第37話 精霊の森の異変 3

 森を進むとあれから二回ほどトレントに襲われた。

 このトレント、木の大きさによって強さが変わるから面倒だ。

 他の魔物も当然そうなんだけど、このトレントに関しては巨木が魔物化されたらステータスが倍くらい違う。

 

 それに持っているスキルも変化する。

 【木の葉乱舞】だの【花粉】だの、面倒すぎる。

 オレは前世で花粉症で悩まされたことがないからと安心していたら、色々な効果があるみたいだ。

 涙が止まらなくなったり体調がおかしくなったり、いわゆる状態異常のオンパレードだった。


≪【弱暗闇耐性】を習得しました≫

≪【弱病気耐性】を習得しました≫


 病気耐性ってなんだよと突っ込みたいところだが、暗闇と同じく状態異常なんだろう。

 病気状態になるとあらゆるステータスが低下する上に回復アイテムの効果を受け付けなくなる。

 身動きがとれなくなるよりはマシだが、治療手段がなかったらと思うと絶望していたな。


 今回は幸いレイリンが持っていたおかげで事なきを得た。

 レイリンやアッシュ、トラムはさすが冒険者歴が長いだけあって備えに関する知識がある。

 先輩に敬意を表したくなる瞬間だ。


「ぴぃーーー!」

「マルル、何かあるのか?」

「ぴぃ!」

 

 マルルーが向かった先にあったのは山小屋だ。

 あの中に町の人がいてほしい。損傷はないから攻撃はされてないみたいだ。

 あそこをトレントが襲わないのは魔物の習性によるものかもしれない。

 どうもあいつら、積極的にオレ達を殺そうとしているようには見えないんだよな。


 侵入者に対しては襲いかかるけど、わざわざしつこく追ってこない。

 逃げてきたおじさんが怪我だけで済んだのも、そのおかげだと思っている。

 この分だと町のほうはまだ安全か?


 山小屋の中に入ると二人いた。

 オレ達がドアを開けると悲鳴を上げたけど、人間だとわかって安心している。


「た、た、助けがきたのか!?」

「あぁ、早く町に逃げましょう」

「一体何がどうなっているんだ! 神精樹様がお怒りになられたのか!」

「それはわかりません。あれ? ところで森に入った労働者はあと一人いると聞きましたけど?」

「わからない……俺達は自分が逃げるので精一杯で……」


 この人達を責めるつもりはないし、そんなことをする意味もない。

 二人を連れて山小屋から出ると、ぎこちない動きでこっちに来る何かがいる。

 トレントとは違って木がそのまま人間の形になった魔物だ。


「ひ、ひいぃぃ! あいつ、あいつだ!」

「あいつから逃げてきたんだ!」


名前:ウッドゴーレム

HP :345

MP :60

力 :84

きようさ:32

体力 :157

素早さ :46

魔力 :43

スキル:【パンチ】【ハードヒット】【スタンヒット】


 こりゃ面倒な奴が出てきたな。

 ゴリゴリの物理アタッカーな上に【スタンヒット】はおそらくスタン効果があるんだろう。

 これまでと違って今回は二人を守らなきゃいけない。

 そうなると今のままじゃ少しリスクがあるな。


「アッシュ! トラム! この二人を連れて町まで逃げてくれ!」

「なんだって!? お前らだけでやるってのか?」

「全員でこいつを倒して村に戻ってからまた最後の一人を探すのは時間のロスだ! それに町までそう遠くないし、ここの魔物は外まで追ってこない!」

「た、確かに……」


 最初のおじさんが逃げてこられたんだから、逃げること自体はそう難しくないだろう。

 アッシュとトラムはすぐ納得してくれたのか、二人を連れて走り出した。

 ごねられたらどうしようかと思ったけど、あの二人だって大人だ。

 戦力ダウンは痛いけど人命優先ならこっちのほうがいい。


「ウゴゴゴォ……!」

「こっちのゴーレムは煽り機能を搭載してないんだな」

「煽り機能?」

「なに、こっちの話だ。レイリン、リコ。やるぞ」


 ウッドゴーレムが先制でオレ達に拳を打ち込んできた。

 素早さや器用さの低さのおかげでかわすのは簡単だ。

 動きも単調だし、オレは冷静に拳を叩き込んだ。


 オレの新しく覚えた格闘スキルであるマシンガンストレートは連続で衝撃を与える。

 ベキベキと音を立ててウッドゴーレムの体が損壊するけど、こいつも例にもれずヒール持ちだった。

 だけどこのままならトレントとさほど変わらない。

 そう思った直後、ウッドゴーレムの周囲に岩が浮かぶ。


「ゲッ! なんだあれ!」

「地属性魔法のストーンバレットだよ! 拳魔法と似たようなやつ!」


 岩の弾丸がオレ達に真っ直ぐ放たれた。

 意外と早くて回避できるか自信がなかったけど、リコが前に出る。

 ストーンバレットはリコの【魔法障壁】に衝突した後、蒸発するようにそのまま消えてしまった。


「リ、リコ。すごいな……」

(よゆー)


 リコが無表情のまま親指を立てた。

 これはもしかしてレイリンの真似か? まさか対抗しているのか?

 その証拠にリコがちらりとレイリンに視線を向けたのを見逃さなかった。


「やーー! リコちゃん、すごいねぇ!」

(む……)

「この調子であのでくの坊をぶちのめそー!」

(むむむ)


 リコはレイリンが悔しがるどころか褒めてきたから調子を崩した。

 ちょっと面白くなさそうに頬を膨らませている。

 一方でウッドゴーレムのほうは自分の魔法が無効化されたことに驚いているように見えた。


「ウゴゴ……」

「こいつ、一丁前に感情があるのか?」

「私でも驚くよ。あいつの魔法を打ち消したってことは完全にリコちゃんの魔力が上回っているってことだからね」


 【魔法障壁】は相手との魔力差によって効果が変わるのか。

 リコの魔力は【200】を超えているから余裕だろうな。

 オレも負けていられない。あのでくの坊野郎相手にいいところを見せてやる。


 ウッドゴーレムがオレに向けて【スタンヒット】を繰り出す。

 身を引いてかわした後でレイリンが走る。

 ウッドゴーレムに連続蹴りならぬ連蹴りを浴びせて、リコの氷柱が直撃。


「もらったッ!」


 オレが止めとばかりに向かった直後、ウッドゴーレムがオレにまた【スタンヒット】をくらわせてきた。

 ぐらりと視界が揺れて足元がおぼつかない。


「クッソ……こいつ、ノーモーションでかましてきやがった……」

「生物と違って痛みで怯まないからね、油断しちゃダメだよ」


≪【弱スタン耐性】を習得しました≫


 レイリンの言う通りだ。無茶はいけないな。

 でもおかげで怪我の功名というか、いいものを貰えた。

 ダメージはあるものの、オレはまだ戦えるみたいだな。


 オレがスタンでふらついている間にリコが氷柱を叩き込んでくれたおかげで助かった。

 ウッドゴーレムに氷柱が刺さりまくってもはや虫の息みたいだ。

 倒壊寸前みたいなウッドゴーレムにオレ達は二人で拳を放つ。


「マシンガンストレートッ!」

「足魔法! プロズムキック!」


 オレ達の攻撃が重なった衝撃でウッドゴーレムはついに体を崩壊させた。

 木片がパラパラと散って元の木に戻ったみたいだ。

 それにしても何だ、足魔法プロズムキックって。


「なかなかの相手だったね。シンマ、大丈夫?」

「あぁ、痛かったが日頃鍛えていたおかげでなんとか……」

「シンマは強さの割に経験がおいついてなさそうでチグハグなんだよねぇ」

「そ、そうかな」


 そりゃ冒険者デビューしたのがついこの前だからな。

 それだけスキル進化の強さが発揮されているということだ。

 しかし痛いな、ジンジンする。

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