第29話 昇級
報酬のおかげでオレ達は安宿に泊まる必要がなくなった。
きちんとベッドが二つある広さの部屋にて、オレ達はくつろいでいる。
もう隣部屋の獣みたいないびきに悩まされたり、リコに抱き着かれずに済むと思うと心底ホッとするよ。
バロンウルフ討伐の際に手に入れた槍はオレにくれるとのことだ。
オレは換金して分配してもよかったんだけど、多目的室の問答でせめてこれだけは受け取ってくれということで落ち着く。
まぁ冷静に考えればこの槍は持っておきたい。
炎牙の槍という名前らしい。
たまに炎の追加効果もあるという優れものだ。
ぜひともこの槍を扱えるようになっておきたくなった。
スキル進化の特性を考えれば将来的には様々な武器を扱えたほうがいい。
今は剣で戦っているけど、そろそろ槍も気になっている。
槍は単純にリーチが長いから、対応できる魔物の幅も広がるはずだ。
オレはさっそく【剣(ソードマン)】に加えて【槍(長物好き)】を習得した。
ひどいスキル名だけどこれからいい名前になっていくと信じている。
金に余裕が出たから素材を買って【鉄器作成】でアイアンソード+2を鍛えて+4にしてみた。
この調子なら更に強くできると思ったけど、強化したらなんと剣が壊れてしまう。
どうも【鉄器作成】では+4が限界みたいだな。
あくまで【鉄器作成】であって武器作成じゃない。
つまりこれ以上の強化をするなら更にスキル進化させる必要がある。
オレは店でアイアンソードを買い直して再び+4まで強化した。
名前 :天上 シンマ
年齢 :16
性別 :男
HP :167
MP :46
力 :97
きようさ:75
体力 :89
素早さ :90
魔力 :34
スキル:【スキル進化】【呼吸】【心の耳】【観察】【風の回避】【風の歩行】【食事】【パンチ】【キック】
【自然治癒】【睡眠】【剣(ソードマン)】【槍(長物好き)】【アイテム圧縮術】【採取】【解体】【鉄器作成】
【弱毒耐性】【弱水耐性】【精神耐性】
名前:リコ
HP :82
MP :480
力 :23
きようさ:45
体力 :21
素早さ :20
魔力 :228
スキル:【魔法障壁】【???】
バロンウルフ討伐を経てだいぶ強くなったように思う。
今ならあのブラストベアーにも単身で勝てそうだ。
耐性に関してはおそらく攻撃を受けないと上がらないと見た。
あのバロンウルフの炎の牙や爪を受けていれば炎耐性くらいついたかもな。
ただしその前に死ぬ可能性のほうが高いから、これを積極的に強化するのは躊躇する。
気になるのはリコのステータスだ。
上昇量に関してはオレとは違ってきっと平均的なんだろう。
オレは【睡眠】【食事】のおかげで上がりやすくなっているだけだ。
オレが単身で戦えるような魔物でも、リコが狙われたら危ないというケースは意識しておかなきゃいけない。
これまでの戦いからすると、この【魔法障壁】は魔法攻撃に作用するもので物理攻撃には意味を成さないらしい。
対魔法戦じゃないと出番はないみたいだな。
それと未だ見えないスキルが気になる。
リコに聞いても首をかしげるばかりで、もしかしたら本人が自覚していないだけかもしれない。
最後にもう一つ、魔力の数値だ。
MPはともかくとして、この魔力は数値だけ見ればそれほど高いようには見えない。
オレがザイガンさんと一騎打ちした時にリコが見せたあの魔力は本当にこの数値の通りなのか?
宿のベッドでマルルーを抱いてすやすや寝ているリコの寝顔を見ても答えは出なかった。
* * *
ザイガンさんからの推薦があったのか、冒険者ギルドにてオレ達は四級に認定された。
昇級することで更に上の依頼を引き受けることができるから、ゴブリンやキラーウルフを狩る必要がない。
四級に相応しい魔物の討伐依頼を引き受けること一ヵ月弱、収入も安定してきた。
五級の報酬は採取依頼でレアな野草を採取しまくらない限りはどんなに稼げても数万ゼルだ。
高いように見えるけど、これはオレの世界でいうバイト一か月分の給料に等しい。
不思議と物価はオレがいた世界に近いものがあったからわかりやすかった。
命を懸けて討伐依頼をこなしてバイト代一か月分を多く見るかは人によると思う。
もちろん経費を考慮すれば更に手取りは少なくなる。
今は四級に上がったことで平均報酬は10万ゼル以上となかなか安定している。
「クソッ! やるようになりやがって!」
「オレがザイガンさんに勝った……?」
今日はザイガンさんとの模擬戦に初めて勝った。
これにはギルド中が沸いて褒めや称えやの大騒ぎだ。
髪から何までもみくちゃにされてしまった。
そしてなぜかリコがぎゅっ抱き着いてくる。
「はぁぁーーー……俺がトップだった時代は終わりかぁ」
「そんなことないだろ。次に戦えばたぶんまた負けるぞ」
「いや、力比べなんかじゃ負ける気はしないが技術的にはお前のほうが上だ。お前がいりゃこの町は安泰だな」
「それなんだけど、オレ達はそろそろ町を出ようと思ってな」
そう、オレ達はオレ達はいよいよ旅立つことにした。
悪くない居心地だけどせっかくの異世界だ。
この町で一生を終えるのは惜しいし、そもそも当初は王都を目指していたからな。
まだまだ知らないことは多くある。
特に魔道士のことは王都に行かないと何もわからない。
名残惜しいけどここらが潮時と判断した。
「そうか……寂しくなるな。いつ出発するんだ?」
「明後日かな」
「ずいぶんと急だな。そうだ。最後に見送り会をやらせてくれ。できるだけ多くの人間に声をかけるからよ」
「それはありがたいけどオレは酒を飲めないぞ」
「そんなもん気にするなって! オレが飲むからよ! ガハハハ!」
結局自分が飲みたいだけじゃないか。いや、嬉しいけどさ。
ザイガンさんは顔が広いから多くの人間が集まるだろう。
町の人達からも好かれてるみたいだしな。
「若い奴には旅させろって昔から言われてるからな! とりあえず王都にでも行って上には上がいると思い知れ! ガハハハッ!」
「打ちのめされないようにがんばるよ。ザイガンさん達も元気でやってくれよ」
オレが知ってることわざと微妙に違う。
この世界では本当にそう言われているのか、ザイガンさんが勘違いしてるのか判別が難しいな。
上には上がいる、か。言われなくてもすでに思い知っている。
あの神世界レダとかいう奴らだけじゃない。
王都の騎士団の中でも精鋭と呼ばれるグランリッターは末端の騎士でも二級以上の実力を有すると聞いた。
あのバロンウルフに苦戦しているようじゃ、そいつらと戦ったとしても相手にすらならないだろう。
「じゃあ、訓練は終わりにしてさっそく飲みにいくかぁ!」
「は? 今から?」
「当たり前だろ! 善は早まれ、だ!」
「やっぱりオレが知ってるのと違うなぁ……」
あまりに気が早いと思ったけど、なんとザイガンさんはすぐに人を集めた。
深夜、仕事終わりに集まってくれた人達の中にはオレが働いたことがある飲食店の店長もいる。
オレを正式に雇いたがっていたようで、旅に出ると言った際にはかなり残念がられた。
この見送り会は明け方まで続いた挙句、全員がグロッキーな状態でほぼ誰も動けなくなっていた。
あまりの惨状にオレはそっと店を出てしまう。眠ってしまったリコをおんぶしながら。
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