第2話 恋人募集中

「ここ、2時間飲み放で3000円だから。」

シロはそう言うと、私達からお金を集めて、この前"シュウちゃん"と呼んでずいぶん親しげにしていた、この店の若い店長に渡した。


店内の騒音で私達に聞こえていないと思っているのか、シロは小声でシュウちゃんに言う。

「‥今日は3人連れてきたぜ、俺。3人で9000円!だから俺の分はチャラにしろよな。」


シュウちゃんは苦笑いしながら

「いつも使ってもらって、ありがとうございます!」と答えた。


なるほどね。

人脈を広げておくことで、自分はタダ酒を飲めるというシステムなわけ。よくやるわ。


ケチくさいシロに呆れたが、こちらは別の出会いを紹介してもらった立場なので、文句は言わない。


「アイカ、何歳?!彼氏いんの?!」

ヤマトがやたらと高いテンションで聞いてきた。

「24。カレシは募集中。」

「マジか!俺も彼女募集中!!あ、おれ27。」

「リクは?」

「俺も同じく。歳は28。」


「シロは、、、彼女はいないよね、何歳?」

私はシロに尋ねる。

「てめっ、何勝手に決めてんだよ。いるかもしんねーだろ!?」

シロは笑いながら私の頭をつかんでくる。

私も笑いながらそれに応じて答える。

「え、嘘、いんの!?」

「いねぇよ。俺30。」

「ほら、やっぱいないじゃん。てかシロ、意外と結構年上だったわ。30でこの見た目、性格とかちょっとビビるわ。落ち着きゼロ。」

「悪かったな!!」


「じゃあ、全員恋人募集中だな。がんばろーぜ!」

ヤマトが白い歯を見せ、ジョッキを差し出してきた。

「頑張ろ〜!!!乾杯!!」

カキン、と気持ちの良い音が鳴った。


「あ、でもアイカ、ヤマトだけはやめとけよ。」

シロは私に忠告した。

「なんで?」

「コイツほんと、女なら誰でもいいやつだから。」

ヤマトは屈託のない笑顔を見せながらこう言った。

「アハハ!俺、毎回残り物担当なんで!!」


「残り物‥‥」

私は笑顔を無理やりキープしたまま、ヤマトと同じようにアハハと笑ってやり過ごした。


(。。最っ低。。。)


不愉快な気分を打ち消そうとしたためか、私はいつもより飲み過ぎてしまった。

若干頭がクラクラする。

「おいアイカ、大丈夫か?水飲むか?」

シロが心配そうに私の顔を覗きこむ。

「うん、大丈夫。終電だし、そろそろ帰るわ。」

「おう、また誘うわ!」 


私はちどり足で店を出た。

シロ達はこのあと別のメンバーも合流して朝まで飲むらしいが、ここのところ飲み会続きの私には、そこまでの金銭的余裕はない。


「アイカ。」

誰かの声がする。

階段の手摺にぐでんともたれた体を起こし声のした方を見ると、リクがいた。

「お前さっき、二上駅っていってたよな。俺、2個先の朝霞駅だから、途中まで一緒にいかねー?」

「。、、。、うん。。、、」

半分眠りそうになりながら、私は答えた。




「‥‥アイカ、もう着くぞ。」



どうやらしばらく私は寝ていたらしい。リクに寄りかかった頭を起こして、立ち上がった。

「バイバイ、リク。ありがと〜。」


プシュン!!とドアの閉まる音がして、私は窓越しにリクと手を振り合った。

まだ飲むっていってたのに、送ってくれるとか、最低男のヤマトとは違って、地味だけどいいやつだな。リク。



駅を出ると、ぽわんと霞がかったような柔らかい夜空が広がっている。何だろう、これは。

あ、私が泥酔しているからか‥



楽しいから飲む、それもあるかもしれない。

でもそれよりも今は



何も考えたくないから

苦しくなりたくないから


誰かと一緒にいて

笑って

あわせていれば

週末が来るたびに孤独感と恐怖に怯えなくて済むから‥‥


‥‥


私は着替えもせずにベッドに転がり、そのまま眠りについた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る