第5話 猫はかわいい

 猫はかわいい。


 もっちりした顔に納まるまん丸のおめめ、ぷっくりしたマズル、ピンとしたヒゲ、三角の耳。しっとりぷにぷにした肉球。音も立てずに歩き、狭い場所に潜り込むしなやかな身体。それでいて高い場所にひょいと昇っていく、時には強烈なパンチやキックを繰り出す力強い四肢。ふかふかの毛並み、ゆらゆら揺れるしっぽ。


 まさに神の創りたもうた完璧な造形ではないか。


 それだけではない。


 撫でると気持ちよさそうに目を細める様、いとをかし。

 日向で身体を伸ばして昼寝などする様はいふべきにもあらず。

 シャーッと威嚇する様もあはれなり。


 そこにいるだけで愛おしい。

 だって猫だから。


 そんな猫だが、当然ニンゲンよりも寿命は短い。順当に行けば、飼い主よりも先に死んでしまう。猫を看取るために、飼い主も健康に生き、働かなければならない。

 家猫の平均寿命は、十五歳くらいと言われている。長ければ二十歳くらいまで生きる子もいる。


 うちの猫は、九歳を迎えた。元野良だが、子猫の時に目撃されていたことがあるらしいので、生まれた年と月ははっきりしている。


 あと五年、長ければ十年くらいは生きてくれるだろうか。長いようだけれど、きっと過ぎればあっという間だろうなと思う。


 長生きしてほしいと思う反面、世話が大変になるだろうな、医療費はどれくらいかかるだろうかと、ちょっと下世話なことを考えてしまう自分もいる。

 いざその時になったら動揺してしまうだろうから、葬儀屋などもあらかじめ見繕っておいた方がいいかなあとか。


 そんなことを考えつつ、やっぱりこのふかふかのあたたかい生き物が、冷たくなって動かなくなる時を想像すると、胸の奥がきゅっとする。

 お腹を触るお許しをいただけたときに、そっと胸のあたりも触って、とくとく鼓動のする場所を見つけて、ああ、生きているんだなあ、命ってなんだろうなあ、なんてとりとめのないことを考えたりもする。


 今日も猫はかわいい。

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