2 武器一つ

 鶴城大つるしろだいはもう春休はるやすちゅうで、土曜どようあさ。キャンパスへはいっていく大学生がくせい体育会系たいいくかいけい部員ぶいん図書館としょかん利用者りようしゃだろう。

 鶴城大学正門せいもんまえの「しきいとどおり」をはさんでななかいにある、この集合しゅうごう住宅じゅうたくまゆ-TSURUSHIRO-」。

 とおりからこのくるませに入るには問題もんだいいけれど、集合住宅の車寄せから通りへるのが大変たいへんなのだ。

 今朝けさも、かなり交通量こうつうりょうおおい。

 この通りは片側かたがわ三車線さんしゃせんで、羽鶴はねづる物流ぶつりゅう大動脈だいどうみゃくのうちの一本いっぽんでもある。

 車どうは、空港くうこうきのリムジンバス。市内路ないろ線バス、観光かんこうバス。

 硝子がらすさんのけいトラック。タンクローリー。

 外国産がいこくさん高級こうきゅう車。こく自動じどう車。

 怪獣かいじゅう最終さいしゅう処分場しょぶんじょう関係かんけいりょう

 ツーリング中のバイク。

 道では、鶴城大学キャンパスなどを活動かつどう拠点きょてんにしているウォーキングのかい人々ひとびと信号しんごうちをしている。


 わたくしがりこんだ車が車寄せにまったままで、発進はっしんしない。

 ひだり後部こうぶ座席ざせきすわって、シートベルトをしているから、そろそろ発進するはず。とくに、さわいではいないし、飲食いんしょくもしていない。

 になってしまって、運転うんてん席側をジッとつめていると。

 運転しゅが車からキーをいてしまった。

 エンジンおんれて、カーナビの画面がめん表示ひょうじえてしまう。

 三月さんがつでも、暖房だんぼう最強さいきょうでつけて、風邪かぜかないように配慮はいりょをしてくれるけれど。のどかお乾燥かんそうしてしまうし、車内独特どくとくにおいもして、つよめの暖房だんぼうはおことわりをしていた。

 それがあだとなって、さむさをかんはじめる。

 運転手はあわててはいないから、意図的いとてきに車をうごかない状態じょうたいにしたとしかおもえない。

 そっと後部座席の左右さゆうのドアにをかけたけれど、ロックされている。


 今日きょうむかえの運転手は使命しめいけん警備けいび部門の短崎たんざきさん。はじめての、お迎えの担当たんとう

 ちちは、わたしと最低限さいていげん会話かいわをしてくれるけれど。

 短崎さんは父以上いじょう真面目まじめぎて、無口むくちしろ手袋てぶくろで、ずっとハンドルをにぎったまま。

 ルームミラーにうつっている黒縁くろぶち眼鏡めがねの顔は、交番こうばん制服せいふく警察官けいさつかんよりするどくて。

 くらいろのスーツは上着うわぎだけほんのすこしゆったり。防衛軍ぼうえいぐんOBオービーらしい、がっしりした体けいかくしている。

 けれども、それはわたしがかれ外見がいけんい当てたことにはならない。

 魔法まほう少女しょうじょが魔法道具どうぐっているように。

 拳銃けんじゅう一丁いっちょう

 サブで、ナイフは持っていないのはわかる。黒鍵こっけんのナイフがザワついていないから、刃物はものるいは車内にも無い。

 使命研警備部門のしょく員は、銃刀じゅうとう武装ぶそう例外れいがい許可きょかされている。そういった武かくすには、都合つごうい、ほんの少しゆったりした上着のサイズ感。

 わたくしが座っている座席もゆったりしているのとはわけちがう。

 彼はいつでも、暴走ぼうそうした魔法少女を殺処分しょぶん出来る。


 昨年さくねん十二じゅうにがつ

 世知せしるさまの送迎担当者のむらが運転中に「スマートフォンを操作そうさしていた」と、警ら中の警察官に指摘してきされて、解雇かいこ

 宇村は依願いがん退たい職をもうし出たけれど、「魔法少女を危険きけんきこんだ」として、使命研から「退職きん」をもらえなかった。

 それから、使命研安全あんぜん員の魔法少女と警備部門で、若干じゃっかん距離きょりまれている。

 世知様をふくめて安全委員の魔法少女たちが、警備員の「業務ぎょうむ中の問題もんだい行動こうどう」を見逃みのがしていたかいなかの内部調査ちょうさで「使命研安全委員会にゅう会から現在げんざいまでの過去かこさかのぼって」じん問をけた。

 わたくしも、もちろん、この調査を受けた。とく報告ほうこくすべきことは無かったので、みじか時間じかんわった。


 内部調査以降いこうなにも無かったのに。

 このくるまなかには武器ひとつ、へい器一つ。


 短崎さんはゆっくりとハンドルからりょう手をはなした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る