最終話 これからの行先

 隊商がクレントの町を発つということでオレ達も旅立ちの準備を始めた。

 ここから次の町まで約一週間、そこから王都まで約五日の距離だからかなりの長旅になる。

 まずは次の町までの食料や回復アイテムなんかの補充を済ませることにした。

 護衛とはいえ、自分の面倒は自分で見るのが暗黙の了解だ。


 嬉しいことに隊商の商人達はオレ達の仕事ぶりを王都の冒険者ギルドに報告してくれるらしい。

 神精樹の魔物化の件についても話してくれると言ったけどこれは断った。

 それが広まるとクレントの町にとって不都合だと思ったからだ。


 いずれバレるとは言っても積極的に言いふらすのは気が引ける。

 それに噂がこじれてこの町が化け物の木を崇めていたなんて広まる可能性もあった。

 だからオレ達はあくまで黙っていることにする。オレ達は。

 人の口には戸が立てられないとは言ったもので、他の人達に関しては知らない。

 出発前夜、オレ達はこの町の宿で最後の夕食をとっていた。


「残念だなー。あの神精樹は少なく見積もっても三級の上くらいの強さはあったと思うよ」

「そもそも神精樹が化け物化したのでオレ達が倒しましたなんて言ったところで信用されないだろう」

「でもシンマ達が早く三級の昇級試験を受けられるようになってほしいじゃん」

「それはぼちぼち実績を積み重ねればいいだけだ」


 実績だけならこの護衛だけでも十分だ。

 それにいくら昇級を急いだところで実力が伴ってなければ意味がない。

 オレは冒険者として成り上がるよりも自分の成長とこの世界を楽しむ。


 そういう意味ではこのクレントの町が変わってくれるなら、オレが訪れた意味もあったんだと思う。

 今回の騒動で町長は町の守りの強化に力を入れるそうだ。

 目先の名物よりもまずは町の発展に尽力してくれた町の人達の安全を守るためだと言っていた。


 ヒーローを気取るつもりはないけど少しはこの町を守った甲斐があったんじゃないかな。

 これからはもう何かにつけて神精樹様のおかげだなんて言わないだろう。


「ねぇねぇ、シンマ達はこれからどうするの?」

「王都に行って情報収集も兼ねて観光でもする予定だ。あっちの冒険者ギルドも気になるしな」

「そっか。シンマ達は王都は初めてだもんね。そうだ、リコちゃんって魔道士登録は済んでいるんだっけ?」

「魔道士登録?」

「魔道士協会というのがあってね。そこでの魔道士認定試験に合格すれば、協会公認の魔道士になって信用度がグッと上がるよ」


 魔道士協会は魔道士達の地位を確立するために世界各地で活動している巨大組織らしい。

 貴族相手にも身分を保証できるほどの効力があり、何かトラブルがあった際には大きな助けになる場合がある。


 こっちも冒険者の等級と同じくそれぞれ五級から一級まで存在する。

 信用も段違いで、等級に応じて優先的に魔道士向けの依頼を回してくれるという至れり尽くせりだ。

 冒険者の等級以上に重要なもので、貴族達も魔道士協会公認の魔道士がいる冒険者に依頼を回すことが多い。


「つまり立派な身分証明になるってわけだな」

「そうそう、私も登録しようとしたんだけど魔力審査で落ちちゃってね。一定の魔力がないとダメみたい」

「そうか。体術使いも大変なんだな」


 こいつ、ガチで認定されると思ったのか?

 どうやらオレが思っている以上に重症かもしれない。


「リコはどうだ?」

(魔道士……)


 リコが興味を示しているな。

 オレから見てもリコは十分素質があると思うし、ただの冒険者のままいさせておくのはもったいないと思う。

 リコは今のところオレについてきているだけで自分から何かをしたいと表明したことはない。 


 オレとしてもリコに自立心があれば応援してあげたい。 

 魔道士認定は一人の人間として自立するにはいいきっかけかもしれないな。

 だけど今一つ実感がわかないのか、リコは煮え切らない様子だ。


(シンマは……どう?)

「オレは似合ってると思うぞ」

(じゃあ、やる)

「えっ? いや、もっとじっくり考えていいんだぞ?」

(やる)


 ここでリコが即決してしまった。

 正直に言ってそれでいいのかと思わなくもない。

 ただ右も左もわからないリコにすべて自分で考えて決めろというのは少々ハードルが高いように思える。

 だからある程度の指標を与えるのは間違っていないはずだ。


「ところでリコちゃんとはどうやって意思疎通をとっているの?」

「あ、いや、その……」

「やっぱりお似合いじゃん」

「なんでそうなるんだよ」

「だって通じ合っているってことでしょ。なかなかできることじゃないよ」


 そういう方向にもっていきたがるのは何とかならんのか。

 でもこれに関してはオレが悪いな。

 喋らないリコ相手にオレ一人でベラベラ喋っているんだから普通はもっと怪しまれる。


 肉体魔法娘だから深く考えていないんだろう。

 脳筋とまでは言わないけど、こういうタイプはストレスを抱え込みにくいだろうから羨ましい。


「人のことばっかりでレイリン、お前はこれからどうするんだよ」

「私はファオチェイ師匠の言いつけ通り、守るべきものを見つけるよ。当面の目標は宝物でも見つければいいのかな?」

「なんでそうなる?」

「だって一つでも守りたくなるくらい大切なものが必要でしょ」


 オレは突っ込もうか非常に悩んだ。

 だけど他人の師匠の言いつけをオレが勝手に解釈していいものだろうか?

 この調子だと一生かかっても修行が終わらないんじゃないか?


「そうか。それを教えたファオチェイ師匠は偉大なんだな。でもな、オレの意見だぞ。あくまでオレの意見なんだけどきっと師匠は『本当に大切なものを見つけろ』って意味で言ったんじゃないか?」

「どういうこと?」

「例えば恋人とかそういうのだよ」

「んー、そういうものかな? 恋人かぁ……恋人……」


 ん? なんか一瞬オレを見なかったか?

 気のせいだよな?


「ま、ボチボチがんばるよ」

「王都に着いたらどうするんだ?」

「王都に着いたらそこから西の魔道王国ベルファントに行くよ。ここは魔力に長けたエルフが治める国でさ、私にピッタリだと思うんだよね」

「そ、そうだな。じゃあ王都に着いたらお別れだな」


 そこで自慢の体術を活かして頑張ってくれ。

 うまくいくかはわからないけど応援してる。


「王都までの旅だけどそれまではよろしくな」

「うん……」

「どうした?」


 レイリンがなんか言いたそうだな。

 思ったことをハッキリ言う奴にしては珍しい。


「勝ち目ないかな……」

「なんだって?」

「なんでもない。じゃあそろそろ寝るね、おやすみ」

「あぁ、おやすみ」


 意味がわからんことを言ってレイリンは部屋に戻っていった。

 よくわからんがあいつの実力なら何も心配することはないと思うんだが。

 考えても仕方がないのでオレ達も明日に備えて寝ることにした。


 明日からはいよいよ王都へ向けて出発だ。

 これからもオレのスキルは進化し続けるだろう。


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王国を裏から支配する悪役貴族の末っ子に転生しました~「あいつは兄弟の中で最弱」の中ボスだけどゲーム知識で闇魔法を極めて最強を目指す。ところで姫、お前は主人公のはずだがなぜこっちを見る?~


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異世界でのんびり進化して旅をする ラチム @ratiumu

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