第3話 老人の願い

老人はポケットから小瓶を取り出した。

香水の容器にも見える。


若い男は首をかしげる。


「何ですか? それは」


「わしはこう見えて科学者でな。ある研究をしているんじゃ。これはその成果である」

老人は小瓶を高く掲げ、エヘンと胸を張った。


「それを使うとどうなるんです?」


それを聞いて、老人はニヤリと笑った。

「そうか、手伝ってくれるか」


「何が起こるのかを確認したい!」

若い男は首を横に振りながら、否定の意を示した。

 訳のわからないことを言う老人に振り回されるのはゴメンだった。

 顔が赤く染まるほど興奮している。


「おや? これから死ぬ男が先のことを気にするか?」

 

 若い男はスンと静かになった。

 みるみる顔が青ざめる。


「そんな顔をするな。お前さんを救ってやろう。これはな、人に劇的な変化、進化をもたらす薬である!」


「・・・怖すぎるんですけど・・・」


「心配するな。これは少量を振りかけるだけなら、短時間だけ進化を体験できるようにしてあるのだ。だからいつまでもそのままということはない」


「・・・なるほど。で、どんな進化なんです?」


 老人の眼光がギラリと光る。


「人の望む願いは、古来より・・・」

 老人は人差し指を一本立てる。


「一つですか、何ですか?」


「違う、空だよ」

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