第28話 波乱の清算
バロンウルフ討伐で満身創痍だったけどオレ達は無事に下山できた。
回復アイテムが足りない分は魔物を討伐してポーションドロップを狙う。
【ドロップ率アップ】のおかげでサクサクドロップしてくれる。
進んでは休むを繰り返したから来た時の倍以上の時間がかかった。
この【ドロップ率アップ】がどのくらいのドロップ率が上がってるのかというと、体感ではプラス1.5倍程度だと思う。
しっかりと検証したわけじゃないけどおそらくそのくらいだ。
こんな状態だから当然ザイガンさん達からは質問攻めが、と思いきや静かだった。
怪我のこともあるけど、たぶん助けられておいてあれこれ追及するのは野暮だと思ったんだろう。
今回の大きな収穫はバロンウルフの毛皮と牙、爪だ。
これは市場では高値で取引されているらしくて、特に魔王体はかなり需要がある。
これを売った金をパーティメンバーにそれぞれ配分するとのことだ。
ザイガンさんによれば冒険者の戦いはパーティ清算までと言われている。
この清算で大揉めしてパーティメンバー同士でギクシャクしたり、最悪解散することもあるらしい。
特にレイドクエストによっては貢献度というものが重視されて、活躍しなければ当然報酬額は下がる。
これをどうまとめるか、レイドクエストのリーダーの手腕が問われる。
場所は冒険者ギルドの多目的室、ここで清算を行うみたいだ。
バロンウルフ討伐から帰還してから三日後、メンバーが席についている。
「皆、ご苦労だった。まずはリーダーとしての見通しの甘さを謝罪させてくれ」
「ザイガンさん、そういうのはよそうぜ」
「そうだ、あんな化け物相手に一人も死なずに済んだんだからよ」
「あんた盾になってくれなかったら確実に俺達は死んでいた」
どうやら殺伐とした展開は避けられそうだ。
皆の言う通りで、ザイガンさんがいなかったら全滅は免れなかっただろうな。
オレはオレで【精神耐性】を習得しなかったら絶対に殺されていた。
「そう言ってもらえると少しは気が楽になる。それじゃ清算しよう」
ザイガンさんは全員に報酬を分配した。
報酬額は合計800万ゼル、このうちオレの手元に渡されたのは合計四割だった。
リコと半々で一人当たり二割、いくらなんでも多すぎる。
「ザイガンさん、正気か?」
「新人歓迎祝いにしちゃ少なすぎたか?」
「オレ達みたいな新人がもらっていい額じゃない。それに他の人だって納得しないだろ」
「俺達が倒れた後、新人のお前らはあの化け物を仕留めちまった。手負いだったとはいえ、お前らは五級の強さを遥かに超えている」
ザイガンさんがそう言うと場が静まった。
他の人達の顔を見ると目を閉じたり、無骨な表情を浮かべている。
本当に大丈夫か? 後で揉めたりしないよな?
そう思っているとドーマさんが口を開いた。
「ザイガンに賛成だ。俺自身、シンマ達には感謝している」
「いや、待ってくれ。オレとリコだけで戦ったわけじゃないし、皆で勝ち取った勝利だろ」
「助けられておいて誇る気はない。無事に帰ってこられたのだってお前のおかげなんだからな」
「だからぁ、それを言い出したらオレ一人じゃバロンウルフに辿りつくこともできなかったんだからさ」
ドーマさんに反論していると、他の冒険者達もそれぞれの意見を口にした。
学ばせてもらっただの一から出直すだの命の恩人だの。
オレの中でムヤモヤってやつが募り始めた。
「シンマ、ここに俺の決定を反対する奴はいねぇ。お前は自覚がないのかもしれんが、それだけの功績を上げたんだ」
「ザイガンさん……」
「今回のことでお前はたぶん四級に昇級する。俺からも推薦してやる」
「それはありがたいけどさ」
「それに一つ謝らなきゃならねぇことがある」
ザイガンさんが視線を落として表情に暗い影を落とした。
今度はなんだ。試すような真似をして済まなかったとか言い出したら怒るぞ。
あの一騎打ちはオレが望んだ戦いだからな。
引き受けてくれて感謝しなきゃいけないのはオレのほうだ。
「情けない話だが、お前らの得体のしれない力に賭けるしかなかったんだ……。ほら、やたらとお前らを休ませて温存していただろ? ハッキリ言って俺達だけじゃあのバロンウルフに勝てる自信がなかった」
「いざって時に頼ってくれたんだろ? 嬉しいよ」
「へ? 俺は今回、お前にぶん殴られる覚悟をしていたんだが……」
「なんでだよ。一騎打ちまでさせてくれて特例で参加を認めてもらったんだぞ。それにオレがバロンウルフを討伐できたのもザイガンさん達が追い詰めてくれたからだ」
ザイガンさんが頬をポリポリとかいている。
なんでそんなに意外そうな顔をしているんだ。
「バロンウルフを討伐できたのも皆のおかげだよ。だからこの分配は考え直してくれ」
「いや、それはできねぇ。男が一度決めたことだ。ここにいる皆だってそういう顔をしているだろ?」
「そういう顔ってなんだよ。ドーマさんの仏頂面だけ見れば不満だらけだぞ」
「あいつは生まれつきそういう顔なんだよ。な、ドーマ?」
ザイガンさんに話を振られたドーマさんが頷いた。
なんだか妙な流れになってきたぞ。
「シンマ! 遠慮せず受け取れ!」
「そうだ! 俺達は認めてるんだからよ!」
「俺も一から鍛え直すつもりだ! お前のおかげで決心できたんだからな!」
冒険者達が一斉にザイガンさんに賛同している。
もう完全にオレ達が四割の報酬を受け取る流れだ。
そうか、そうだよな。新人のくせに遠慮なんかしちゃいけないよな。なんてなるわけないだろ。
「あぁぁぁあぁぁーーー! もうめんどくせぇ! オレは絶対受け取らねぇからな!」
「シ、シンマ! お前……」
「ザイガンさんよ! 感謝してくれるのは嬉しいけど、先輩は先輩らしくドッシリと構えてくれ! そうじゃなきゃ尊敬できねぇよ! こんな新人に気を使ってんじゃねぇ!」
「け、けどなぁ!」
「ケドもヘドもねぇーーーーー! やり直せ! お前らは納得してもオレは納得できねぇんだよ! 感謝してるならやり直せ!」
オレはテーブルの上に乗って吠えた。
それから貰った報酬をザイガンさんに叩きつけるように返す。
あまりにうるさかったのか、多目的室にギルド員達がやってくる騒ぎになった。
「何事ですか!」
「ここにいるザイガンさんがねぇ!」
「あーあー! わかった! わかった、やり直す!」
さすがにこれ以上の騒ぎにはしたくないだろう。
それからザイガンさんによる報酬の分配をやり直した。
リーダーであるザイガンさん、三級冒険者二人、それから四級の順に報酬額が多い。
オレ達の手元には30万ゼルが残った。
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