デウス・エクス・マキナ

「感謝している」

「私の選択には口を出さないと言ったはずだろ?」

「嬉しく思え、機械様が約束を無視したんだぞ」


 結論として、私は『オマエの記憶端子』を差し込んだ。

 オマエが目を覚ましたあと、キミがいろいろと説明してくれた。 そして私がオマエを起こした礼にと、ここまで来た経緯を教えてくれた。

 どうやら博士は電気に誤ってエネルギーを流してしまい大きな爆発を起こした。オマエはキミよりも感情が豊かなため、博士が死んだことを受け入れることができなかった。そして過度なストレスにより自らを人間だと思い込み、ネジを抱え込むとそのままがむしゃらに走った。その時に記憶端子がオマエからマキに切り替わったらしい。思えば初め会った時、彼女はねじを差し込むことに対して涙を流していた。


「これからどうするんだ?」

「とりあえず研究所で暮らすことにする。たまには彩芽の家にでも訪問するさ」

「別に来てもらわなくてもいい」

「信用するようになったら、私に名前を付けるチャンスを与えてやってもいい」

「面倒なことを言うようだな、私がマキに名前を付けた時の話をしてやってもいい」

「お前と話すと会話が長引く」

「機械は話を続けようと必死なのだろう?」

「私を人工知能と間違えてないだろうな」

「同じようなものだろう?」


 私はそう言うと笑ってやった。キミもつられて笑い出す。

 二人は準備を進めると玄関まで向かおうとする、私はそんな二人の足を止めた。


「まぁそう急ぐな、私はオマエが心配だ。最後にねじを回してやる、こっちに来い」


 そう言うと私はオマエの手を引いて私の前へと立たせた。

 思えばマキとの生活は長かった。半年だろうか、私は私の人生で一番の幸せを感じていた。

 この幸せが一生続けばいいと感じていた。しかし後悔だけはしたくなかったのだ。

 もしもマキが目を覚ましたならば、私は満足した。しかし、それと同時にマキも私も長い心の痛みを背負うことになっただろう。

 この選択を悔いてはいけない。

 それはマキの為にも、そしてオマエのためにも。


「背中を見せろ」


 そう言うと彼女は服をまくし立てた。不意に香るリンゴの匂い、キミが部屋を覗いたのだろ。

 私はリンゴの花言葉を思い出す。確か「選択」「好み」「優先」だったか。

 この幸せを一生感じていたかった。

 これで終わりにしよう。



 私はオマエの記憶端子を抜いた。

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