第27話 女装は癖になるから気をつけろ

モンキーホーテ。

24時間、色々なアイテムが売っている大型店舗。

ヘリウムガスやピコピコハンマー、もちろん男装アイテムも売っているだろう。

今回の文化祭の買い出し担当としては、この店を訪れないわけにはいかない。




────放課後────




俺と山本が、モンキーホーテへ足を踏み入れて数分のことだった……。




「なぁ佐藤、俺たちも女装してみたくね?」


男装商品を見て回るって言ってるのに、山本は女装商品しか見てやがらなかった。

で、長髪のウィッグを嵌めて何か考え事してると思ったらコレだよ。

人選ミスですよ、委員長。


「……やらない」


「やろうぜ! 特に忠洋! お前は磨けば光るタイプだ!」


「……ぜっったいやらない。……それに、山本はクラスの女子にメイクして貰いたいだけだろ?」


「……それも動機の九割くらいを占めてるけどよぉ。……俺、やってみたいんだ」


占めすぎだろ。

とか、そういうツッコミはしなかった。

言っても無駄だから。


「はぁ。なにを?」


「男をオトすの」


「なんかもう、勝手にやってて下さい」


僕は山本を置いて、短髪ウィッグを探す方に専念。

……しようとしたら、腕を掴まれる。


「たのむっ、頼むよぉ。文化祭、男子だけ裏方ってのは寂しいじゃねえか」


「……まぁ。たしかに」




今回の男装喫茶の懸念点として、男子と女子の仕事が隔絶されている点があった。

フロアは女子の仕事場で、キッチンが男子の仕事場という風に、双方に大きな壁が存在することとなる。


そうなると、万が一のトラブルの際に対応できない場合がある。


例えばナンパ目的の男性客に対しては、男子生徒が対応するのがベスト。

逆に、キッチンでのトラブルは、何かと女子生徒が役立つだろう。


とまぁこのように、女装するという案に対して、一応メリットもある。




「──とりあえず、委員長に聞いてみるか」


「委員長? 学校に戻るのか?」


「……? 何言ってんだ?」


そう困惑しながら、俺はポケットからスマホを取り出す。


無論、委員長に電話をかけるため。

山本はゴリラすぎて、文明の力を知らないらしい。

物珍しそうにスマホを見る。




プププッ、ププッ……




と、コール音が聞こえてくる。


「……忠洋。お前はもしかして、委員長とも仲がいいのか?」


「……ん? 朝の挨拶はする、くらい?」


あっ、山本が石になった。

ちょうどいいか、どうせ煩くするだけだし。

静かになったと思えば。


『──もしもし佐藤くん? どうかしました?』


「……委員長に提案があって。そのー、山本が突然言い出したんだけど──」


と、俺は山本の案を話し、ついでにその案のメリットも付け加える。

委員長は何度か相槌を打ち、興味深そうに話を聞いていた。


『……たしかに、いい考えだとは思いますけど……』


「なにか、あるっぽいね」


『単純に、予算が足りないと思います』


「だってさ、どうする山本?」


「……自腹で構いませんっ。俺に……俺たちに女装をさせてくださいっ!」


「──だそうです」


『……自腹なら、まぁ、いいと思いますよ。……ただ、クラスのみんなから許可を取る必要はあります』


「おっけい。委員長ありがとう」


『いえ、こちらこそ買い出し、ありがとうございます。引き続き、お願いします』


「はーい」




プッ…………





「はぁぁぁぁぁ……」


と、電話が切れると共に、山本は緊張の糸が切れたようにへたり込んだ。




……委員長からの折り返しの電話はその後、数分足らずで鳴った。

曰く、「予想以上に肯定的な意見が多かったです。すんなり、全員の許可が取れました」とのこと。

山本にそのことを伝えると、アイツは爆速でウィッグを買い物かごに入れ、鼻息を荒くしながらレジへ向かっていった。


彼の背中は、いつも以上に大きく見えた。






僕と山本は学校に戻り、モンキーホーテの袋を教室に届けた。


「──ちょっと佐藤くん? こっちにおいで?」


「そうそう、悪いようにはしないから……」


「……いやです」


「いいからいいからっ、ちょっとだけって。ほら、ここに座ってじっとしてて」


すると僕は数名の女子に囲まれ、椅子に座らされる。

目の前の机には置き鏡と、化粧品……大体、何をされるのか想像ついた。


「……相澤っ、助けてっ」


「良いではないかー、良いではないかー」


残念、コイツも敵だった。いわゆる、四面楚歌。

相沢も乗り気だったらしく、嬉々として僕の顔にポフポフと、よく分からない施しを行なっていく。


「んー、どうだろ? やっぱまつ毛描いちゃう?」


「……いやっ、そこはナチュラルにいこう。その代わりアイシャドウを──」


「あっ! ヘアピンとかどう!? ほらっ!」


「天才! めっちゃいいじゃん!」


……もはや暗号である。


知らない国の人たちが、拷問の方法を話し合っているような感覚。

そして全員の意見が一致したかと思えば、よく分からない道具で顔に細工される。

おそらく、額に『肉』と書かれても僕は気づかないだろう。




そして時は過ぎること数十分。

目の前がぐるぐるして、あまり待っているという感覚だけはなかった。


「──ふぅ。こんなんでどうでしょう」


相沢は一仕事終えましたみたいな感じで、額を拭った。

すると僕の周りにわらわらと、クラスメイトが集まってくる。


「……やば。佐藤くん、写真撮っていい?」


「おいっ、忠洋なのか? ……お前、男だよな?」


山本の視線が危ない。

性犯罪者の目をしている。


「──忠洋、付き合ってくれ。幸せにする」


「普通に無理だけど」


「ぐはぁ!」


山本。男に振られ、吐血して死亡。

短い人生を、ここで終えられました。


山本が死んでも、ギャラリーはまだまだ増える。

他クラスの男子や女子までも、見にきたようだった。


「いやいや、ふつーに女子でも嫉妬するくらい可愛くない?」


「──あれ誰? 芸能人?」


ざわつくクラス内。

そしてチヤホヤされて『可愛い女の子ってこういう気持ちなのか』と、優越感に浸る僕。

新しい扉は目の前にあった。




「──えーなになに? ウチのクラスに芸能人?」


と、最終的に塩瀬さんまで嗅ぎつけてくる始末。

収まりきらない現場に、常識の範疇を超えた人が入ってきてしまった。


「えっ!? 誰これ!? めっちゃ可愛い!」


塩瀬さんは出来ている人の輪に突っ込み、そのまま貫通。

僕のことを覗き込んだかと思えば、鼻血をツゥーと垂らす。

目が性犯罪者のソレだった。


「佐藤くんの妹さん? 遊びに来てくれたの?」


「…………」


と、斜め上の勘違い。

僕に妹がいるなんて、いつ言った?


「塩瀬さん、その人は──」


「しっ。一条さん、面白いから黙ってて」


塩瀬さんの勘違いを訂正しようとする委員長!

それを妨げる相沢!

困惑する僕!


結果、塩瀬さんの勘違いは続行!

しかもネタバラシをする前に塩瀬が帰宅っ!


面白くなってきたな、文化祭。

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