第39話 精霊の森の異変 5

名前:神精樹

HP :???

MP :???

力   :90

器用さ :104

体力 :189

素早さ :84

魔力 :???

スキル:【巻き付き】【枝の鞭】【花粉】【吸収】【再生】


 予想はしていたけどかなりの高ステータスだ。

 不意打ちとはいえ、オレがもろに【枝の鞭】をくらってしまったのはこの高い器用さによるものだ。

 この【枝の鞭】は視覚外から飛んでくるから奇襲性が高い。


 何せこれだけの巨木からしたら、オレ達の動きなんか余裕で俯瞰できるだろう。

 トレントやウッドゴーレムをさばきつつ、ようやく神精樹に一撃を浴びせられる距離まで詰められた。

 根にマシンガンストレートを浴びせて千切れさせて、レイリンが蓮蹴りを叩き込む。


 そこから追撃を入れたいところだけど、トレントやウッドゴーレムも無視できない。

 背後から迫ったトレントに回し蹴りを入れて幹をへこませた。

 が、ウッドゴーレムがトレントの背後からのっそりと現れて――


「ぐぁッ! チキショウ!」


 ウッドゴーレムの【ハードヒット】を受けて頭がぐらついた。

 すぐにリコが氷柱で仕留めてくれたけど、そうこうしているうちにトレントがヒールで回復している。

 ふと見ると神精樹の枝が綺麗に元通りになっていて、オレはため息をつきそうになった。


「再生速度が尋常じゃないな」

「しかも魔法と違ってこいつにMP切れはないよ……え……」


 オレ達の足場がやや隆起した。


「この場を離れろッ!」


 オレ達が離れると同時に鍾乳石のような鋭利な岩がいくつも地面から突き出る。

 一歩遅かったら串刺しになっていたかと思うと、冷や汗が止まらない。


(魔法……)

「あの神精樹か!」


 トレントが魔法を使うんだからこいつが使っても不思議じゃない。

 トレントやウッドゴーレムを巻き込む範囲攻撃のはずだけど、さほどダメージを受けている様子はないな。

 おそらく属性耐性か何かがあるんだろう。


「神精樹様よ! なんだって急に癇癪を起こしたんだよ!」

(毎年、あのような酒ばかりでは足らん! 神に対する敬いがまったく足りぬ!)

「要するに酒に飽きたってことかよ。町長達、こいつを甘やかしすぎたな」

(我は神だ! 人の子よ! 平伏せよ!)


 神精樹が枝を腕のように天に掲げて何かが放たれた。

 霧状のそれは【花粉】だ。オレは何ともなかったものの、レイリンとリコが影響を受けている。


「リコ! レイリン!」

「毒と病気だねぇ……回復するから、ちょっとだけ持ちこたえて! ふぁっくしょいやぁ! チクショウ!」

「くちゅん!」


 二人が個性あるくしゃみをしている。花粉だからそういう効果もあるのか。

 オレは【弱毒耐性】と【弱病気耐性】のおかげでなんとかしのげているみたいだ。

 一応、回復アイテムは持ってきたけど使っている間にも敵は容赦ない。

 それにこっちの回復アイテムには限りがあるけどあいつの【花粉】に使用回数制限はないだろう。

 ウッドゴーレムに拳を放ってようやく撃破したものの、すぐに追加がくるから困ったものだ。


「待たせたね! ガンガンやっちゃうよ!」

「少し敵がはけてきたな! 神精樹に二人で攻撃するぞ!」


 そう意気込んだものの、【枝の鞭】に強襲されてしまうが何とか耐えた。

 この【枝の鞭】、命中精度が高すぎて今のオレじゃあまり回避できない。

 レイリンのほうも同じみたいで、すでに体中が傷だらけだ。


「はぁぁぁーーーーッ!」

「足魔法! 連蹴りッ!」


 神精樹に連続して攻撃を浴びせるけど再生されてしまう。

 隙ができてしまうけどリコのコオリツナミがトレント達を一掃してくれて助かった。

 それでも数は少なくなったものの、まだトレントとウッドゴーレム達は健在だ。


「リコちゃんの殲滅力にだいぶ助けられてるね……。とても四級とは思えないよ」

「まったくだよ。リコ、助かった」

(うん、うん……)


 リコが力強く頷いている。頼られるのが嬉しいんだろうな。

 オレ達は再び神精樹を攻撃するも、すぐに再生されてその度に徒労感を味わう。

 試しに剣を抜いて多段斬りを浴びせてみたけど結果は同じだ。

 拳よりも手応えを感じなかったから、こいつ斬撃に対して耐性を持ってやがるな。


(人の子ごときが生み出した刃など、とうに効かぬわ! 森の木を斬り倒していい気になっていた愚かな人の子よ!)

「あー、そうか。木を斬り倒したせいでその辺もカバーされてるんだな」


 自分でも何を言ってるかわからないな。

 でも、こいつが人の念で強くなったならそういうことなだろう。

 刃物に対する恐怖や損壊を克服してやがるってことか。


 槍のほうを試してみたけど、剣よりはマシってだけで拳ほどの手応えはない。

 幹に空いた槍による穴がすぐに埋まってしまう。これ、詰んでね?

 いや、待て。よく見ると槍の穴や拳による打撃の跡がうっすらと見える。


 こいつの再生は完全回復じゃない?

 少しずつだけどオレ達の攻撃が再生による回復を上回っている可能性がある。


「レイリン! リコ! こいつを倒すには一気に大ダメージを与えるしかない! 再生も完全じゃないぞ!」

「よーし! リコちゃん、やっちゃおう!」

(コオリツナミ!)


 リコのコオリツナミと同時にオレ達は攻撃を仕掛けた。

 神精樹の太い幹が氷で覆われて、そこへ打撃技が連続で叩きこまれる。

 神精樹がバキバキと音を立てて再生、そこには跡がしっかり残っていた。


(おのれぇぇ! 人の子ォォーーーーー!)

「しっかり効いているようで何よりだよ!」


 それからコオリツナミの氷が崩れ始めて活動を再開されてしまう。

 氷に関しては耐性がありそうだな。

 考えてみたら冬で木が枯れるなんて聞いたことがない。

 だけどノーダメージってわけじゃないだろう。


「リコ! レイリン! 続けて……リコ?」

(MPが……)


 ここにきてリコがガス欠、つまりMP切れだ。

 今までなかった事態にオレはうろたえた。

 リコの高いMPに頼りっきりだったけど、MP切れを起こすほど今日は魔法を連発しすぎた。

 特にコオリツナミはMPを大量に使うんだろう。

 そこに気を使えなかったのはオレの落ち度だ。


(つ、氷柱なら……)

「いや、いい。無理をするな」


 まだ他の敵も残っている上に無理をさせればリコの身がどうなるかわからない。

 その証拠に息を切らして苦しそうにしているからな。

 MP切れが魔道士にとって命に関わる事態だとしたら、これ以上リコに戦わせるわけにはいかない。


「レイリン、オレ達だけであの化け物の木を倒そう」

「うん。あと少し……あと少しなんだけどね。やっぱり決定打がないとジリ貧だよ」


 オレ達の残りHPもそう多くない。

 残っているトレントやウッドゴーレムのことを考えたら、どっちが力尽きるのかは明白だ。

 ここは無理をしてでも撤退するか?

 いや、次にこいつをここまで追いつめられるとは限らない。

 完全回復された上にもっと魔物を増やされたら、もう手も足も出なくなる。


「あと少し……あと一押しがあれば……」

(シンマ……あれを、あれをやる……)

「リコ、あれって……」


 リコがオレのアイアンナックルに手の平を向けた。

 氷の粒がアイアンナックルにくっついて、一回り以上大きいナックルが精製される。

 これは森でルインゴーレムと戦った時にやってもらったやつだ。

 ただしこの氷のナックル、かなり重くて今のオレの力じゃそう何度も攻撃できない。


「リコ、ありがとう。こいつをぶち当てて止めを刺してやるよ。後は……」

「おーーい! 無事かぁ!」


 走ってきたのはアッシュとトラムだ。

 よかった。また駆け付けてくれたのか。


「大した力にはなれないけど加勢するぜ!」

「うわっ! なんだあの化け物!?」


 二人が加勢してくれるなら心強い。

 大した力になれないなんて言わないでほしい。

 おかげでこの巨大ナックルをぶち当てられる確率が上がったんだからな。

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