終焉のためのハッピーエンド

月狐-つきのきつね-

第1話 

 いつからだっけ。

 君がここに来なくなったのは。

 

 いつからだっけ。

 君がここに来るようになったのは。


 前者は数ヶ月前から。

 後者は……、いつだったかな。……そうだ、君が幼稚園に通っていた時だ。

 

 そう、始まりは君がまだ子供の頃だよ。

 君はここに来て、いつも自由に遊んでいたんだ。

 君はここでなら何だって出来た。

 好きな服を着られるし、美味しいご飯だって食べられる。プリンセスにもなれるし、伝説の勇者にだってなれた。空だって飛べるし、水の中を自由にも泳げた。


 ここに居ない時、君はいつもつらい想いをしていたね。

 そうそう。幼稚園の頃はお母さんがいつも家に居なくて、寂しい想いをして。小学校に入ってからは、好きな絵を描くことを馬鹿にされたり、揶揄われたり。高学年の頃には好きな男の子に嫌われて。

 ここに居る時は、いつも優しくお母さんがお話ししてくれて、好きな絵を描けて、それを認めてくれる人がいて、褒められて。好きな男の子は君を大好きで。


 どうして来なくなったのかな。

 そうだ、ここに居ない君に、暖かい毎日が始まったんだよね。

 高校を出て、働き始めた君には大好きな人ができた。その人は君に思いやりを持って接してくれて、同じ景色を見て、同じ食事を楽しみ、同じ未来を想像してくれた。

 そうして、君はここではない場所で何かを実現しようと頑張り始めた。

 こことは違って思い通りになることは少ないのに。

 思い通りにならないそこでは、何かを実現するのは苦痛を伴うのに、君はそれでもここではなく、そこを選んだ。


 でもね、きっとそれだけが本当に君を幸せにしてくれる選択なんだろうね。ここでは何でも出来るかわりに、何も手には入らないのだから。


 君の来なくなったこの場所は、もうすぐ終わりを迎える。ここを終わらせるために君は幸せになるんだ。


 もう、ここに来なくていい君でいてね。

 そう願っているよ。

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