手くはいかなかった。
所詮はメダルゲームだ。調べるとペイアウト率というのが決まっていて、100枚使ったら87枚になるような設定になっているらしい。
いくら強く馬を育てても負ける時は負ける。そういう設定になっているから。
気づいたら僕のメダルは1枚も残ってはいなかった。
こうしてメダルゲームから足を洗うのかと思えば、僕の負けず嫌いさがそうさせてくれなかった。
ペイアウト率といったって勝てる時もある。周りの人に負けてもらって、自分はコツコツ増やせるのではないか?
そう勘違いしていた。
メダルがない時には少ないお小遣いで当たればメダルが出てくるパチンコやスロットで遊んでいた。これも中々面白かった。
少額のお金でも何百枚のメダルになるのだから非常に儲かった気がしていた。
僕は中学校を卒業してもなおメダルゲームを卒業していなかった。
気づけばゲーセンには、中学の友人たちはいなくなっていて、ゲーセンで知り合った不登校気味の友人たちだけが残っていた。
高校に進学して1年ほど経つと僕がずっと通っていたゲーセンは時代の影響もあり閉店してしまった。
僕からしてみれば残念ではあったがお小遣い全てをメダルにと、無駄遣いをしなくなったので
良かったことなのかもしれない。
井戸 @demz
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突風/@demz
★0 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
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