第5話 〜誰1人失わない〜
しばらくして、神はようやく落ち着いてきたようだった。それを見ていた俺だったが、またしばらく無言の時間が続いていた。
何故かなんて俺には分からない。
この空気感を切り裂くように俺は話し始める。
「えぇと…緑髪の件は、あまり気にしてないので大丈夫ですよ。神様…」
俺の言葉を聞いた神だったが、片手で顔を覆った。
どうやら違うらしい。
俺には、神を困らせるようなことをした記憶がない。
俺は再び話しかける。
「あの、どうかなさいましたか…?」
神は少し間を置いて話した。
「…この世界に来る前…私が言った言葉、覚えている?」
来る前の言葉?いつの言葉なのだろうか。俺は言われた言葉を思い出す。
「[え?]と言ったところですか?」
「違います。その前です」
若干面倒くさそうに俺は記憶を辿る。
……………(第3話)
「次あなたが声に出した名前の[もの]が相棒となります。その瞬間にあなたと相棒を異世界へ転送させていただきます」
……………
確か、この言葉か?いや違う、次の言葉か…?…確か俺は、あの剣の名前を…
そう思いながら、俺は再度記憶を辿った。
……………(第3話)
「神様ー」
……………
そうだ。俺は[あの剣]の名前を………
言っていないな。
神様と言っているな。
…これ、[物]じゃなくて、[者]を相棒にしたということなのか…?
完全にやらかしたことに気がついた俺は、青ざめた表情をしている。
そのまま俺は聞いた。
「…あなたが[相棒]になってしまったということですか…?」
神は軽く頷く。俺はもう1つ聞いた。
「…帰れますか?」
神は首を横に振った。
「すいませんでしたー!」
俺は土下座してそう言った。
俺は笑えないくらいには焦っていた。折角償いの機会をくれた神様をこんなことに巻き込んでしまったからだ。
数秒経って、神は話し始めた。
「いや…少し驚いただけで、気にしなくて結構です…顔をあげて下さい」
絶対に気にしている緑髪は顔をあげた。神は俺を安心させるように話し始めた。
「元々、この世界には来る予定ではいたのです。先延ばしにしていただけで、だから本当に気にしないでください」
俺はこのセリフで安心出来たのか。いや、きっと出来ていないだろう。
神は再び話す。
「しかし、何も持って来ないできてしまったのは失敗でしたね。神力もほとんど失われているみたいですし…これからどうしましょうか…」
「…僕に着いてきてくれませんか…?」
神はこちらを見て驚いた顔をしていたが、俺はお構いなく話す。
「僕言いましたよね…[誰1人失わず、全員救って見せます]と。自分が巻き込んだうえに、このまま別れてあなたが死んでしまったら、絶対に後悔すると思う…あなたは僕に償いの機会をくれたのです。僕はあなたにこれほどにない感謝をしています。だから守らせて下さい。確かに、今の僕には力はありませんが、絶対に守りきります」
実際、少年は異世界特典を何も貰えていない状態で始まった。つまり本当に体1つで異世界に来てしまったということになるのだ。
神は、ここで少年の勧誘に乗るのは、自分の命を考えると、正しい選択とは言えない。
そんなこと神は知っていながらも、こう言った。
「じゃあ、お願いしてくれますか?」
神は、あの時の少年の[感じさせる何か]を信じた。
俺はやっと一安心した。
「これから[仲間]になるってことですよね?」
神の言葉に、少年は少し迷ってしまったが、そっと頷いた。
そしたら神は言った。
「だったら、敬語はやめよっか」
突然敬語を辞めた神に、少年は驚いていたようだ。
「私の名前は[アオイ]。これからよろしくね。ハヤト」
アオイは手を出してきた。
握手を誘っているのか。俺は深呼吸した。そして手を出しながら言った。
「よろしく!」
2人はこの世界で初めての微笑みを見せた。するとアオイは話し出した。
「何もしないでずっとここにいても何も出来ないままだし、とりあえず…歩く?」
俺は頷いた。神が太陽の方角へ歩き出したので、少年も着いて行くように歩き始めた。
追い風が、2人の背中を押した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます