Dearest my Master, have mercy on me.

 くろはこうえに、きん箔押はくおしされたゼンマイかぜいのに、らいでいる。

 この蕨にかくれながらも黒光くろびかりしていた文字もじれつがだんだんと、色濃いろこくなっていく。

 黄金おうごんかがやく蕨をやしくすいきおいで。


Fightファイト Heartsハーツ Conventionコンベンション戦意せんいある心臓しんぞう条約じょうやく


 赤黒あかぐろ英語えいご日本にほん語ががる。


 この箱の中には、長年ながねん生物せいぶつ兵器へいき禁止きんし条約をみずあわにした怪獣かいじゅう残骸ざんがいおさめられている。

 使つかえる兵器がければ、なんでも使うしかない。

 魔法まほう少女しょうじょ道具どうぐには、「魔法少女にってしまう怪獣の残骸」がかくとしてえらばれる。


 かぎもせずに、魔法道具を箱にれているだけとは。何と不用心ぶようじんだろう。

 しかし。これでも、同級生どうきゅうせいだれにもぬすまれたことはない。

 カモフラージュで使っている上段じょうだん定規じょうぎれではなく、段をける。


 カタンッ。


 今日きょうは黒光りはしていない。

 まるで、砂鉄さてつをまぶしたかのように、っ黒でざらついて見えている。

廃車はいしゃの魔法少女」こと水野みずの 世知せしるさまからは、「黒すけ包丁ほうちょう」とばれているけれど。


 わたくしは使命しめい研究所けんきゅうじょ所属しょぞくする安全あんぜん委員会いいんかいの魔法少女、たわら 園子そのこ

 とおを「黒鍵こっけんの魔法少女」としている。

 ピアノはけないけれど、この刃わた三十さんじゅっセンチメートルのナイフの刃がピアノの黒い鍵ばんみたいだと言われてから、十一じゅういっげつ

 はる雪解ゆきどけの湿しめったつめたいかぜびずに。今日きょう放課後ほうかご無風むふう屋内おくない、研究所の試験じょうで、安全試験をかえす。


 ≪ビーッビーッビーッ≫

 試験開始かいし警報けいほう

 <これより、セファロポダ試験場にて安全試験をおこないます。

 研究所全職ぜんしょく員は、セファロポダ試験場がい退避たいひすみやかに最寄もよりのシェルターへ避なんしてください。かえします。これより……>

 所内しょない放送ほうそうは試験場内外にこえているのに。

 この試験場内からそとたいして、人間にんげんこえ家畜かちくごえはもちろん、怪獣の断末魔だんまつまれない。


 小学校しょうがっこうのグラウンドによく設置せっちされた廉価版れんかばん迎撃げいげきパネルとはくらものにならない、最新さいしんの試験パネル。このうえにピンクいろの怪獣がよこたわっている。

 休眠きゅうみんけの怪獣は今回こんかいも、拘束こうそくもされていない。

 わたくしがうごけば、すぐに怪獣もわたくしを感知かんちする。

 ほら。

 試験場内をまわって、人間にんげんの女の子を威嚇いかくもせず、びかかってた。


 安全試験では試験ちの怪獣がこく内外から送されて来る。

 効率こうりつじゅう視の研究所方針ほうしんしたがって、時間じかんけていられない。

 怪獣の弱点は、「せい工場こうじょうがバレること」。

 やはり、人造怪獣はつくの「くせ」や「趣味しゅみ」が出る。

 怪獣には型式番号かたしきばんごう刻印こくいんされているので、くに番号や製造工場番号をおぼえておくと、「新さく」だろうが、倒しやすい。

 ただし、今日最しょの怪獣は型式番号をさがす手をかける必要ひつようも無かった。

 怪獣内の型式番号を見つけようとするのも、面倒めんどうで。

 たりさわりなく、ってしまう。

 ピンク色で誤魔ごま化してはいるけれど、不純物ふじゅんぶつ多過おおすぎる。かみ骨片こっぺん、そしてマニキュア。

 このお菓子かしのグミっぽい、疑似ぎじにく弾力だんりょく

 動物どうぶつせい由来ゆらい先進せんしん業用ぎょうようゼラチン。

 おそらく、人間性由来ゼラチンもざっているだろう。

「最きん、怪獣づくりをはじめました」とニッコニコのしゅけい工場の新参入さんにゅう案件あんけん

 だとしたら。

 北米ほくべい大陸たいりくではなく、ヨーロッパのぼう工場の可能かのう性がたかい。

 あちらは、ちいさな戦争をいくつもかかえている。「あまった人間性由来ゼラチン」の処理しょりにうってつけ。

 国際かん摩擦まさつこる倫理りんり案を憂う。そのような、「ゆう事の可愛かわいさ」はまん十一さいであろうが、わたくしには無い。


「怪獣の安全を確認します……いえ、確認しました」


 いち撃で、安物やすもの不良品ふりょうひんが倒れてしまった。

 しになるはずの「戦意ある心臓」は、勝手かって崩壊ほうかい壊したということは、「他社たしゃ中古ちゅうこ心臓」の可能性もある。

 かけだましのゼラチンへきをかき分けながら、研究員たちが「問題もんだいのある心臓にかんする報告書ほうこくしょづくりを始めている。

 結局けっきょく、わたくしは一筋ひとすじあせなみだも、ながれなかった。



 どうして、わたくしのような女の子が必要ひつようか?

 世かいは戦争をするための生物兵器に、条件けを行ったせい。

 今後こんごの生物兵器は、女の子でも倒せるほどの「安全な生物兵器」であること。そんなくだらない条件を、加盟国はひたすらまもっている。

 無法むほう地帯ちたい上の害悪がいあくでしかない殺戮さつりく兵器は、すべて安全が確認される。

 魔法道具で武装ぶそうした女の子でも簡単かんたんに倒せる怪獣は、工場から研究所へとおくられて来る。ひっきりなしに。

 そして、わたくしたちは、けることがゆるされない魔法少女のための安全試験を行う。


 <俵さん、隣接りんせつ試験場のゲートを開門かいもんした。応援おうえん急行きゅうこうして>


 監視室の窓辺まどべで手をっていた使命研究所安全試験かんひじりばしさんが急にあわてだして、わたしに場内放送で指示しじを出す。

 怪獣委員会の魔法少女もそうだけれど。

 もちろん、安全委員会の魔法少女も負けてはならない。




Dearestディアレスト myマイ Masterマスター, haveハブ mercyメルシー onオン meミー./最あい旦那だんな様、わたくしをあわれみなさって」




 隣の試験場へあるきながら、おまじないをとなえれば。

 ナイフのざらつきはくずれ落ちて、つやめく黒あらわになる。

 隣の試験場で大暴おおあばれしていた怪獣はわたくしを見ることが出来ていた。

 わたくしが指先ゆびさきでナイフにれた瞬間までは。

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