第34話 鉄器作成

 クレントの町に滞在して四日が経った。

 神精樹信仰以外はのどかで平和な町だし、町人達がよくしてくれるからありがたい。

 野菜なんかを恵んでくれるから宿の厨房を借りて料理することもできた。


 お礼に畑仕事を手伝ったり狩りで獲物を獲ってきてあげると喜ばれる。

 リコはかわいがってもらっているみたいで、年配の方々に色々もらっていた。

 孫娘みたいでかわいいのかもしれない。

 貰った砂糖菓子をリスみたいに頬張っているリコを見ていると、太らないのか心配になる。


(おいふぃい)

「リコ、そんなに食べて大丈夫か?」

(魔法はお腹が空く)

「カロリー消費するのかなぁ」


 オレも甘いものは嫌いじゃないけどリコはこれに限らずよく食べる。

 野営の時なんかマルルーと一緒にガツガツ食べているし、すごいもんだよ。

 もし魔法がダイエットに貢献できているなら世の中の女子は皆、魔道士を目指すだろうな。


「私も魔法のおかげでさっぱり太らないよ!」

「そ、そうか」


 村人からもらった干し芋を食べながらレイリンがあっけらかんとしている。

 レイリンは運動によるエネルギー消費だろう。

 オレは【食事】と【睡眠】のおかげで滅多なことがない限りは現状維持できている。

 そう考えるとこいつらはすごいのかもしれない。


「さて、今日も【鉄器作成】をしますか」


 訓練がない日は【鉄器作成】を使い込むことにしている。

 鉄で作ったのはアイアンアクス+4とアイアンナックル+4だ。

 剣、槍、斧、拳と一通りの武器を揃えておけば戦いの幅が広がる。


 レイリンによればオレの武器は店で売っている鉄製の武器でもなかなか見ないほどのクオリティらしい。

 新品でもモノによっては刃が曲がっていたり、作りが雑ですぐに壊れるものが多いと言う。

 あまりに褒めちぎるものだから、オレはレイリンにもう一つアイアンナックル+4を作ってプレゼントした。


「わぁーお! 気が利くねぇ! ありがと!」

「世話になってるからな。プレゼントだ」

(プレゼント……プレゼント……)


 なんかジットリとした視線を感じるが気のせいかな?

 仕方ないのでリコにも同じものを作ってやった。

 魔道士にアイアンナックルとかいらんだろってすこぶる思うけど。


 【武器作成】のスキル進化を期待して、オレは村人から古くなった農具を預かって打ち直した。

 素材の鉄は割と色々な魔物がドロップするから使いどころがあって助かる。

 農具が新品同様になったおかげで畑仕事が捗ると喜んでくれた。


「いやぁ! ありがたい! これ、少ないけど代金だ!」

「どうも、他にも何かあったら言ってくださいね」

「君達みたいな優秀な冒険者が来てくれてありがたい! これも神精樹の思し召しだなぁ!」

「……そうかもしれませんね」


 こうやって隙あらば神精樹アゲがなければ、もっといい町なんだがな。

 オレはオレの力を使っただけで神精樹とは関係ない。

 突っ込んでも絶対にトラブルになるから黙っているけど。

 そんな日々の中、空地で頑張っているとついにその時がやってくる。


≪【鉄器作成】から【武器作成】にスキル進化しました≫


「よしきたこれ!」

「何が?」

「うおっ! いたのかよ!」

「そりゃいるよ」


 こいつ、気配を消すスキルでもあるのか?

 いつの間にかレイリンが覗き込んでいた。


「いや、うまくいったなと思ってな」

「ふーん。シンマって器用だよねぇ。そんなにたくさんのスキルを持っている人なんて初めてみたよ」

「そうか?」

「普通はせいぜい数個程度だよ。剣や槍を同時にうまく扱える人なんてあんまりいないかなぁ。で、今は素手を鍛えている、と」

「どれも付け焼刃さ」


 訳の分からんことを言ってごまかしたけど、やっぱりオレのスペックは異常らしい。

 レイリンがこんな奴だからふーんで済んでいるけど、本当ならもっと勘ぐられて然るべきだ。

 レイリンが認知しているのはおそらく【剣(ソードマン)】【槍(ランサー)】【武器作成】だけど、実際には更に盛りだくさんだからな。


 確かにザイガンさんは強かったけどせいぜい剣と盾ともう一つ、根性くらいだ。

 そういえば根性ってどんなスキルなんだろうな。


「私に【鑑定】スキルがあったら覗いてみるかもねー」

「そんなのがあるのか?」

「相手のステータスやスキルを詳細に閲覧できるスキルがあるんだよ。レアスキルだから持っている人はあまりいないみたいだけどね」

「それめちゃくちゃ嫌だな……」


 オレの【観察】も似たようなものだし、もしかしたらそのうち【鑑定】に進化するかもな。

 根性のスキル詳細がわからなかったりステータスが見えない相手がいるのは、【観察】が【鑑定】の下位互換だからかもしれない。

 願わくば【鑑定】持ちには出会いませんように。


「そういえば神精樹の森への立ち入り許可が出たっぽいよ」

「やっとか。気になっていたし、どんなものか拝んでやるか」

「拝んでやるなんて口が裂けても言っちゃダメだよ」

「おっと、確かに……」


 オレは口を閉じてから周囲を見渡した。近くに町人がいなくてよかったよ。

 神精樹の森は神秘的な雰囲気を感じるけど、町人によれば普段は伐採が行われているようだ。


 上質な木材が手に入るのは神精樹のおかげとのことで、町人は日々感謝しながら仕事をしている。

 うさん臭く聞こえるけど神精樹の森には魔物が一切生息していないと聞いて、こりゃ本物かと思った。

 町人達がのんびりと木を切ったり畑を耕せるのも神精樹のおかげってのはなんか納得できるような気がする。


 人が増え続けて栄えつつある現状を町長はやっぱり神精樹のおかげだと笑っている。

 村だった頃、盗賊団に目をつけられたここは滅びの危機を迎えていた。

 当時からなけなしの金で冒険者を雇って凌いでいたけどやがて限界がくる。


 そんな時、村を攻めた盗賊団は大嵐にあって全滅した。

 村人達はこれを神精樹の加護として、それ以来大々的に祭り上げられている。

 という話を町長から二時間くらいかけて聞かされた。

 うん、要するにそれだけの話なんだけど町長は当時の村の様子や歴史を細かく語るからそのくらい時間がかかったんだ。


「じゃあ、昼から森に行ってみるか」

「そうだね……あれ? なんか騒がしいね?」


 空き地から歩いて戻ってくると村の広場では大勢の人達が集まっている。

 人をかき分けて進むと、怪我をした村人が座っていた。

 見た感じ、林業関係者みたいだが。


「ま、ま、魔物が……出た……」


 顔面蒼白なった村人が唇を震わせてそう言った。

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