第27話 バロンウルフ討伐 4

 オレは小刻みにジャンプをした。トーン、トーンとリズムよく跳ぶ。

 化け物達は唸り声を上げながらも、そんなオレを警戒し始めた。

 さっきまでオレの心を縛り付けていた鎖みたいなものを一切感じない。


 キラーウルフ達とバロンウルフを真正面から見据えられる。

 さっきまでは見るのも恐ろしかったのに今は向かっていってもいいとさえ思う。

 いや、向かっていってもいいどころかこのまま蹴散らしてやりたい。


 オレは跳んで着地した直後、大地を蹴った。

 疾駆したオレはキラーウルフを飛閃でまとめて数匹を斬り飛ばす。

 続け様に襲ってきたキラーウルフの飛びかかり攻撃を跳んで回避、落ちると同時に体を回転させた。


 地上に着地する寸前に回転した剣がキラーウルフ達を切断した。

 地面に足をつけた後、見上げた先にいるのはバロンウルフだ。

 なんだこいつといった顔をしたまま、だらしなく舌を出している。

 さっきまでは殺す気満々だったくせにここにきて何を躊躇してやがるんだ。


「シ、シンマ……お前、突然何が……」

「ザイガンさん、下がっていてよ。後はオレがやる」

「バカ、何を……」

「ザイガンさん達がダメージを与えてくれたからな。こいつもかなり弱っている」


 そう、バロンウルフだって無傷じゃない。

 それでも余裕で殺せる相手ならオレに襲いかかっているはずだ。

 こいつは今の自分でオレを倒せるかどうかわからないと本能で感じている。


「行くぞ、犬っころ」

「ガルルルアァァァーーーーーーッ!」


 オレの挑発を理解したかのようにバロンウルフは炎の牙を突き立ててきた。

 オレは【観察】で相手の動きをよく見る。

 炎の牙を寸前のところで回避して、顔面の横を斬りつけた。


 ステータス差は歴然だけど、今のオレには危なっかしい動きをこなせる精神がある。

 いわゆる度胸がついたってやつだ。

 【精神耐性】はあらゆる局面でメンタルが強くなるという一見して地味なものだろう。


 だけどこれが勝負時にとんでもない効果を発揮する。

 どんな勝負でもあと一歩踏み込めば勝てたみたいなことがあるだろう。

 この【精神耐性】があればそれを実行できる。


「ガァァァァッ……!」

「はぁぁぁッ!」


 顔を斬りつけられたバロンウルフは後ろに跳ぶ。

 左に跳び、右に跳び、ひたすら縦横無尽に駆けた。

 高い素早さを活かして翻弄する気だろう。


 確かにあいつの攻撃を食らえば今のオレなら助からない。

 かといってオレの器用さじゃあいつに攻撃を当てるのは難しいだろう。

 攻撃のチャンスはあいつが接近してきた時だ。


 つまりチャンスは一瞬、【精神耐性】がなければそんな度胸なんて存在しない。

 だけどやるしかなかった。

 ザイガンさん達はほとんど戦える状態じゃない。


 リコの氷柱もこの素早さじゃまず当たらないだろう。

 と、思ったところでぴとりとリコがくっついてきた。

 背中合わせの状態だ。


「リコ、やってくれるのか?」

(氷で足止め……)


 リコが魔力を込めて氷の津波を前方に放った。

 だけど氷の津波が放たれた時にはバロンウルフはそこを通過している。

 やっぱり速すぎて当たらないんだ。


 今度は氷柱を連発するけどかすりもしない。

 一見して無駄に見えるけど、あのバロンウルフだって氷柱には当たりたくないんだ。

 ということはバロンウルフは氷柱とオレの隙を縫うようにして襲ってくる。


 よく見ろ、【観察】スキルで見極めろ。

 リコのおかげであいつも攻めあぐねている。

 時間が長ければ長いほど見極めやすくなるはずだ。


 そしてその時はきた。

 リコが氷柱を放って外した直後、そしてオレが向きを変える寸前。

 バロンウルフはリコを攻撃するという選択をした。


 目が利く奴だ。接近戦に不慣れな相手を見極めたな。

 バロンウルフが炎の牙をリコに突き立てようとする。

 オレは奴の口目がけて突進した。


 【観察】のおかげでオレが斬るべき箇所がわかった。

 オレの腕じゃ普通に攻撃してもあの化け物に致命傷を与えることはできない。

 つまり体の中で脆い部分を狙う。


「ガルルァァァーーー!」

「バカみたいに大口を開けやがったなッ!」


 口の中を目がけて多段斬りを浴びせると、バロンウルフは血しぶきを上げた。

 大量出血したバロンウルフは口を閉じられなくなり、激痛で悶えて横倒しになる。

 こいつ、外側は頑丈だけどさすがに口の中、それも歯周辺りはそんなわけにもいかないだろう。


 【観察】で見極めたところ、こいつは殺れると確信した時に炎の牙で攻撃する癖がある。

 だから狙うとしたらそこだと思った。

 オレの狙いが当たったおかげで、バロンウルフはピクピクと痙攣している。


「止めだッ!」


 倒れたバロンウルフ目がけてオレは走った。

 そして容赦なく目に突き刺して脳天まで届かせる。

 凄まじい雄叫びの後、バロンウルフは動かなくなった。


「よ、よし……たぶん勝ったよな……」


 オレは自分に言い聞かせるように呟いた。

 間もなくバロンウルフの体から霧状の魔素が出てくる。

 形作ったのは刃先が紅に染まった槍だ。


≪【ドロップ率アップ】を習得しました≫


「良き」


 なかなかの良スキルを覚えたな。

 これで魔物のドロップ品収集依頼なんかも捗るはずだ。

 ただこの手のスキルはどのくらい確率が上がってるのかわからない。

 過度な期待はせずに気持ち程度くらいに捉えておいたほうがいいだろう。


 喜びの余韻に浸っていたいところだけど、ここには怪我人がたくさんいる。

 オレの手持ちの回復アイテムだけじゃ全員を全回復とまではいかない。

 優先して使うべき人を考えるとまずはザイガンさん達、三級の人達だ。


「ザイガンさん、ポーションだ」

「あ、あぁ、助かった……」


 回復アイテムを使って回ると、それぞれ痛みが引かないながらも座って休憩できる程度には回復した。

 全員が一命をとりとめたのを確認したオレはようやく一息つく。

 バロンウルフの死体を見て、よく勝てたなと改めて思った。


「……シンマ、リコ。お前達の参加を認めて正解だった。足手まとい扱いして悪かった」

「いやいや、先輩として当然の判断だろ。それにオレ一人じゃまずバロンウルフまで辿り着けなかったよ」

「色々聞きたいことはあるが、ひとまず傷を癒そう」

「とりあえず少し休んだら解体をやっておくよ」


 宣言通りにオレは休んだ後で解体のために立ち上がると、ザイガンさんが口をあんぐりと開けていた。

 【自然治癒】のおかげで皆より治療が早いだけなんだ。だからそんな目で見ないでくれ。

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