第4話 冒険者ギルド

 青年冒険者に連れられやって来たのは『妖精の癒し亭』という冒険者ギルドだった。


 大通り沿いの扉を開き、中に入ると石造りの床と木の椅子やテーブルが並ぶ酒場となっている。既に何人か客は入っているようで、店員と思わしき人たちが足繁く料理や酒を配膳している。

 しかしここが冒険者ギルドであることは間違いないようで、壁には依頼が張り出されたボードが掛けられている。


「うちのギルドは酒場と宿が併設されていて、ギルドに加入している人なら食事代も宿代も格安で提供してくれるから」

「そうか。ありがとう」


 礼を言うと青年冒険者はそのまま外へと出ていく。


 冒険をするためか、冒険の準備のためか、はたまた休養を取るためか定かではない。何より、私には関係のないことだ。


「あの、冒険者志望の方ですか?」

「ん、ああ」


 年若いエルフの女に声を掛けられ反応を返す。

 女はにっこりと端正な顔に柔らかい笑みを浮かべると、


「私はこのギルドの職員のセレイナです。手続きをしますのでどうぞこちらに」

「ああ」


 セレイナに連れられカウンターまで行くとセレイナは書類を取り出す。


「えっと、文字の読み書きはできますか?」

「できる」


 文字の読み書きが出来なければ魔法に関連した書籍を読むことができない。出来ないと不便だから学んだ。


「それでしたら、登録用紙を書いて下さい」


 セレイナから差し出された用紙を受け取り、内容を読み込む。


(ふむ……性別、種族、技能、職業は勿論として髪色、瞳の色、身長、体格まで書くのか。……死んだ後のことも考えて、ということか)


 壁にかけられた依頼が張り出されたボードには行方不明になった冒険者の捜索依頼が張り出されている。

 死んだ冒険者を探す際に身体的な特徴が無ければ見つけても一致させることができない。


(性別は女。種族はエルフ。技能は火の属性魔法に棒術と弓術。職業は魔法師と狩人。髪色は黒。瞳の色は赤。身長は188セルチ。体格は痩せ型……と)


 登録用紙に自分の情報を記載するとセレイナに手渡す。セレイナはカウンター裏で別の用紙に書き込むと、ドックタグを差し出してくる。


「これはギルドプレートといって、冒険者ギルドに所属していることの証です。無くさないよう、お願いします」

「わかった」


 手にしたギルドプレートを見つめ、首に掛ける。


「宿を取りたいが、空いているか」

「はい。個室ではありませんが、それでもよろしければご案内できます」

「それで構わない。幾らだ」

「1週間で100ガメルですね。食事は別途かかりますが、この酒場での飲食でしたら割引がつきます」

「わかった」


 小袋から100ガメルを取りだしカウンターに置く。


「ありがとうございます。相部屋は階段を登って二階、右手奥の部屋です」

「わかった」


 必要なことを終えるとカウンターから離れ、階段を登る。二階に登り、右手奥の部屋に向かい扉に手を掛ける。


(……開いているな)


 扉を引き、中へと入る。

 中は二人用の机と椅子、そしてベッドから置かれているだけの質素なもので相部屋ということもあって先住者の荷物が置かれている。


(とうの本人はいないな。まぁ、冒険者という仕事上帰らないことも珍しくないと考えると妥当と言えるか)


 リュックを置き、杖を壁に立て掛け、ローブを脱ぐとベッドに寝転がる。体が重く、動かすのが非常に億劫だった。

 ゴブリンとの戦いと半日かけての移動。この二つの体力消費は自分で感じていた以上に体に負担をかけていたようで、横になっただけで疲れがドッと出てきた。


「食事は……まぁ一眠りしたら取るとしよう。流石に疲れが溜まっているか」


 木の天井を見上げると胎児のように体を縮こませる。固い布団ではあるが、地面に寝るよりかは遥かにマシだ。


(……そういえば、体を洗っていなかったな)


 体を起こし、ローブを身につけ部屋から出る。

 この一週間、流石に体を洗っている時間も余裕も無かったため仕方ないことではあるが、やはり体に染み込んだ汗と血の匂いは多少なりとも気になる。


 階段を降り、受付に尋ねる。受付曰く、地下に蒸し風呂があるらしく、女性用のものがあるとのことらしい。


 部屋に戻り、タオルを回収し蒸し風呂に向かう。

 脱衣所で下着類含め服を脱ぐと引き戸を開け蒸し風呂へと入る。ムワリとした湿った空気と明るい暖色系の色合いの部屋で、その片隅に座る。


「ん……?誰か入ってる」


 暫く一人で蒸し風呂を堪能していると引き戸が開き、年若い女性が入ってくる。


 青い髪に碧い瞳。童顔でありながらその乳房は大きく、ハリがある。まな板同然の私と比べて女性的な魅力に溢れている。

 何より特徴的なのは頭に突き出た猫の耳と揺れる尻尾であり、彼女が獣人であることを示している。


「新入りだ」

「へぇ……アタシもそうなの。昨日入ったばっかりなの」


 私の隣に座った猫獣人は柔らかい笑みを浮かべる。その顔立ちから親しみやすさを感じ、鍛えられてはいるようで、戦士特有の気配がする。


「アタシの名前はシェイク。姓は無いけどよろしくね。貴女の名前は?」

「クレア・ティアードロップ。ついさっき冒険者になったばかりのエルフだ」

「そうなんだ」


 シェイクはチャシ猫のようなはにかんだ笑みを浮かべ、それにつられ笑みを浮かべるのだった。





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