Downer 〜 ダウナー 〜
タカナシ トーヤ
第1話 シロ
彼氏が音信不通になった。
少し前にも、しばらく連絡がつかなくて、やっときたと思ったら、1人で海にいるとか言ってきた。
俺なんか消えたほうがいいとかいい出して、急にアクセルを踏まれたこともあった。
もともともう終わりかけだったから、単に無視されてるだけかもしれない。
共通の知人もいないから、どうしているのかしる由もない。
和哉の仕事はシフト制で、夜勤もあるので、いつ何時なら連絡がつくのかもわからない。
私は週末の度に、回線が止まっていないことだけを祈りながら、和哉につながらない電話をかけている。
なんだかんだで、5年くらい一緒にいた。何回も、結婚しようっていわれた。
2ヶ月前にも言われたから、いい加減ハッパかけようと思って、親にも軽く話したのに、このざまだ。
今日も私はまた、つながらない電話をかける。
だんだんと動悸が高まってきたのを感じ、
最近強めのに変えてもらった安定剤を一気に飲み込んで横になった。
サイレントにしたスマホの画面が光って、結衣の名前が見えた。
〈アイカ、先週の川嶋さんから、また飲み会しようって。〉
最近、和哉のことを考えなくていい時間を作るために、休みの日は毎日飲んだくれている。
〈ok、何人?そっちで集めれる?〉
〈3人。うん、この前の飲み会で呼んだリカ呼ぶわ。〉
〈サンキュー!〉
飲み仲間の結衣とは、お互いに彼氏がいない時期だけ、毎週会う"シンユウ"だ。
この前、結衣がそう言ってきたから、私も結衣をシンユウだと思った。
しばらくして、金曜日に飲みに行った"シロ"から電話がきた。シロというあだ名らしいが、苗字も名前も知らない。
「アイカ、今から"ジョーカー"いくんだけど、お前もいかね?」
「いーよ。すぐ準備するわ。」
ジョーカーとは、シロと金曜日に飲んだ店の名前だ。シロはそこの常連のようで、毎日のようにジョーカーに入り浸っているらしい。
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ジョーカーにつくと、B系ファッションのぽっちゃりしたシロが、カウンターから私を見つけて手招きした。
「よーアイカ、早ぇーな。ノリいい。最高。」
「でしょ?暇すぎて、速攻きたわ。」
「ダチ2人くらい呼んでるから。アイカのタイプじゃねーかもしんねーけど。」
「マジ〜?助かる。シロ最高。」
私はシロと手を合わせてハイタッチした。
シロは、控えめに言っても"相当なぽっちゃり系"で、優に190は超えるであろう巨漢だ。さらにコテコテのB系ファッションに黒いサングラスと、周囲が避けて通るようななりをしている。
私のタイプではないが、人脈が広くて色々セッティングできるのが自慢らしいので、呼び出しに応じた。
シロのほうも、他の仲間を呼ぶくらいだし、私をタイプだとは思っていなそうだ。
「おー、ヤマトとリクがきたわ。」
爆音の音楽の向こうに、2人の男の姿があった。
「シロ!!誘ってくれてありがとなー!!!」
「お、ヤマト!久々だな。」
真っ白い歯が日焼けした肌に映える、元気そうな作業着の男が、シロの背中を強く叩いて私の横に座る。
「俺リク。よろしく。」
もう1人、スーツ姿の静かな男も、続けてヤマトの隣に座った。
「私アイカ。よろしく。」
私は2人の前にドリンクメニューを差し出した。
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