第12話 訃報

それからしばらくの間、私は家から出なかった。


シロにも、リクにも、ヤマトにも会うのをやめた。


シロからも、相変わらず連絡もなかったが、あのクラブの事を思い出すと、会う気にもならなかった。



連絡は、忘れた頃にやってきた。




—ヤマト—

スマホに久々に表示されるヤマトの名前。




「もしもし?」

会うつもりなどなかったが、つい電話に出てしまった。



「アイカか?久しぶり。聞いたか??」

いつになく深刻な声でヤマトは話す。




「聞いたって、何を??」









「シロが、死んだんだとよ。」










——…



言葉が出ない。





「……え?」



「山奥で発見されたらしい。シュウちゃんつながりで聞いた。見せられる状態じゃないとかで、葬式もしないんだとよ。あいつ、色んなとこから追われてたからな。」








こそこそといつも誰かと電話していたシロ


金を集めては店に献上していたシロ


財布を忘れたと私に払わせるシロ


—笑顔で笑うシロ


—馬鹿話をするシロ


—禿げた頭を見せてくれたシロ




あんなに楽しそうに笑ってたのに。

ろうそくの灯をふっと息で消すくらい、簡単に、命なんて一瞬で消えてしまうんだ。






—シロは、なんという名前だったんだろう。

私は、シロの名前すらも知らない—





不思議と涙は出なかった。

シロにとって私は一体、なんだったんだろう。



トモダチ

マブダチ

シンユウ



どれも薄っぺらい言葉に感じる。



シロは、誰かに助けを求めたんだろうか。

私にそれを求めていたんだろうか。




もはや、それさえもわからない。




ヤマトからの電話を切ったあと、私はしばらく放心した。





私は何かできたのかな

一緒にいれば、シロの心を、満たしてあげられたのかな

一緒に店を持てたのかな



何が本当だったのかな

何が嘘だったのかな




—モシ シロジャナクテ ヤマトヤユイノハナシノホウガ ウソダッタラ?—




考えれば考えるほど、真実から遠ざかっていく気がした。

答えの出ない問いを、私は自分にいつまでも投げかけ続ける。



いい人だったの?

悪い人だったの?




好きだったの?

嫌いだったの?




そうして私は闇の中に、深く、深く、沈んでいく。





気づいたら夜中の4時だった。

朦朧とした意識の中、私は時計の針の音だけを聞いていた。




頬を伝っていた涙もすでに乾いていた。

私はふとんから這い出て、蛇口をひねった。




コップ一杯の水を飲んで、そのままパシャパシャと水で顔を洗う。





—…和哉は、生きているんだろうか。






急に背筋が凍ったように寒くなり、スマホを手にとった。





—カズヤ—





私はまた、繋がらない電話をかけた。






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